入園者数の成長から客単価の成長への転換と入園料の段階的な引き上げ

2011年実施

人数を増やすか、一人あたりの消費を高めるか——用地の限られた集客事業が選んだ成長軸

時期 2011年4月
意思決定者 上西京一郎(社長)
論点 成長軸と価格戦略
概要
2011年、オリエンタルランドは上西京一郎社長のもとで東京ディズニーランド・シーの入園料の段階的な引き上げを始め、入園者数を積み増す成長から、来園者一人あたりの消費額を高める成長へと収益の設計を切り替えた経営判断。舞浜の埋立地という限られた用地で人数の拡大に上限が近づくなか、価格と商品・体験でゲスト1人当たり売上高を押し上げる方向を選んだ。
背景
1983年開園の東京ディズニーランドはリピーター中心の集客で伸び、1990年代半ばに単一パークの入園者数が頭打ちになった。2001年の東京ディズニーシー開業で2パーク体制としたが、施設が立つ舞浜は東京湾の埋立地で用地に限りがあり、パークを増やして人数を積み増す余地は乏しかった。
内容
2010年12月、オリエンタルランドは翌2011年4月からの値上げを発表し、大人の1デーパスポートを5,800円から6,200円へ引き上げた。約4年半ぶりの改定で、過去の施設投資の回収が狙いだった。以後も数年おきに価格を改定し、2021年には曜日や季節で料金が動く変動価格制を導入した。
含意
値上げののちも来園者はほとんど離れず、ゲスト1人あたりの消費額の上昇が収益を牽引した。2019年3月期は連結売上高5,256億円・営業利益約1,293億円で過去最高を更新し、年間入園者数も過去最高となった。人数の増加に頼らない収益構造へ組み替わった。
筆者の見解

数の成長が尽きた先を、単価で伸ばせるか

この判断の核心は、拡張の余地が乏しい立地で、人数を増やす成長を早めに手放し、来園者一人あたりの支払意思を引き出す成長に賭けた点にある。ほかに代えのきかない体験であればこそ、価格を上げても人は離れにくい。オリエンタルランドはその価格決定力を、値上げと体験の更新を同じ時期に示すことで保った。用地という物理的な天井にぶつかる前に、天井のない単価へ成長の軸を移したことが、コロナ後に人数を戻さないまま最高益を重ねられた理由といえる。

もっとも、単価で伸ばす成長は無限ではない。値上げは「気軽に行ける場所ではなくなった」という声も招き、来園者一人あたりの満足と支払意思をどこまで高められるかに、この戦略の持続は懸かる。体験の更新が止まれば、あとには価格だけが残る。数の成長が尽きた先を単価の成長でどこまで支えられるか——上西社長のもとで始まったこの切り替えは、成熟した集客事業が次に何で伸びるのかという問いを、いまも突きつけている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

入園者数で伸ばす成長の物理的な上限

オリエンタルランドの成長は、長く入園者数の増加に支えられてきた。1983年に開園した東京ディズニーランドは、新しいアトラクションを継ぐたびに来園者を呼び戻すリピーター中心の集客で伸び、1990年代半ばには単一パークの年間入園者数が頭打ちになった。2001年に東京ディズニーシーを加えた2パーク体制は、来園者の分散と滞在の長期化をもたらした。ただし施設が立つ舞浜は東京湾を埋め立てた限られた用地であり、パークをさらに増設して人数を積み増す余地は乏しかった[1]

上西京一郎の社長就任と震災下の出発

2009年4月、入社以来オリエンタルランドで総務・経営戦略の畑を歩んだ上西京一郎が代表取締役社長兼COOに就いた。就任まもない2011年3月期は、東日本大震災で東京ディズニーリゾートが約1か月の臨時休園に追い込まれ、連結の当期純利益は前期の254億円から229億円へ落ちた。用地の制約と、災害がむき出しにした人数依存の弱さが、成長の設計を見直す背景として重なった[2]

決断

2011年の入園料引き上げと投資の回収

2010年12月10日、オリエンタルランドは翌2011年4月23日からの入園料の引き上げを発表した。大人の1デーパスポートを5,800円から6,200円へ400円上げ、年間パスポートは52,000円とした。改定は約4年半ぶりで、狙いは過去に投じた施設投資の回収にあった。同社は2007年度から2011年度にかけて約1,400億円を投じ、新しいアトラクションの開設を控えていた。人数の伸びで売上を積み増す時代から、価格で一人あたりの収益を取りにいく時代への移り変わりが、この改定に表れた[3]

この値上げは、単独では打ち出されなかった。オリエンタルランドは2011年4月にミッキーと触れ合う新しい施設を、7月に新アトラクション「ジャスミンのフライングカーペット」を控え、価格の改定を体験の更新とあわせて示した。値上げだけを突き出せば来園者の心証を損なう。新しい投資と同じ時期に示すことで、価格の上乗せを体験の対価として受け止めさせる組み立てだった[4]

量から単価への切り替えの持続

2011年の改定は一度きりで終わらなかった。オリエンタルランドは以後も数年おきに1デーパスポートの価格を上げ、2021年には曜日や季節で料金が動く変動価格制を導入した。2021年10月には料金を4段階に分け、大人の1デーパスポートを7,900円から9,400円の価格帯に置いた。混雑する日ほど高い料金を設ける仕組みは、需要を平準化しながら一人あたりの収益を取りにいく設計で、人数でなく客単価を成長軸に据える方針を価格の面で徹底するものだった[5]

結果

入園者数に頼らない収益への到達

値上げは来園者の離反を招かなかった。2011年以降、来園者を保ったまま一人あたりの消費額が伸び、収益を押し上げた。2019年3月期には連結売上高が5,256億円、営業利益が約1,293億円といずれも過去最高を更新し、同期の年間入園者数も過去最高の3,256万人に達した。人数と単価がともに伸びたこの年は、量から単価への切り替えが利益に結びついたことを示す到達点となった[6]

コロナ禍を挟んだのち、この収益構造の性格がより鮮明になった。2023年10月、オリエンタルランドは変動価格制の段階を増やし、1デーパスポートの上限を10,900円へ引き上げた。チケットに商品や飲食を含めたゲスト1人当たり売上高は、2025年3月期に17,833円へ伸びた。同期の連結売上高は6,793億円、営業利益は1,721億円と2019年をさらに上回る過去最高で、会社が2026年3月期に見込む入園者数は2,800万人と、2019年3月期の3,256万人を下回る。人数を過去の水準まで戻さずに最高益を更新できたことに、単価で伸ばす収益への移り変わりが表れた[7][8][9]

出典・参考