芝浦電子へ友好的TOB(2025年・ミネベアミツミの決断)

更新:
論点 争奪戦で買収価格をどこまで上げるか
ミネベアミツミ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
台湾ヤゲオとの争奪戦に持ち込んだホワイトナイトとしての名乗り

何をなぜ決めたか:台湾ヤゲオとの争奪戦に持ち込んだホワイトナイトとしての名乗り

概要

ミネベアミツミは2025年4月10日の取締役会で芝浦電子の全株式を公開買付けで取得することを決め、同意なき買収を仕掛けた台湾のヤゲオ(国巨)にホワイトナイトとして対抗した。買付価格を4,500円から5,500円、さらに6,200円へと二度上げたが、応募は3,564,382株にとどまり、買付予定数の下限7,539,900株に届かず不成立に終わった。

背景

同社はベアリング・半導体・モーター・アクセス製品を"相合(そうごう)"経営で統括し、差別化の効くコア事業を買収で積み増してきた。コア事業「8本槍」の一つであるセンサ領域では、温度スイッチICやアナログ出力温度センサIC等を車載・エアコン・工作機械・医療用機器などへ供給していた。サーミスタ技術を中核とする芝浦電子は、その版図に欠けた一角であった。

内容

4月10日の決議は1株4,500円であったが、ヤゲオが4月17日に4,300円から5,400円へ上げたため、4月30日に5,500円への引き上げを提案し、5月2日にその価格で買付けを始めた。さらに8月14日に6,200円へ上げ、買付代金は93,094百万円となった。公開買付期間は延長を重ねて91営業日に及び、9月11日に終えた。

含意

日本の技術を守るという名分と、採算を崩さない価格判断とが、同じ争奪戦のなかで逆を向いた。芝浦電子の取締役会は9月16日にヤゲオの買付け(7,130円)へ賛同と応募推奨を決め、10月20日に終えたヤゲオの公開買付けには13,313,084株が応募して成立した。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 12名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

考察:技術を守る名分と、崩さなかった規律
考察

考察:技術を守る名分と、崩さなかった規律

温度センサーは版図に欠けた領域であり、名乗りを上げる動機は十分にあった。ただ、同意なき買収への対抗は価格の吊り上げを招きやすく、規律を守れば守るほど、優位に立てる確率は下がっていく。技術を守る名分と、採算を守る規律とが、同じ争奪戦のなかで逆を向いた点に、この決断の難しさがうかがえる。

結果だけを見れば、ミネベアミツミは芝浦電子を得られなかった。応募は3,564,382株で、下限7,539,900株の半分にも届いていない。もっとも、規律を崩さずに退いたことを敗北と切り捨ててよいのかは、なお定まらない。買収を見送った2026年3月期に、売上高は1兆6,643億円、営業利益は1,039億円といずれも過去最高を更新し、のれんは前期から648百万円しか増えていない。かつて自らも敵対的買収を仕掛け、逆に買収の標的にもなった同社にとって、今回の争奪戦は"買う側"の作法を問い直す場でもあった。日本の技術をどう守るのか、その名分を掲げた企業が価格の壁の前で退いたとき、経済安全保障と市場原理のどちらが優先されるのか——芝浦電子の行方は、その問いを残したのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

ミネベアミツミ:のれんと有利子負債の推移

のれん(百万円)有利子負債率(%)
ミネベアミツミ:のれんと有利子負債の推移
(百万円) のれん有利子負債総資産 備考
2021年3月期 41,439268,621976,771 前期末の18,626から積み上がった。2020年にエイブリックと経営統合している
2022年3月期 42,865270,7111,104,192
2023年3月期 46,332354,3311,299,828
2024年3月期 47,722362,3831,416,122
2025年3月期 60,516463,5971,584,814 ミネベアパワーデバイスの企業結合で11,303ののれんが生じた期
2026年3月期 61,164482,4911,814,837 芝浦電子は取得に至らず、のれんは前期から648の増加にとどまった
出所:ミネベアミツミ 有価証券報告書 第76期〜第81期(連結財政状態計算書、社債及び借入金、のれん及び無形資産)
出所:ミネベアミツミ 有価証券報告書 第76期〜第81期(連結財政状態計算書、社債及び借入金、のれん及び無形資産)

ミネベアミツミ:売上高と営業利益の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)
ミネベアミツミ:売上高と営業利益の推移
(百万円) 売上高営業利益 備考
2021年3月期 988,42451,166
2022年3月期 1,124,14092,136
2023年3月期 1,292,20397,530
2024年3月期 1,402,12773,536
2025年3月期 1,522,70394,482
2026年3月期 1,664,387103,979 買収を見送った期に売上高・営業利益とも過去最高を更新した
出所:ミネベアミツミ 有価証券報告書 第76期〜第81期(連結損益計算書)
出所:ミネベアミツミ 有価証券報告書 第76期〜第81期(連結損益計算書)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
対象会社 株式会社芝浦電子 サーミスタと温度・湿度・風速センサ等の製造販売。1953年設立、資本金21億4,461万円
取締役会の決議日 2025年4月10日 普通株式の全部を公開買付けで取得することを決めた
決議時の買付価格 1株4,500円 3月28日に4,300円を提案し3月29日に4,500円へ。4月9日に特別委員会が応諾
開始時の買付価格 1株5,500円 ヤゲオが4月17日に5,400円へ上げたため、4月30日に引き上げを提案した
引き上げ後の買付価格 1株6,200円 2025年8月14日に変更。ヤゲオの買付価格と同額に並べた
公開買付期間 2025年5月2日〜9月11日 91営業日。開始時は20営業日で、対抗買付けに合わせて延長を重ねた
買付予定数 15,015,111株 下限は7,539,900株。上限は設けていない
買付代金 93,094百万円 6,200円へ上げた後の額。5,500円の時点では82,583百万円
買付け後の株券等所有割合 99.59%(予定) 買付け前は0.00%。対象会社の総株主等の議決権の数は150,863個
共同出資者 アドバンテッジパートナーズ 買付資金の一部を負担し、取得後に対象会社株式の10.9%の譲渡を受ける
買収の理由 温度センサ領域での相合 技術・製品開発の機会創出、販路のグローバル展開、製造・物流の効率化
応募株券等の数 3,564,382株 下限7,539,900株の半分に届かなかった
公開買付けの成否 不成立 2025年9月12日に結果を公表し、応募株券等の全部の買付けを行わなかった
対象会社のその後 ヤゲオが議決権88.32%を取得 10月20日に終えたヤゲオの公開買付けに13,313,084株が応募して成立した
出所:ミネベアミツミ 公開買付届出書(2025年5月2日)・同訂正届出書(2025年8月14日)・公開買付報告書(2025年9月12日)、有価証券報告書 第80期(2025年3月期)【後発事象】
出所:ミネベアミツミ 公開買付届出書(2025年5月2日)・同訂正届出書(2025年8月14日)・公開買付報告書(2025年9月12日)、有価証券報告書 第80期(2025年3月期)【後発事象】
当時の取締役 12名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • ミネベアミツミ 公開買付届出書(2025年5月2日)
  • ミネベアミツミ 訂正公開買付届出書(2025年8月14日)
  • ミネベアミツミ 公開買付報告書(2025年9月12日)
  • ミネベアミツミ 有価証券報告書 第80期(2025年3月期・連結)
  • ミネベアミツミ 有価証券報告書 第81期(2026年3月期・連結)
  • ミネベアミツミ 2025年3月期 決算説明会 質疑応答
  • 芝浦電子 臨時報告書(2025年10月21日)
  • ミネベアミツミ 公開買付届出書「株式会社芝浦電子株式に対する公開買付届出書」
  • ミネベアミツミ 訂正公開買付届出書「公開買付届出書の訂正届出書(買付価格の変更)」
  • ミネベアミツミ 公開買付報告書「株式会社芝浦電子株式に対する公開買付報告書」
  • ミネベアミツミ 有価証券報告書「第80期(2024年4月1日〜2025年3月31日)有価証券報告書」
  • ミネベアミツミ 有価証券報告書「第81期(2025年4月1日〜2026年3月31日)有価証券報告書」
  • 芝浦電子 臨時報告書「親会社及び主要株主の異動に関する臨時報告書」

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