武田薬品工業 シャイアーの買収 自前創薬の細りを埋める6兆2,133億円の買収
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2018年5月8日にShire社との間で買収に向けた協力契約を締結し、2019年1月8日に同社の発行済普通株式の100%を取得した。移転した対価は6兆2,133億円で、うち現金が3兆294億円、新たに発行した普通株式770,303,013株が3兆1,313億円を占める。
シャイアー株1株に対して現金30.33米ドルと買収後の武田株式0.839株を割り当てた。クリストフ・ウェバー社長CEOが主導し、希少疾患と血漿分画製剤を一括で取り込んだ。
- 背景
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1990年代の糖尿病治療薬アクトス以降、自前でアクトス級の新薬を生み出せず、国内市場も薬価抑制と特許切れで頭打ちに近づいていた。
2018年3月期の連結売上収益は1兆7,705億円、のれんは1兆292億円、有利子負債は9,857億円で、ミレニアム(2008年)、ナイコメッド(2011年)、ARIAD(2017年)と外から事業基盤を買い足してきた延長に、この買収はある。
- 内容
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買収はジャージー法に基づくスキーム・オブ・アレンジメントの方法で行われ、英国の企業買収・合併に関するシティ・コードが適用された。成立にはシャイアー社株主と武田薬品工業の株主の承認、ジャージー裁判所の認可、規制当局の承認が要り、不成立ならブレークフィーの支払義務が生じる建て付けだった。
対価の現金部分は、合意と同日に締結した総借入限度額308.5億米ドルのブリッジクレジット契約で押さえ、75億米ドルのタームローン、75億ユーロと55億米ドルの普通社債、37億米ドルの国際協力銀行ローンへ順次置き換えて、2018年12月21日にブリッジの残存借入権を消滅させた。
- 含意
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認識したのれんは3兆1,655億円、無形資産は3兆7,691億円。2019年3月期末の総資産は4兆1,065億円から13兆7,928億円へ、社債及び借入金は9,857億円から5兆7,510億円へ膨らんだ。うち1兆6,032億円はシャイアーから引き受けた負債である。
取得日から2019年3月期末までの寄与は売上収益3,092億円・当期損失1,000億円。買収完了から3期目の期末までに年間約23億米ドルの税引前シナジーを見込み、その実現に3期で約30億米ドルの臨時費用を要すると見込んだ。
いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
買収に頼る経営が得たものと、育てる時間の遅れ
この買収の性格は、対価の組み立てにあらわれている。6兆2,133億円のうち3兆1,313億円は新たに発行した自社株で、既存株主の持分を大きく薄めてでも獲得したかったのは、自前の研究所からは出てこなかった希少疾患のパイプラインだった。武田薬品工業は1989年のリュープリン以降、ミレニアム・ナイコメッド・ARIADと外から事業基盤を買い足してきたが、シャイアーはその延長にありながら桁が違う。時間を金で買わなければ世界の上位に残れないという危機感の裏返しでもあり、育てる時間を省いた代償は、看板のアリナミンを手放す形で返ってきたのだろう。
もっとも、買ったものが値札に見合うかは、のれんの行方が決める。5兆7,510億円へ膨らんだ有利子負債は、非中核事業の売却で2022年3月期に4兆3,454億円まで戻した一方、のれんは為替もあって減るどころか2024年3月期に5兆4,100億円へ増えている。IFRSではのれんを償却しないため、この塊は毎期の減損テストを通り続けるかぎり資産として残り、通らなくなった瞬間に一度で損失へ変わる。江戸期の薬種商から続いた会社を世界規模の医薬専業企業へ変えたこの判断が、拡張だったのか背伸びだったのかは、買い取ったパイプラインから生まれる新薬の数が決めるのだろう。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
買収の条件
買収の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 被取得企業 | Shire plc | ジャージー管区で設立。希少疾患に注力するバイオ医薬品会社 |
| 取得の法的形式 | ジャージー法に基づくスキーム・オブ・アレンジメント | 英国の企業買収・合併に関するシティ・コードが適用される |
| 協力契約の締結 | 2018年5月8日 | 株主の承認、ジャージー裁判所の認可、規制当局の承認を成立の条件とした |
| 企業結合日 | 2019年1月8日 | |
| 取得した議決権比率 | 100% | 発行済普通株式の全てを取得 |
| 取得原価(移転された対価) | 6,213,335百万円 | 現金3,029,431、当社株式3,131,282、現金決済型報酬の清算52,622の合計 |
| 1株あたりの対価 | 現金30.33米ドル+当社株式0.839株 | 米国預託株式を選ぶ場合は1.678株。ADS1株は買収後の当社株式0.5株に相当 |
| 対価として発行した株式 | 770,303,013株 | 発行価格4,065円。うち1,565,641百万円を資本金、残りを資本剰余金に計上 |
| 取得関連費用 | 23,750百万円 | 発生した時点で販売費及び一般管理費に計上 |
| 企業結合にかかる支出 | 2,891,937百万円 | 現金対価3,082,053とベーシス・アジャストメント37,107から取得現金227,223を控除 |
| 受け入れた無形資産 | 3,769,076百万円 | 取得時は暫定的に3,899,298。配分の完了で130,222減少した |
| 引き受けた社債及び借入金 | 1,603,199百万円 | シャイアーが負っていた有利子負債をそのまま引き受けた |
| のれん | 3,165,513百万円 | 取得時は暫定的に3,087,369。2020年3月期の配分完了で78,144増加した |
| のれんの会計処理 | 償却せず、毎期減損テストを実施 | IFRSを適用。本件で認識したのれんは税務上の控除の対象とならない |
| 買収資金のブリッジ | 総借入限度額308.5億米ドル | 2018年5月8日に締結。社債とタームローンへの置換えを終え12月21日に消滅 |
| 社債及び借入金(2019年3月期末) | 5,750,951百万円 | 2018年3月期末は985,662。新規調達は3兆2,959億円 |
| 取得日以降の業績寄与 | 売上収益309,198百万円/当期損失100,002百万円 | 2019年1月8日から2019年3月期末まで。取得対価の配分完了後の金額 |
| 見込んだシナジー | 年間約23億米ドル(税引前) | 買収完了から3期目の期末まで。実現に3期で約30億米ドルの臨時費用を見込む |
出所:武田薬品工業 有価証券報告書 第142期(2019年3月期)・第143期(2020年3月期)連結財務諸表注記31 企業結合、第142期【経営上の重要な契約等】
のれん・無形資産と有利子負債の推移
武田薬品工業:のれん・無形資産と有利子負債の推移
| (百万円) | のれん | 無形資産 | 有利子負債 | 総資産 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2014年3月期 | 814,671 | 1,135,597 | 859,984 | 4,569,144 | |
| 2015年3月期 | 821,911 | 939,381 | 729,381 | 4,296,192 | |
| 2016年3月期 | 779,316 | 743,128 | 768,224 | 3,824,085 | |
| 2017年3月期 | 1,019,574 | 1,063,037 | 1,144,890 | 4,355,782 | |
| 2018年3月期 | 1,029,248 | 1,014,264 | 985,662 | 4,106,463 | 買収の合意はこの期の末日後。のれんはミレニアム・ナイコメッド等による |
| 2019年3月期 | 4,240,251 | 4,751,169 | 5,750,951 | 13,792,773 | 取得対価の配分完了に伴う遡及修正後。当初報告ののれんは4,161,403 |
| 2020年3月期 | 4,012,528 | 4,171,361 | 5,093,304 | 12,821,094 | |
| 2021年3月期 | 4,033,917 | 3,909,106 | 4,635,371 | 12,912,293 | |
| 2022年3月期 | 4,407,749 | 3,818,544 | 4,345,411 | 13,178,018 | |
| 2023年3月期 | 4,790,723 | 4,269,657 | 4,382,341 | 13,957,750 | |
| 2024年3月期 | 5,410,067 | 4,274,682 | 4,843,752 | 15,108,792 |
出所:武田薬品工業 有価証券報告書 第137〜147期(連結財政状態計算書)
連結業績の推移
武田薬品工業:連結業績の推移
| (百万円) | 売上収益 | 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2014年3月期 | 1,691,930 | 90,348 | |
| 2015年3月期 | 1,777,824 | △145,775 | |
| 2016年3月期 | 1,807,378 | 80,166 | |
| 2017年3月期 | 1,732,051 | 114,940 | |
| 2018年3月期 | 1,770,531 | 186,886 | |
| 2019年3月期 | 2,097,224 | 135,192 | シャイアーの寄与は売上収益309,198。当期利益は遡及修正後で当初報告値は109,126 |
| 2020年3月期 | 3,291,188 | 44,241 | シャイアーを通年で連結した最初の期。営業利益は100,408 |
| 2021年3月期 | 3,197,812 | 376,005 | |
| 2022年3月期 | 3,569,006 | 230,059 | |
| 2023年3月期 | 4,027,478 | 317,017 | |
| 2024年3月期 | 4,263,762 | 144,067 |
出所:武田薬品工業 有価証券報告書 第137〜147期(連結純損益計算書)
同じ問いに直面した会社
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参考文献
- 武田薬品工業 有価証券報告書【沿革】
- 武田薬品工業 適時開示「武田薬品によるシャイアー社買収の申出について」
- 武田薬品工業 適時開示「Shire社買収完了のお知らせ」
- 武田薬品工業 有価証券報告書「第141期(2018年3月期)【事業等のリスク】」
- 武田薬品工業 有価証券報告書「第142期(2019年3月期)連結財務諸表注記31 企業結合」
- 武田薬品工業 有価証券報告書「第142期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】」
- 武田薬品工業 有価証券報告書「第143期(2020年3月期)連結財務諸表注記31 企業結合」