筆者の見解
老舗の統治を、実力本位へ
この判断の核心は、事業の中身より先に、意思決定の様式に手を入れた点にある。茂木友三郎社長は、創業八家に連なる老舗の合議的な運営を、情報を社長に集めて速く指示を出すトップダウンへ組み替えようとした。米国の経営で身につけた指揮の型を、同族色の強い会社へ持ち込む試みには、緊張と反発もともなったと推察される。前社長の急逝で就任が早まった不利な条件のなかで、まず組織の動かし方そのものを変えにいったところに、この体制判断の性格が表れている。
もっとも、意思決定を速めること自体は、業績を好転させる保証ではなかった。しょうゆがPBに侵食され減益が続く状況は、トップダウンへの転換だけで解けるものではない。統治の様式を変えた1995年の判断が実を結ぶかどうかは、翌年に本格化する商品戦略と海外拡張がどこまで成果を上げるかにかかっていた。老舗の運営を速さで鍛え直すこの試みは、その後のキッコーマンが同族企業でありながら実力本位の統治を保てるかという、長い問いの入り口にあったといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月