大企業物流子会社の受け皿としての連続買収と「1兆円企業」ビジョン
大手メーカーが切り出す非中核の物流子会社を、SBSはどう引き受け続けて「1兆円企業」を目指したか
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- 概要
- 2018年8月にリコーロジスティクス(現SBSネクサード)を取得して以降、SBSホールディングスは東芝ロジ・古河物流・NSKロジ・ブリヂストン物流など大手メーカー系の物流子会社を相次いで取得し、売上高2000億円規模から「早期の年商1兆円」を掲げる総合物流企業へと事業規模を広げていった経営判断。
- 背景
- 2004年の雪印物流取得に始まる連続M&Aの型を、本業集中を強める大手メーカーが物流子会社を切り出す潮流に当てはめ、SBSは「大企業のノンコア物流子会社の受け皿」としての地位を業界内に定着させていった。
- 内容
- リコーロジスティクス(2018年8月・約180億円)、東芝ロジスティクス(2020年11月・約200億円)、古河物流(2021年12月)、NSKロジスティックス(2024年10月)、Blackbird Logistics(2025年4月)、ブリヂストン物流(2025年10月)と連続して株式を取得した。
- 含意
- 鎌田正彦社長は「自身のある分野でなければM&Aは成功しない」との考えのもと、リストラを行わず既存人員を営業へ再配置する手法で買収先の収益改善を図り、この積み重ねを「1兆円企業」構想へつなげていった。
反復可能な「受け皿」の仕組みと、次代への課題
2018年以降のリコー・東芝・古河・NSK・ブリヂストンという連続買収は、2004年の雪印物流取得以来SBSが磨いてきた「受け皿」型M&Aの型を、より大きな相手へ反復的に適用した延長線上にあるとみることができる。売上高が2000億円規模から5000億円規模へ、そして1兆円という新たな目標へ伸びていく過程は、単発の成功というより、切り出される物流子会社を継続的に見つけ、引き受け続ける仕組みそのものの成果とみられる。
一方で、リストラを行わず、社員の待遇改善と評判によって次の案件を呼び込むという鎌田正彦氏の手法は、被買収企業の従業員の抵抗感を和らげてきたとうかがえるが、買収の規模と件数が積み上がるほど、個々の統合作業の質をどう均質に保つかという課題も重くなっていく。創業以来一代で買収を重ねてきた経営体制が、なお拡大を続ける「1兆円企業」という目標へどうつながっていくかは、今後の焦点であるといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
受け皿モデルの原型(2004〜2006年)
SBSホールディングス(当時の商号は株式会社エスビーエス)は、2004年5月に雪印物流株式会社(現SBSフレック)の株式を取得した。雪印物流は、2000年の雪印乳業集団食中毒事件を機に雪印グループが事業を縮小するなかで切り離された物流子会社で、低温物流のノウハウと冷凍冷蔵設備を備えていた。大企業の非中核部門を丸ごと引き受けるという、後年に反復されていく買収の型が、ここで最初に据えられた[1]。
同社は2004年7月に純粋持株会社体制へ移行し、2006年4月には商号をSBSホールディングスへ改めて本社を東京都墨田区太平へ移した。この間、東急ロジスティックや食品物流の全通など複数の物流子会社を一括で取得し、2013年6月には買収先14社を一斉に「SBS〇〇」ブランドへ統一した。買収先の組織文化を残しながら財務とガバナンスだけを統合する運営方針が、この時期に固まっていった[2][3]。
大手メーカーの物流子会社切り出しと二つの買収軸
大手メーカー各社が本業への経営資源集中を強めるなか、傘下の物流子会社は「単なる『販管費』(コストセンター)」とみなされがちであった。鎌田正彦社長は、こうした会社では親会社が設備投資を認めず、仕事の範囲も給料も広がらないため、働く社員が不満を抱えていたと振り返っている。この構造こそが、SBSにとって買収の機会であった[4]。
鎌田氏はこうした会社に「20年以上前から注目し、立派に稼げる物流企業に育て上げようと心血を注いできた」と語り、2004年の雪印グループ以来の蓄積を強調している。買収の対象は大手メーカーが切り出す非中核部門にとどまらず、2021年時点でSBSは中小運送会社も続々と買収し、業界再編の「台風の目」となっていた[5][6]。
決断
リコーロジスティクスの取得(2018年8月)
2018年5月18日、リコーは全額出資子会社リコーロジスティクスの株式をSBSホールディングスへ譲渡すると発表した。リコーロジは1964年にリコーの物流部門から独立した企業で、国内外で精密機器物流を担っていた。SBSは発行済株式の66.7%を約180億円で取得し、同年8月1日付で連結子会社化した[7]。
リコーロジ取得後の2019年12月期、SBSの売上高は2555億円、経常利益は101.7億円に達し、買収前の2017年12月期比で売上高は約66%、経常利益は約57%それぞれ増加した。単発の大型買収がグループ全体の業績を押し上げる規模に達したことは、SBSが3PL事業者として一段上の位置に移ったことを示している[8]。
東芝ロジ・古河物流と「受け皿」の定着
2020年5月26日、東芝は物流子会社東芝ロジスティクスの株式66.6%をSBSホールディングスへ約200億円で譲渡すると発表し、同年11月に株式取得を完了した。2021年12月にはさらに古河電気工業系の古河物流を取得し、鉄鋼・非鉄金属分野の物流ノウハウをグループに加えた。なお、これらの取得価額は同社有価証券報告書に基づく推定額(リコーロジ約230億円・東芝ロジ約120億円)とは異なる[9][10]。
リコー・東芝・古河という製造業大手の物流子会社を相次いで取得したことで、SBSは「大企業のノンコア物流子会社の受け皿」という位置づけを業界内に定着させていった。鎌田正彦社長は買収の判断について、担当者から相談を受ければ「億円単位の案件でも3分でOKを出す」とし、最終的な責任はすべて自らが負うと語っている[11]。
結果
NSK・Blackbird・ブリヂストンへの拡大と「1兆円企業」ビジョン
買収の連鎖は2020年代半ばも続いた。2024年10月にはベアリング大手日本精工の物流子会社NSKロジスティックス(現SBS NSKロジスティクス)を取得し、2025年4月にはオランダの3PL持株会社Blackbird Logistics B.V.の株式80%を取得して欧州の拠点を確保した。同年10月にはブリヂストン物流の株式66.6%を取得し、タイヤ大手系列の物流ノウハウもグループに加わった[12][13]。
鎌田正彦社長は、2025年12月期の売上高が4850億円規模に達する見通しを示したうえで「目指すは早期の年商1兆円」と語り、日本通運などの業界最大手と互角に戦える規模を追う方針を明らかにした。取得したブリヂストン物流の営業利益率は2024年12月期で約1%にとどまるが、既存の買収先と同様に2〜3年で5%程度まで引き上げられるとの見通しを述べている[14][15]。
- SBSホールディングス 有価証券報告書【沿革】
- SBSホールディングス 有価証券報告書(2019年12月期)
- 日本経済新聞(2018年5月18日)「リコー、物流子会社をSBSに売却」
- 日本経済新聞(2020年5月26日)「SBSホールディングス、東芝ロジを200億円で買収」
- 週刊東洋経済 2025年11月8日号「トップに直撃 SBSホールディングス 社長 鎌田正彦『目指すは早期の年商1兆円 日本一の総合物流企業へ』」
- 東洋経済オンライン(2021年9月30日)「M&Aを連発!「物流の革命児」が宅配強化の思惑 中小運送会社も続々買収、業界再編で台風の目」