アマゾンジャパンとの取引開始と専用ドライバー1万人体制への経営資源集中
ネットスーパー配送で培ったラストマイルの実績を、丸和運輸機関はEC物流の主役獲得にどう賭けたか
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- 概要
- 2017年、丸和運輸機関はアマゾンジャパンとの配送取引を開始し、東京23区を中心に配送車1万台体制の確立を目指す方針を打ち出した。2006年のイトーヨーカ堂ネットスーパー配送受託で培ったラストマイル運用のノウハウを軸に、EC物流専業化へ経営資源を集中させた判断である。
- 背景
- ヤマト運輸が2017年に「宅配クライシス」による構造改革と大幅値上げに動き、宅配便業界の一角に荷物の受け皿を求める空白が生じていた。丸和運輸機関は2006年のイトーヨーカ堂ネットスーパー配送受託以来、店舗発の即日配送という当時は低収益とされた領域で運用実績を積み重ねていた。
- 内容
- 2017年5月の決算会見でアマゾン向け宅配事業への参入を表明し、翌6月から配送を開始した。2018年にはNS丸和ロジスティクスを設立してアマゾン向け配送拠点を専門運営する体制を整え、2019年には専用ドライバー1万人確保の計画を掲げた。
- 含意
- EC物流の主役プレイヤーという新たな立ち位置を得た一方、2021年8月時点でアマゾン関連売上が全体の23.4%に達するなど、大口顧客への依存というリスクも表面化した。この集中投資は2022年のファイズホールディングス買収など、後年のEC物流強化策へとつながったとみられる。
集中がもたらした成長と脆さ
2017年の判断の核心は、宅配便業界に生じた一時的な空白を、2006年以来蓄積してきたラストマイル運用の実績で埋めにいった点にある。小売向け3PLという既存の強みを土台に、個人宅配という不慣れな領域へ経営資源を集中させる選択は、当時の丸和運輸機関にとって決して小さな賭けではなかったとみることができる。配送車1万台、ドライバー1万人という規模の目標を掲げたことも、その本気度を物語っている。
もっとも、EC物流の主役プレイヤーという立場を得た代償として、大口顧客への依存という論点は消えなかった。2021年に開示されたアマゾン関連売上比率23.4%という数字は、同業のファイズホールディングスが契約を打ち切られた事例と重ね合わせると、集中投資の裏側にある脆さを示しているといえる。2022年のファイズHD買収は、この依存構造そのものを取り込むことで、リスクを自社の成長機会に転じようとする次の一手であったとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
クイック桃太郎便とネットスーパー受託で蓄積したラストマイル
丸和運輸機関は1988年に貨物軽自動車運送「クイック桃太郎便」を始め、小売店舗発の即日配送を手掛けてきた。同社は小売特化型の3PLを主力事業としていたが、店舗から消費者へ直接届ける個人向け配送のノウハウも並行して積み上げていた。この蓄積が、後年のEC物流参入における下地になったとみることができる[1]。
2006年には、イトーヨーカ堂が試験的に始めたネットスーパーの配送業務を受託した。当時のネットスーパーは配送効率の低さから収益化が難しい新業態とみられていたが、同社はこの領域に経営資源を投じ、店舗からの即日配送と常温・冷蔵混載という運用ノウハウを早期に蓄積した。この実践が、2017年のアマゾンジャパンとの取引へ地続きにつながっていく[2]。
宅配クライシスが開けた業界の空白
2017年4月28日、ヤマト運輸の長尾裕社長は会見で「デリバリー事業の構造改革」を発表した。ネット通販の急増でヤマトの宅配現場は行き詰まり、未払い残業代の発覚や荷物受け入れ抑制の必要にも直面していた。宅配便シェアの半分近くを握る最大手が荷受けを絞る方針を示したことで、業界には荷物の受け皿を求める空白が生じつつあった[3]。
同年10月には、ヤマトが個人向け運賃を27年ぶりに平均15%値上げし、大口荷主との交渉でも大幅な引き上げを迫った。この中で存在感を増したのが、地域限定の配送会社「デリバリープロバイダ」であった。丸和運輸機関もその一角として名を連ね、ヤマトが抱えきれなくなった宅配需要を引き受ける立場に置かれていた[4]。
決断
2017年、宅配事業への本格参入表明
2017年5月30日の決算会見で、和佐見勝社長は宅配事業への本格参入を表明した。「EC大手はいま困っている。それを解決するためにやる」と語り、名指しは避けながらもアマゾンジャパンを念頭に置いた発言であることは明らかであった。翌6月からアマゾン向けの配送を開始し、小売向け3PLを主力としてきた同社は個人宅配という新たな領域を事業の柱に加えた[5]。
同社が掲げた目標は、東京23区を中心に配送車1万台体制を早期に確立するという規模のものであった。アマゾンは宅配便個数の急増でヤマトの当日配達が縮小するなか、地域限定の配送会社との連携を拡大させており、丸和運輸機関はその受け皿の一つとして名乗りを上げた。人材の確保が課題になることは、参入表明の当初から見えていた[6]。
専用拠点の設立とドライバー1万人確保計画
2018年5月、同社は東京都荒川区に株式会社NS丸和ロジスティクスを設立し、アマゾン向け配送拠点を専門に運営する体制を整えた。同年3月には国際トランスサービス及び関東運送から商品個配事業を事業譲受で取得し、首都圏のラストワンマイル配送網を広げていた。専用の子会社を置くという判断に、この取引への傾注ぶりがうかがえる[7]。
2019年、和佐見社長は専門のドライバーを1万人確保する計画を明らかにした。当時抱える宅配ドライバー2000人弱のうち、パートナー企業が7割、個人事業主が2.5割を占めており、今後は個人事業主の独立開業を支援して比率を高める方針を語った。月額60万円の売り上げ保証や週休2日制を掲げ、ドライバーの確保そのものを経営課題の中心に据えた[8]。
結果
成長ドライバーとしてのアマゾン、契約解除という緊張
2019年末の取材で、和佐見社長はアマゾンとの取引について「向こう2〜3年はアマゾンとの仕事が間違いなく成長ドライバーになるだろう」と語った。丸和運輸機関は東京都内と北関東を中心に配送を受託し、物流センター内業務や幹線輸送にも領域を広げていた。EC物流の急拡大が、同社の業績を押し上げる主要因の一つになりつつあった[9]。
一方で、同じデリバリープロバイダであったファイズホールディングスは、2018年末ごろにアマゾンとの配送契約を打ち切られたとみられていた。和佐見社長はこの一件について「配送の品質が悪ければ当然契約を打ち切られることはある」と述べており、大口顧客への依存が一つの契約でひっくり返りうる緊張感を、同業他社の事例が示していた[10]。
依存度23.4%の開示と、取り込みによる次の一手
2021年8月、丸和運輸機関は2021年3月末時点でアマゾン関連の売り上げが全体の約23.4%を占めることが明らかになった。和佐見社長は「倉庫内業務などを受託すれば、関係の維持と深耕につながる」とし、宅配だけでなく倉庫内業務や中規模拠点の運営受託にも力を入れた。EC物流の主役という立場は、大口顧客への集中というリスクと表裏の関係にあった[11]。
2022年3月、同社はアマゾンの大型拠点で倉庫内業務や拠点間輸送を受託していたファイズホールディングスを公開買付で取得し、連結子会社化した。2017年の取引開始以来分散していたアマゾン関連の物流機能を、買収というかたちで自社グループへ取り込む動きであり、EC物流専業化を進めてきた同社の経営資源集中の延長線上にある判断であった[12]。
- 週刊東洋経済 2017年6月24日号「アマゾン膨張」
- 週刊東洋経済 2017年10月14日号「ニュース最前線 ヤマトが強気の値上げ」
- 週刊東洋経済 2019年6月22日号「ニュース最前線 配送業者と契約打ち切り」
- 週刊東洋経済 2019年11月9日号「EC・決済覇権バトル」
- 週刊東洋経済 2019年12月21日号「深層リポート 自前の物流網を一気に拡大」
- 週刊東洋経済 2021年8月28日号「物流頂上決戦」
- AZ-COM丸和ホールディングス 統合報告書 2022
- 株式会社丸和運輸機関 有価証券報告書(東京証券取引所上場時)【沿革】
- 丸和運輸機関 有価証券報告書(2018年3月期)