EQTとのMBOと非公開化(2023年・ベネッセコーポレーションの決断)2023年 | ベネッセコーポレーションの決断

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何をなぜ決めたか:議決権の半分を創業家が保つ再出資と、東証プライム上場の返上

概要
概要

2023年11月10日、ベネッセホールディングスの取締役会は、創業家の福武總一郎氏・福武英明氏とEQTが進めるMBOについて、TOBが始まった場合に賛同し応募を推奨する意見を決議した。EQTのファンドが間接的に所有する買収目的会社ブルーム1が1株2,600円で実施したTOBは2024年3月4日に締め切られ、応募67,738,016株が下限47,818,900株を上回って成立した。2024年4月29日の臨時株主総会は株式併合を賛成99.93%で可決し、ベネッセホールディングスは5月17日に東証プライム市場を上場廃止となった。

発端は2022年12月上旬のEQTの打診である。2023年5月22日に非公開化を提案する意向表明書がベネッセホールディングスへ届いた。公表からTOB開始までに間が空いたのは、日本と中国の競争法と外国為替及び外国貿易法の手続の完了を前提条件に置いたためである。2024年1月29日の取締役会は福武英明氏を除く7名の全員一致で賛同を改めて決議し、TOBは翌30日に始まった。

背景
背景

ベネッセホールディングスの国内教育事業は、少子化と入試改革で旧来型の通信教育と塾の需要が縮小し、デジタル企業の参入を受けていた。介護事業は市場が拡大する一方で人材不足が続いた。同社は2023年5月に変革事業計画を策定し、最終年度の2025年度に営業利益320億円以上とROE10%以上を掲げた。実績は2023年3月期の営業利益が20,620百万円で、目標との差は11,380百万円に達した。

福武總一郎氏は福武書店の創業者である福武哲彦氏の長男で、1986年から2003年まで社長、2014年まで会長を務めた。福武英明氏は2014年から取締役を務め、その資産管理会社efu Investmentは2023年9月末で第2位株主だった。2名は教育事業の開始を第一の創業、介護事業の開始を第二の創業と位置づけ、教育のデジタル化・海外教育の強化・介護のM&Aを第三の創業に据えた。しかし、これらの施策は短期の収益性を悪化させる懸念があり、2名は上場を維持したままの実施を困難と判断した。

内容
内容

創業家の持分は2つに分かれた。efu Investmentと南方ホールディングスの16,504,000株(所有割合17.11%)はTOBに応募せず、福武財団や創業家の個人株主などの14,584,033株(同15.12%)は応募する契約を締結した。TOB後は福武財団が対価の一部を、efu Investmentが残した株式を、それぞれ中間持株会社ブルーム2へ出資する。出資比率はEQT側60対創業家40、議決権は50対50となる予定だった。買付予定数の下限は47,818,900株で上限はなく、資金は185,000百万円を上限とする借入れで一部を調達する計画だった。

価格は6名の特別委員会の下で交渉した。委員は社外取締役4名と社外監査役2名で、2023年6月2日に設置され、11月10日までに18回開催した。買付者側は第1回提案の2,300円から2,430円、2,510円、2,590円へ引き上げ、ベネッセホールディングスの2,600円への引き上げ要請を受けて11月1日に2,600円を提示した。この価格は公表前営業日の終値1,791.5円に45.13%のプレミアムを加えた水準で、大和証券のDCF法の算定結果2,121円〜2,965円の範囲内で中央値を超えていた。マジョリティ・オブ・マイノリティに相当する下限は設けなかった。

沿革:意思決定前後の出来事12件
考察:創業家を残したまま株主を絞る
考察

考察:創業家を残したまま株主を絞る

ベネッセホールディングスが非公開化を選んだ理由は、業績の破綻ではない。2024年3月期の営業利益は20,232百万円で、赤字ではなかった。問題は2025年度の目標である営業利益320億円との差にある。教育のデジタル化や介護のM&Aは短期の収益を押し下げ、上場を続ければ決算ごとの株価が投資判断を制約する。そこで創業家は再出資で議決権の半分を保ち、EQTの資本を迎えた。第三者への売却ではなく、創業家の関与を残したまま株主を絞る資本政策だったのだろう。

しかし、この構造は利益相反を抱えていた。提案側の福武英明氏は取締役であり、創業家の株主は応募と再出資によって一般株主と異なる立場に立った。特別委員会は18回開催し、第1回提案の2,300円から2,600円までの引き上げを実現した。ただし、2,600円はDCF法の上限2,965円を下回り、マジョリティ・オブ・マイノリティに相当する下限も設けなかった。公表後の株価は買付価格をやや上回って推移した。手続の公正性は整えたものの、一般株主の受け取った価格が十分だったかは問いとして残る。

応募は買付予定数の84.69%に達し、TOBは成立した。ベネッセホールディングスは2024年5月に上場廃止となり、2026年4月に持株会社体制を廃止した。組織の組み替えは非公開化の後に実行へ移った。一方、2025年度の営業利益320億円に到達したかは、2024年3月期より後の開示を確認できず、判定できない。決着の条件は、デジタル化と介護のM&Aが営業利益20,232百万円をどこまで押し上げるかにある。その数字が示されたとき、株主を絞った判断の是非が定まる。

Yutaka Sugiura, 2026年11月

数字で見る

数値:意思決定前後の事業数値3件

ベネッセコーポレーション:TOB開始前の株主の区分

  • 不応募(創業家)17%
  • 応募合意(創業家関係)15%
  • その他の株主68%
(株・%)所有株式数所有割合
不応募(efu Investment・南方ホールディングス)16,504,00017.11
応募合意(福武財団・創業家個人株主など)14,584,03315.12
その他の株主65,396,29867.78
ベネッセコーポレーション:TOB開始前の株主の区分
(株・%)所有株式数所有割合備考
不応募(efu Investment・南方ホールディングス)16,504,00017.11再出資で創業家の議決権を確保する株式
応募合意(福武財団・創業家個人株主など)14,584,03315.12福武財団は応募の対価の一部を再出資する予定
その他の株主65,396,29867.78自己株式を除く96,484,331株からの差引(計算)
出所:ブルーム1 公開買付届出書(2024年1月30日提出)【買付け等の目的】
出所:ブルーム1 公開買付届出書(2024年1月30日提出)【買付け等の目的】

ベネッセコーポレーション:業績と総資産の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)
(百万円)売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純利益総資産
2019年3月期439,43116,2454,902504,682
2020年3月期448,57721,2666,289517,425
2021年3月期427,53113,0893,122541,982
2022年3月期431,94320,1671,064540,598
2023年3月期411,87620,62011,353541,560
2024年3月期410,81520,2326,442528,391
ベネッセコーポレーション:業績と総資産の推移
(百万円)売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純利益総資産備考
2019年3月期439,43116,2454,902504,682
2020年3月期448,57721,2666,289517,425
2021年3月期427,53113,0893,122541,982
2022年3月期431,94320,1671,064540,598ベルリッツの全株式を譲渡。特別損失は9,908
2023年3月期411,87620,62011,353541,560ベルリッツが連結から外れた期
2024年3月期410,81520,2326,442528,391決済は2024年3月12日で、ブルーム1が親会社となった期
出所:ベネッセホールディングス 有価証券報告書 第66期〜第70期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)
出所:ベネッセホールディングス 有価証券報告書 第66期〜第70期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)

ベネッセコーポレーション:公開買付価格の提案の推移

(円・%)提案価格前営業日または当日の終値プレミアム
第1回(2023年9月30日)2,3001,829.525.72
第2回(2023年10月13日)2,4301,821.533.41
第3回(2023年10月23日)2,5101,77841.17
第4回(2023年10月30日)2,5901,75048
最終提案(2023年11月1日)2,6001,784.545.7
法的拘束力のある提案(2023年11月9日)2,6001,791.545.13
ベネッセコーポレーション:公開買付価格の提案の推移
(円・%)提案価格前営業日または当日の終値プレミアム備考
第1回(2023年9月30日)2,3001,829.525.72会社は著しく不十分として再検討を要請した
第2回(2023年10月13日)2,4301,821.533.41会社は未だ著しく不十分として再検討を要請した
第3回(2023年10月23日)2,5101,77841.17会社は依然として不十分として再検討を要請した
第4回(2023年10月30日)2,5901,75048会社が2,600円への引き上げを要請した
最終提案(2023年11月1日)2,6001,784.545.7会社は11月9日に応諾を連絡した
法的拘束力のある提案(2023年11月9日)2,6001,791.545.13翌10日の取締役会が賛同を決議した
出所:ベネッセホールディングス 意見表明報告書(2024年1月30日提出)【当該公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由】
出所:ベネッセホールディングス 意見表明報告書(2024年1月30日提出)【当該公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由】
人物:意思決定前後の取締役8名

取締役8名(2023年6月株主総会決議)

役員名役職
取締役業務執行担当領域
小林仁取締役:代表取締役社長CEO業務執行:担当:
福武英明取締役:取締役業務執行:担当:
滝山真也取締役:取締役専務執行役員業務執行:担当:
岩井睦雄取締役:取締役業務執行:担当:
野田由美子取締役:取締役業務執行:担当:
髙島宏平取締役:取締役業務執行:担当:
山河健二取締役:取締役専務執行役員業務執行:担当:
大西賢取締役:取締役業務執行:担当:
この一覧は2023年6月の定時株主総会の直後に提出された有価証券報告書の【役員の状況】による。
参考文献

参考文献

参考

  • ベネッセホールディングス 有価証券報告書 第66期〜第70期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)
  • ブルーム1 公開買付届出書「公開買付届出書」
  • ベネッセホールディングス 意見表明報告書「意見表明報告書」
  • ブルーム1 公開買付届出書の訂正届出書「公開買付届出書の訂正届出書」
  • ブルーム1 公開買付報告書「公開買付報告書」
  • ベネッセホールディングス 臨時報告書「臨時報告書(2024年4月29日開催の臨時株主総会における議決権行使結果)」
  • ベネッセホールディングス 有価証券報告書「第70期(2024年3月期)」
  • ベネッセホールディングス ニュースリリース「ベネッセグループの組織再編について(2026年4月1日付)」

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