日清製粉グループ本社 豪アライド・ピナクル買収 豪州事業の取り込みによる海外展開と、3年後の大型減損
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2019年2月27日、日清製粉グループ本社は取締役会で、子会社の日清製粉とともに豪州の製粉会社アライド・ピナクルの親会社PFGトップコ1の全株式を取得することを決め、同日付でプライベート・エクイティ・ファンドのパシフィック・エクイティ・パートナーズ等と株式売買契約を締結した。
企業結合日は2019年4月1日、取得原価は589百万豪ドル(468億10百万円)で、対価は現金及び預金、全額を自己資金から充当した。取得した議決権比率は100%で、持株会社が20%、事業会社の日清製粉が80%を直接持つ形をとっている。米国・カナダに続く三極目の海外製粉拠点で、当時の意思決定者は見目信樹社長であった。
- 背景
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日清製粉は2012年に米国のミラー・ミリング、2013年にニュージーランドの製粉事業を買収してチャンピオン・フラワー・ミリングを設立、2018年にタイのパシフィック製粉工場資産を取得と、海外の拠点を段階的に積み上げてきた。2018年5月に長期ビジョン「NNI “Compass for the Future”」を定め、海外製粉事業を成長ドライブ事業のひとつに位置づけたことが、この取得の直接の足場になる。
豪州を選んだ理由に挙げたのは3点である。年率約1.6%という先進国では高い人口増加率と健康志向による高付加価値製品需要、小麦主産国での小麦関連情報の収集と生産者・穀物会社との関係構築による原料調達力の強化、そして小麦粉需要が旺盛なアジア市場への販売チャネルの重ね合わせ。
- 内容
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企業結合日に受け入れた資産は935億18百万円、引き受けた負債は878億9百万円で、取得原価との差額から411億1百万円ののれんが生じた。のれん以外に顧客関連資産211億33百万円が無形固定資産へ配分され、償却期間はのれんが10年、顧客関連資産が加重平均13.5年である。
連結のれん残高は2019年3月期末の50億16百万円から2020年3月期末に427億43百万円へ8.5倍に膨らみ、無形固定資産合計も104億62百万円から687億16百万円になった。PFG社の外部借入返済等のため、みずほ銀行から借り入れた450百万豪ドルを企業結合日と同日付で同額貸し付けている。
- 含意
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翌年からのコロナ禍が主要顧客のインストアベーカリー需要を直撃し、ウクライナ情勢によるコスト上昇が重なった。2023年3月期、豪州製粉事業の固定資産について投資額の回収が見込めなくなったとして帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失557億4百万円を特別損失に計上した。内訳はのれん313億3百万円、その他の無形固定資産78億18百万円、有形固定資産165億81百万円で、回収可能価額の算定に用いた割引率は11.9%である。
特別損失合計は565億65百万円に達し、親会社株主に帰属する当期純損失は103億81百万円となった。成長投資が織り込んだ将来キャッシュ・フローの見積もりが問われる転換点となった。
いつ何が起きたか 10件
筆者の見解
三極構想の完成と、成長投資の見積もり
この判断の中心にあるのは、成熟した国内製粉から成長を海外へ移すという長年の路線の帰結である。カナダ、米国と段階を踏んで積み上げてきた海外製粉の系譜は、豪州の取得で三極目の拠点を得て、対外的には完成形に近づいた。ただ、その完成が単一の案件に411億円ののれんと211億円の顧客関連資産を集中させ、グループのバランスシートを海外資産へ傾ける賭けでもあった点に、この決断の緊張がうかがえる。買収時の考え方は間違っていなかったという振り返りと、557億円の減損という帳簿上の現実は、成長投資が織り込む将来と、実際に訪れる外部環境との距離を映しているのだろう。
もっとも、その距離をどう縮めるかという問いには、すでに答えが出はじめている。豪州事業の立て直しはコスト削減・主力製品での売上拡大・収益性の高い市場の選択・ブランド化という自前の4施策で進み、市場の回復を前提に置かない計画に組み替えられた。本業の価格転嫁が全社を最高益へ押し戻したことで、減損の傷は数字のうえでは覆われている。しかしインドで二度目の減損が続いたことは、外部環境の見通せなさが特定の一件にとどまらないことを示している。想定外を織り込んだ投資リスクの見積もりをどこまで審査に組み込めるかは、なお開かれた課題であろう。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
買収の条件
買収の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 被取得企業 | PFG Topco1 Pty Ltd. | Allied Pinnacle社の全株式を保有する持株会社。小麦粉・プレミックス・ベーカリー関連原材料等の製造販売 |
| 取締役会決議日 | 2019年2月27日 | 同日付でPacific Equity Partners等と株式売買契約を締結 |
| 企業結合日 | 2019年4月1日 | |
| 取得の法的形式 | 現金を対価とする株式取得 | 持株会社と日清製粉がPFG社の全株式を直接取得 |
| 取得した議決権比率 | 100% | 議決権所有割合は持株会社20%・日清製粉80% |
| 取得原価 | 589百万豪ドル(46,810百万円) | 対価の種類は現金及び預金。取得資金は全額を自己資金から充当した |
| 主要な取得関連費用 | 1,040百万円 | アドバイザリー費用等。決議期の後発事象では1,100百万円の概算だった |
| 受け入れた資産・負債 | 資産93,518百万円・負債87,809百万円 | 流動資産34,243/固定資産59,275、流動負債15,483/固定負債72,326 |
| のれん | 41,101百万円 | 今後の事業展開で期待される将来の超過収益力の見積もりにより発生。10年間で均等償却 |
| 顧客関連資産 | 21,733百万円 | のれん以外の無形固定資産に配分された金額。加重平均償却期間は13.5年 |
| 買収先への貸付 | 450百万豪ドル | PFG社の外部借入返済等のため、みずほ銀行から借り入れ同日付で同額を貸付 |
| 減損損失 | 55,704百万円 | 2023年3月期に計上。のれん31,303/その他無形7,818/有形固定16,581 |
出所:日清製粉グループ本社 有価証券報告書 第175期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】・第176期(2020年3月期)【企業結合等関係】・第179期(2023年3月期)【減損損失】
のれんと無形固定資産の推移
日清製粉グループ本社:のれんと無形固定資産の推移
| (百万円) | のれん | 無形固定資産合計 | 総資産 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2014年3月期 | 5,008 | − | 471,039 | 無形固定資産合計は有報の逐語で照合できていない |
| 2015年3月期 | 10,355 | 21,629 | 547,096 | |
| 2016年3月期 | 8,610 | 18,489 | 548,120 | |
| 2017年3月期 | 7,050 | 15,089 | 555,337 | |
| 2018年3月期 | 5,623 | 12,409 | 591,512 | |
| 2019年3月期 | 5,016 | 10,462 | 594,754 | 2019年2月27日に取得を決議。取得の実行は期末後の4月1日で、のれんは未計上 |
| 2020年3月期 | 42,743 | 68,716 | 666,215 | 企業結合により、のれん41,101と顧客関連資産21,733を計上した |
| 2021年3月期 | 45,551 | 73,376 | 687,415 | |
| 2022年3月期 | 42,385 | 68,752 | 723,073 | |
| 2023年3月期 | 7,496 | 23,677 | 713,874 | 豪州製粉事業の減損でのれん31,303、その他の無形固定資産7,818が消えた |
| 2024年3月期 | 6,212 | 21,563 | 826,702 |
出所:日清製粉グループ本社 有価証券報告書 第170〜180期(連結貸借対照表)
製粉事業セグメントの推移
日清製粉グループ本社:製粉事業セグメントの推移
| (百万円) | 製粉事業売上高 | 製粉事業セグメント利益 | 製粉事業減損損失 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2014年3月期 | 207,752 | 9,381 | − | |
| 2015年3月期 | 237,327 | 7,611 | − | |
| 2016年3月期 | 262,463 | 9,244 | − | |
| 2017年3月期 | 233,618 | 9,823 | − | |
| 2018年3月期 | 234,799 | 9,957 | − | |
| 2019年3月期 | 245,943 | 9,179 | − | |
| 2020年3月期 | 306,745 | 9,326 | 3,869 | 豪州の新規連結で売上が増加。減損は米国製粉事業ののれん3,003を含む |
| 2021年3月期 | 285,798 | 6,317 | − | コロナ禍で豪州のプレミックス・ベーカリー関連原材料の販売が減少 |
| 2022年3月期 | 313,519 | 8,587 | 2,300 | 減損はニュージーランド製粉事業の固定資産 |
| 2023年3月期 | 419,782 | 17,618 | 55,704 | 豪州製粉事業の減損。のれん等の償却費が減り、利益は前期比205.2% |
| 2024年3月期 | 458,226 | 28,570 | − |
出所:日清製粉グループ本社 有価証券報告書 第170〜180期(セグメント情報)
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参考文献
- 日清製粉グループ本社 2026年3月期 第2四半期決算説明会 質疑応答(2025年10月31日)
- 日清製粉グループ本社 適時開示「Allied Pinnacle社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
- 日清製粉グループ本社 有価証券報告書「第175期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
- 日清製粉グループ本社 有価証券報告書「第176期(2020年3月期)【企業結合等関係】」
- 日清製粉グループ本社 有価証券報告書「第179期(2023年3月期)【減損損失】」
- 日清製粉グループ本社 決算説明会 質疑応答「2023年3月期 第2四半期決算説明会 質疑応答」
- 日清製粉グループ本社 決算説明会 質疑応答「2023年3月期 決算説明会 質疑応答」