トップ交代

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トップ交代

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トップ交代の歴史には、日本的経営の構造的特質が凝縮されている。年功序列・終身雇用・コンセンサス経営という三つの制度的基盤が、「誰がトップになるか」の選択を深く規定してきたが、その規定力は時代とともに変質しつつある。

高度成長期までのトップ交代は、創業者の引退と社内序列に基づく後継指名が主流であった。この時代のリーダーシップモデルは「組織を代表する」ことに重心があり、トップ個人の構想力よりも組織的コンセンサスの維持が求められた。市場が拡大し続ける環境では、大きな戦略変更よりも着実な実行が成果を生んだため、このモデルは合理的に機能した。

構造変化の最初の兆候は、バブル崩壊後の「再建型」トップ交代に現れた。経営危機に陥った企業が外部からプロ経営者を招聘するパターンが1990年代後半から増加した。V字回復を実現した事例は「カリスマ経営者」として称賛されたが、同時にそれは日本的な社内昇格モデルの限界を暗に認めるものでもあった。注目すべきは、外部招聘で立て直した後に再び品質問題や業績悪化に見舞われたケースが複数記録されている点である。トップ個人の手腕で短期的に業績を改善できても、組織の構造的課題はトップの交代だけでは解決しないという教訓は、リーダーシップの万能性に対する重要な留保である。

2000年代以降、二つのトレンドがトップ交代の性格を変えつつある。第一は「事業再定義型」の交代である。カメラから事務機へ、SPAモデルの確立、デジタルトランスフォーメーション——事業の根本的な転換を伴うトップ交代が増えている。これは市場環境の変化速度が上がり、「現業の延長線上にある改善」ではなく「何の会社であるかの再定義」がトップに求められるようになったことの反映である。

第二のトレンドは、コーポレートガバナンス・コード(2015年導入)の影響である。指名委員会の設置義務化やスキルマトリクスの開示要求は、トップ交代のプロセスを「密室の人事」から「透明性のある選定」へと変化させつつある。後継者計画(サクセッションプラン)の策定が上場企業の基本動作となったことで、「次のリーダーに何を求めるか」が取締役会の公式な議題として議論されるようになった。この制度的変化は、日本企業のトップ交代を「属人的な判断」から「組織的なプロセス」へと転換する構造的な力として作用している。

同族企業における事業承継問題は、少子高齢化という人口動態と結びついて日本固有の課題を形成している。創業者の強烈なリーダーシップに依存した企業では、後継者が見つからない——あるいは後継者がいてもカリスマ性を引き継げない——という「承継の壁」が成長の天井になりうる。創業家が身を引き専門経営者に委ねる判断が次の成長を可能にした事例がある一方、創業家の退場が企業の求心力の喪失につながった事例もあり、「正解」は企業ごとに異なる。

IT・ベンチャー企業における若いリーダーの交代は、伝統的企業とは異なる動態を示す。不祥事や市場環境の急変によるトップ交代が短期間に発生し、企業の寿命そのものがトップの任期より短くなりうるリスクがある。しかし同時に、急成長フェーズから安定フェーズへの移行期に適切なリーダーを選べるかが企業の長期存続を左右するという構造は、老舗企業もスタートアップも変わらない。

トップ交代の記録が一貫して示すのは、「正しいリーダー」は固定的な属性ではなく、企業の状態と外部環境の関数であるということだ。安定期・危機時・変革期でそれぞれ異なる資質が求められ、時代が変わればリーダーの適性も変わる。この動態を理解したうえで、適切なタイミングで適切なリーダーを選ぶ「制度」を持てるかどうかが、個人の才覚に依存しない持続的な企業経営の鍵である。