GA technologiesの創業者である樋口龍(ひぐち・りょう)氏は、プロサッカー選手を目指していた異色の起業家である。小学1年生から24歳になるまでサッカーに打ち込み、佐川急便の社会人サッカーチームに所属して、プロ選手になるチャンスを伺った。
だが、24歳の時にプロサッカー選手になる夢を諦め、2006年にビジネスの世界で勝負することを決めたという。ビジネスという土俵を選んだ理由は、ソフトバンクの創業者である孫正義氏の活躍をみて、ビジネスの世界にもリーダーという存在がいることに気づいたためらしい。
樋口龍氏はコンサルティングファームや外資系金融機関への就職を希望するものの、面接で落ちて入社ができなかったため、最終的にマンション販売会社に営業として就職した。就職後は1秒も無駄にしないという姿勢で仕事に臨み、結果として良好な販売成績をおさめたらしい。
樋口龍氏をマンション販売という不動産営業の世界から、テクノロジーの世界に誘ったのが、Facebookの株式上場であった。インターネットを活用したサービスを運営する企業が、時価総額を増大させていく様子を見て、IT業界で勝負することを決めたという。
そして、2013年に現在のGA technologiesを設立して営業マンから起業家に転身し、ITの分野で一旗上げようとした。
しかし、樋口龍氏は不動産販売の知識はあったものの、ITに関する知識は全く持ち合わせていなかった。このため、インフラを専門とするエンジニアに、アプリケーションの実装を依頼するなど、数々の失敗を犯したという。創業後1年間はエンジニアの採用に失敗し、事業運営は多難を極めたという。
そこで、樋口龍氏はITの知識を取り込むために、自らプログラミングスクールに通い、コーディングを経験することで、エンジニアとのコミュニケーションを取れるように努力した。この結果、エンジニアとの意思疎通が問題なくできるようになり、事業経営は徐々に好転した。
GA Technologiesは、社名に「テクノロジー」という文字を掲げているものの、実態は樋口龍氏がスポーツやマンション販売の世界で培ってきた「スポーツマンシップ」の価値観が反映されている。
現在に至るまで、同社はいわゆる「体育会系」の社風が根底に形成されていると推察される。
2019年にGA Technologiesは、賃貸ポータルサイトを運営する株式会社モダンスタンダード(2009年創業)の株式67%を約15億円で取得した。同社は東京都心部(特に赤坂・麻布・青山)の高級賃貸を取り扱うwebサイト「Modern Standard(月間100万PV)」を運営しており、Google検索におけるSEO対策によって検索上位に表示される点に特色があった。
GAの樋口社長はGoogle検索における順位の高さに着目し、ModernStandardの創業者である松田啓介氏に接触した。GAでは不動産業務の効率化に関するIT導入は進んでいたが、高額物件向けの賃貸ポータルサイトは運営しておらず、Modern Standardの客層の取り込みを狙って買収提案をした。
一方、松田氏は、Modern Standardの運営において、開発を全て外注に委託しており「スピード感が遅い」「ノウハウが外部流出」するリスクを認識していた。そこで、松田氏はGA Technologiesがエンジニアを擁している点を評価して、Modern Standardの売却を決定した。松田氏としては独立企業としてModern Standardを伸ばす方向性を描いていたため、事業売却にあたって悔しい思いを抱いたという。
SEO依存のサイトは、自社に集客の決定権がないので基本的には脆弱である。Googleの検索アルゴリズムのアップデートによって検索順位が落ちる可能性もあり、売上収益の予測はほぼ不可能。