三陽商会 再生プランによる粗利率への転換 売上規模の追求との決別と、2年間での基礎収益力の回復

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時期 2020年4月
当時の社長 大江伸治
論点 規模追求からの転換と収益構造の立て直し
何をなぜ決めたか
概要

2020年4月14日、2年間の経営計画として再生プランを公表した。基本方針は基礎収益力の回復とその為の事業構造改革の断行で、2022年2月期の営業黒字化を目標に置く。

測り方そのものを替えたのがこの計画の芯である。標準粗利率を2020年2月期の51.4%から2021年2月期に55.2%へ引き上げ、販管費を2年間で40億円削る。5月26日に大江伸治氏が社長に就任し、実行を担った。

背景

決算期変更で14ヶ月となった2020年2月期は4期連続の営業損失、2期連続の営業キャッシュ・フローのマイナスで、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在すると自ら認識していた。2020年3月末には従来の借入金90億円に加え、金融機関から40億円の追加融資を受けている。

プランを策定する過程で、従来の前売・売上高重視から利益額・利益率重視の商品政策と販売政策へ転換することを決めた。

内容

粗利率の改善は3本立てで、仕入許可制の導入と品番・SKUの削減による調達原価低減、セール販売による安易な帳尻合わせからの脱却、不採算事業の抜本改善を置いた。2021年2月期には不採算の店舗・売場を約150売場撤退する計画である。

資産の整理も並行した。GINZA TIMELESS 8(三陽銀座タワー)を2020年9月30日に引き渡して約67億円の譲渡益を計上し、2021年1月21日に決議した希望退職には180名が応じ、約13億円を特別損失に計上した。

含意

就任初年度の2021年2月期はコロナ禍で売上高379億円、営業損失89億円と危機の底を打ったが、譲渡益を含む特別利益85億円が当期純損失を50億円に抑えた。

2023年2月期には売上高583億円、営業利益22億円で7期ぶりの営業黒字へ転じ、以後2026年2月期まで黒字が続いている。1,100億円という過去の規模を手放し、600億円前後で利益の出る形へ作り替えた。

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筆者の見解
筆者の見解

規模を追わない、という選択

この判断の核心は、財務危機そのものへの対処ではなく、経営の物差しを取り替えた点にある。バーバリーが去った後も、会社は過去の規模を基準に売上計画を組み、そこへ希望的な観測を織り込んできた。再生プランが最初に置いたのは売上目標ではなく標準粗利率51.4%を55.2%へという数字で、続いて販管費の削減額が来る。量ではなく一着ごとの利益と、それを食う費用だけを測る——測り方を替えたことが、この再生の転回点だっただろう。

もっとも、縮めた均衡がどこまで続くかは、これからに委ねられている。600億円規模で利益の出る形は赤字の連鎖を断ち切ったが、2026年2月期の営業利益は13億円と前期から半減し、当期純利益を支えたのは政策保有株式の売却益であった。売上を追わずに利益を確保する経営は、裏を返せば伸びしろを自ら狭める選択でもある。規模と収益性のどちらを主軸に置くか——借り物の看板を失ったアパレルが出したこの答えは、規模の大きさを成功の尺度としてきた業界に、静かな問いを残している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
再生プランの条件

再生プランの条件

科目 概要 備考
再生プランの公表日 2020年4月14日 2年間の経営計画。基本方針は基礎収益力の回復とその為の事業構造改革の断行
掲げた黒字化の時期 2022年2月期 コロナ禍の影響を織り込んだうえで営業黒字化を目標に置いた
標準粗利率の計画 51.4%から55.2%へ 単体・製造間接費振替前。2020年2月期実績に対し2021年2月期は年間3.8ポイント改善
販管費の削減額 2年間で40億円 単体。295億円(2019年3月〜2020年2月実績)から255億円(2022年2月期計画)へ
撤退する売場 2021年2月期に約150売場 不採算の店舗・売場。黒字店舗に絞り込んで改善施策を実施する方針
資金の手当て 2020年3月末に40億円の追加融資 従来の借入金90億円に加えて実行。投資有価証券と保有資産の流動化も並行
希望退職の決議日 2021年1月21日 対象は従業員、募集人員150名程度、募集期間は2021年2月15日〜3月5日
希望退職の応募者数と費用 180名、約13億円 退職日は2021年3月31日。2021年2月期第4四半期に特別損失として計上
銀座の不動産の譲渡 2020年7月17日決議、9月30日引渡 GINZA TIMELESS 8(三陽銀座タワー)。帳簿価額50億円、譲渡価額は守秘義務により非開示
譲渡益 約67億円 2021年2月期第3四半期に固定資産売却益として特別利益に計上
減損損失 639百万円 2021年2月期第4四半期。ルビー・グループ株式の譲渡分239百万円と店舗設備368百万円
商標権の取得と組織再編 2021年3月と2021年9月 ポール・スチュアートの国内商標権を取得し、連結子会社サンヨーアパレルを吸収合併

出所:三陽商会「2020年2月期決算説明資料及び再生プラン」(2020年4月14日)、適時開示(希望退職・固定資産譲渡・減損損失)、有価証券報告書 第77期〜第79期

売上高・売上総利益と営業損益の推移

三陽商会:売上高・売上総利益と営業損益の推移

(百万円) 売上高売上総利益営業利益 備考
2015年12月期 97,41548,0076,577 バーバリーのライセンス契約が満了した期。営業黒字はこの期が最後になった
2016年12月期 67,61128,230△8,430
2017年12月期 62,54929,149△1,907
2018年12月期 59,09028,583△2,176
2020年2月期 68,86831,934△2,875 決算期変更により14ヶ月。4期連続の営業損失で継続企業の前提に疑義が生じた
2021年2月期 37,93914,515△8,913 再生プラン初年度。コロナ禍で売場が大部分休業し、売上高は前期の6割に減少した
2022年2月期 38,64218,547△1,058 売上は横ばいだが売上総利益は40億円増。粗利率の改善が先に効いた
2023年2月期 58,27336,1102,235 7期ぶりの営業黒字。収益認識会計基準の適用で販売手数料が販管費へ移った
2024年2月期 61,35338,1713,047
2025年2月期 60,52637,8072,715
2026年2月期 58,44835,5951,298
売上高と売上総利益
売上総利益(百万円)売上原価(百万円)

出所:三陽商会 有価証券報告書 第73〜83期(連結損益計算書)

営業損益と特別損益、当期純損益の推移

三陽商会:営業損益と特別損益、当期純損益の推移

(百万円) 営業利益特別利益特別損失当期純利益 備考
2015年12月期 6,5771373,3892,595
2016年12月期 △8,4303,5353,571△11,366 特別損失に希望退職249名に伴う事業構造改善費用約26億円を含む
2017年12月期 △1,9072,0151,051△1,025
2018年12月期 △2,1764,0992,947△819 特別損失に希望退職247名に伴う費用約22億円を含む
2020年2月期 △2,8751,8301,486△2,685
2021年2月期 △8,9138,4764,390△4,988 特別利益に銀座の不動産の譲渡益約67億円、特別損失に希望退職約13億円と減損639
2022年2月期 △1,0582,060624661 営業損失を残したまま、投資有価証券の売却益で当期純利益が黒字に転じた
2023年2月期 2,235671,1552,155 営業利益だけで当期純利益を賄えた最初の期
2024年2月期 3,047441832,787
2025年2月期 2,7151,9162074,007
2026年2月期 1,2984,1155234,113 政策保有株式の売却益が特別利益に立ち、当期純利益が営業利益を上回った

出所:三陽商会 有価証券報告書 第73〜83期(連結損益計算書)

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参考文献

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