クックイノベンチャーを受け皿にした外食10社の取り込みと外食への本格参入
工場で作る食材の出口を、なぜ一度に10社の外食グループで持とうとしたのか
更新:
- 概要
- 2013年、神戸物産が新設会社クックイノベンチャーを受け皿にジー・コミュニケーションの全株式を取得し、ジー・テイストなど上場3社を含む外食・教育の10社を連結子会社とした経営判断。業務スーパーに次ぐ売上規模の「クックイノベンチャー事業」セグメントが生まれ、外食への本格参入となった。
- 背景
- 神戸物産は2004年の惣菜店、2006年のビュッフェ業態と外食・中食を自前で試していたが、規模が出なかった。2013年10月期は円安で輸入仕入価格が高騰し営業利益が半減するなか、グループ工場で作る食材の出口を広げる必要があった。
- 内容
- 企業結合日は2013年4月30日。議決権は18.9%にとどめ、優先株式・貸付・役員派遣で実質支配して連結した。取得原価44億5百万円に対し、支配獲得からみなし取得日までに貸付金等66億17百万円を実行。同年7月に上場3社の株式を追加取得し、8月にジー・テイストを存続会社とする3社合併を行った。
- 含意
- 買収の目的は有価証券報告書に、グループで生産した食材の提供を通して業績拡大を図るためと記された。外食は第2の売上規模に育ったものの利益率は本業に届かず、7年後の2020年に全株式が譲渡された。買う判断と手放す判断が対で残る。
出口を買った判断が残したもの
この買収の設計は、神戸物産の買い物の作法をよく表している。44億円の出資に66億円の融資を重ね、議決権2割弱と拒否権付き優先株で上場3社を含む10社を連結する——資本の量ではなく関係の設計で支配を成立させる買い方は、経営不振の食品工場を安く引き受けて専用工場に組み替えた国内M&Aの連鎖と、発想の根が同じであるとみることができる。円安で本業の利益が半減した年に、あえて売上300億円規模の出口を確保しにいった判断には、輸入依存の構造を国内の販路で補強する意図もうかがえる。
ただ、工場と違って外食は、買ってから作り替えることが難しかった。品目を絞って作ることに専念させれば済む工場に対し、外食は立地も業態も人も店ごとに違い、本部が原価と時間を握る製販一体の型に収まらない。第2の売上規模に育てながら利益率で本業に届かず、7年で経営陣に譲渡した経緯は、この型の適用範囲を自ら確かめた実験であったともいえる。買収で広げ、売却で畳んだ一往復が、外食を「買って持つ」のではなく食材の供給先として付き合う現在の距離感につながっている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
自前で試した外食の限界
神戸物産にとって外食は、2013年に突然現れた領域ではなかった。2004年11月に直営の惣菜店「神戸クック デリ」(現・馳走菜)を地元の兵庫県稲美町に開き、2006年4月にはFC契約でのビュッフェ業態「神戸クック・ワールドビュッフェ」の1号店を開店している。中国と国内の自社工場で作った食材を、小売の業務スーパーだけでなく自らの飲食の場でも売る——製販一体の出口を店の側へ延ばす試みは、2000年代半ばから続いていた[1]。
ただし自前の外食は、規模が出なかった。2013年10月期の時点で「神戸クック・ワールドビュッフェ」は全国12店、中食との融合店「Green's K」は14店、「Green's K 鉄板ビュッフェ」は12店にとどまり、神戸クック事業の売上高は14億45百万円と前期比15.4%の減収であった。同じ期の業務スーパー事業の売上高1,611億33百万円に対して1%に満たない。工場の供給力に見合う外食の出口を自前の出店だけで作るには、時間がかかりすぎる規模感であった[2]。
円安が締め付けた決断の年
買収に動いた2013年10月期は、輸入で安さを作る神戸物産の構造が為替に揺さぶられた年でもあった。2012年末からの円安で輸入する原材料や商品の仕入価格が高騰し、同期の連結売上高は1,794億99百万円と14.0%伸びた一方、営業利益は19億56百万円と前期から53.8%減った。翌期に価格転嫁と工場稼働率の向上で利益が改善に向かうと報じられたとおり、減益は一過性であったが、輸入に頼る構造の危うさは数字に表れていた[3][4]。
その渦中で相手方になったのが、ジー・コミュニケーションを親会社とする外食・教育の企業集団であった。傘下には焼肉店などを展開するジー・テイスト、ジー・ネットワークス、さかいの上場3社と、その他5社が連なる。自前の出店では届かない店舗網を一度に持てる相手であり、神戸物産の側から見れば、工場で作る食材の出口をまとめて確保できる買い物であった[5]。
決断
新設会社を挟んだ出資と融資
買い方には工夫があった。神戸物産は自ら株式を買い集めるのではなく、新設した株式会社クックイノベンチャーを受け皿に立て、この会社がジー・コミュニケーションの全株式を取得する形を採った。神戸物産のクックイノベンチャーへの議決権比率は18.9%にとどめ、優先株式を合わせた持分比率で45.45%。企業結合日は2013年4月30日で、有価証券報告書の沿革には2013年5月にクックイノベンチャー、ジー・コミュニケーション、ジー・テイスト、ジー・ネットワークス、さかいほか5社を連結子会社とした旨が記された[6][7]。
議決権2割弱の相手を連結子会社にできた根拠は、株式の数ではなく関係の設計にあった。取得した優先株式には、定款変更・合併・事業譲渡・役員の選解任といった重要事項に種類株主総会の決議を要するという、事実上の拒否権が付いていた。これに資金の貸付と役員の派遣を重ね、実質的な支配関係があるとして企業集団の各社を連結の範囲に含めている。取得原価は現金44億5百万円。加えて支配獲得日からみなし取得日までに貸付金等66億17百万円を実行しており、出資よりも融資が大きい買収であった[8][9]。
買う理由は食材の出口
買収の目的は、有価証券報告書に一行で書かれている。企業結合を行った主な理由は、グループで生産した食材をジー・コミュニケーショングループの外食事業に提供することを通して業績拡大を図るため——工場から店までを一社で握る製販一体の論理を、外食にまで延ばす説明であった。同期のセグメント記述でも、外食事業の推進とグループ食材の提供を目的に出資及び融資を行い「クックイノベンチャー事業」を追加したとし、企業結合による取引関係の一体化を進めるとしている[10][11]。
取り込みは連結にとどまらなかった。2013年7月31日にはジー・テイスト、ジー・ネットワークス、さかいの上場3社の株式を追加取得し、8月1日にはジー・テイストを存続会社として3社の吸収合併を行っている。ばらばらの上場会社が並ぶ企業集団を、食材の供給先として一体で動かせる形に組み替える動きであった。参入初年度のクックイノベンチャー事業は、第2四半期末からの約半年で売上高169億5百万円を計上し、いきなり神戸クック事業の10倍を超える規模になった[12][13]。
結果
第2の売上規模と、開かない利益率
買収から2年で、外食は業務スーパーに次ぐ売上の柱になった。クックイノベンチャー事業のセグメント売上高は2015年10月期に344億円へ拡大し、規模の面では参入の狙いどおりに育った。一方で同期のセグメント利益は13億円にとどまり、売上高に対する利益率は約4%。製造から販売までを握って約8%の利益率を出す業務スーパー事業とは、儲けの構造がはじめから違っていた[14]。
利益率の差は、時間とともに縮まるどころか開いた。クックイノベンチャー事業のセグメント利益は2018年10月期に7億円、2019年10月期には売上高305億円に対し6億円まで下がり、利益率は約2%。同じ期に約8%へ収益力を高めた業務スーパー事業との差は6ポイント近くになった。人件費と賃料を店舗ごとに抱える外食は、加盟店の資本で売り場を広げるFCの仕組みとは費用構造が異なり、神戸物産の安さの方程式がそのまま効く事業ではなかった[15]。
7年で閉じた買収
2020年6月30日、神戸物産はクックイノベンチャーの全株式を、同社と同社社長の杉本英雄氏へ譲渡した。これによりクックイノベンチャーと傘下の外食関連会社あわせて11社が連結範囲から外れ、2013年の買収で作った外食セグメントは7年で神戸物産の手を離れた。売却を決めたのは、買収時に社長であった沼田博和氏である。買収の受け皿として作られた会社の名は、そのまま売却の主語になった。この売却の経緯と判断は、別稿の2020年の事業売却として記録している[16][17]。
- 神戸物産 有価証券報告書(2013年10月期)【企業結合等関係】【業績等の概要】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】
- 神戸物産 有価証券報告書【沿革】
- 神戸物産 有価証券報告書(連結)
- 週刊東洋経済 2014年4月4日号「【特集 いま買える株 買えない株】 1 いま買える 下げに強い株 業績急改善の株厳選21 (3)営業増益率の大きい順」
- MAonline(2020年6月30日)「神戸物産、外食事業関連子会社のクックイノベンチャーを経営陣に譲渡」