業績不振を受けた10年ぶりの社長交代
2021年実施上場来初の最終赤字を機に、10年務めた守安功社長が退き、創業者・南場智子が新体制へ経営を組み替えた社長交代
- 概要
- 2021年、上場来初の最終赤字を受け、DeNAは守安功社長がCEOを退き、取締役兼COOの岡村信悟が代表取締役社長兼CEOに昇格する10年ぶりの社長交代に踏み切った経営判断。創業者の南場智子は代表取締役会長にとどまり、新体制はゲーム事業の立て直しと固定費の削減を掲げた。
- 背景
- モバゲーの成功で急成長したDeNAは、スマートフォンへの移行後に大型のヒットを欠き、2020年3月期にゲーム事業を中心とする減損損失を計上して上場来初の最終赤字に転落した。成長を前提に膨らんだ組織と費用構造が、伸び悩む収益と乖離していた。
- 内容
- 2021年2月9日の取締役会で代表取締役の異動を決議し、4月1日付で守安社長が代表権のない取締役に退き(同年6月の株主総会で取締役も退任)、総務省出身でスポーツ・ゲーム事業やCOOを務めた岡村が社長兼CEOに就いた。会社は人材・組織とテクノロジーの強みを重視する新しい経営スタイルを掲げた。
- 含意
- 交代は、ベンチャー的な意思決定と成長期の費用構造を保ったまま新たな収益の柱を築けずにいた現実に向き合う人事であった。翌2021年3月期は黒字に転換したが、2024年3月期には再び最終赤字に沈み、成熟企業としての経営規律の定着が次の課題として残った。
成長の慣性を、どこで断ち切るか
この社長交代の核心は、業績不振の責任を一人の経営者に帰することよりも、成長を前提に組み上がった経営の慣性そのものをどう作り替えるかにあったとみられる。モバゲーの成功でDeNAが手にした急成長は、裏を返せば、拡大を続けることを前提とした組織規模と費用構造を会社に根づかせた。守安社長が10年をかけて広げた事業の幅は、ゲーム事業への収益依存という宿題を残したまま、スマートフォンへの移行という地殻変動に直面していた。上場来初の最終赤字は、その宿題の先送りが限界に達したことを示す出来事であった。
総務省出身の岡村社長を迎え、創業者・南場智子が会長として支える新体制は、固定費の抑制から着手して翌年度の黒字転換にこぎつけた。しかし2024年3月期に再び最終赤字へ沈んだことは、収益基盤の不安定さがなお残っていたことを物語る。『ポケポケ』の世界的なヒットが2025年3月期の大幅黒字をもたらしたものの、単一タイトルの成否に業績が大きく左右される構造は、モバゲー以来の課題と地続きである。ベンチャーとして走り続けた会社が、成熟企業としての経営規律をどこで身につけるか——2021年の交代は、その問いを経営の正面に据え直す起点であったとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
モバゲーの成功と、その後の停滞
DeNAは1999年にオークション事業として生まれ、携帯電話向けゲーム「モバゲータウン」とソーシャルゲームの課金モデルで急成長した会社である。2011年、夫の看病を理由に退いた創業者・南場智子に代わり、この事業を主導した守安功が代表取締役社長兼CEOに就いた。守安社長のもとでDeNAはプロ野球の横浜DeNAベイスターズ取得や任天堂との業務・資本提携など事業の幅を広げたが、収益の柱は依然としてゲーム事業に大きく偏っていた[1]。
上場来初の最終赤字
スマートフォンへの移行後、DeNAはモバゲーのプラットフォームとしての優位を保てず、ゲーム事業で大型のヒットを欠いた。2020年3月期には、ゲーム事業を中心にのれんやソフトウエアの減損損失を計上し、連結の営業損益は約457億円の赤字、親会社の所有者に帰属する当期損益は約492億円の赤字となった。2005年のマザーズ上場以来、初めての最終赤字であった[2][3]。
売上収益が伸び悩む一方で、組織の規模や人件費、開発投資といった費用構造は、成長期の延長に置かれたままであった。ライブ配信やヘルスケアなどの新規事業は収益化に時間を要し、事業ごとの収益性と費用配分の乖離が広がっていた。DeNAは戦略の見直し以前に、費用構造そのものを収益水準に合わせて作り替える必要に迫られており、守安CEOは2020年2月の決算説明会で全社的な固定費の見直しに言及していた[4]。
決断
10年ぶりの社長交代
2021年2月9日、DeNAは取締役会で代表取締役の異動を決議した。4月1日付で、10年にわたり社長を務めた守安功社長が代表取締役社長兼CEOを退いて代表権のない取締役となり(同年6月の第23回定時株主総会の終結時に取締役も退任)、取締役兼COOの岡村信悟が代表取締役社長兼CEOに就いた。創業者の南場智子は代表取締役会長にとどまった。社長の交代は、創業者・南場智子から守安社長への2011年の交代以来、およそ10年ぶりであった[5][6]。
総務省出身のCOOへ、新しい経営スタイルの下で
新社長の岡村信悟は、1995年に郵政省(現・総務省)へ入り、2016年にDeNAへ移ってスポーツ事業やゲーム事業を率い、2019年に取締役兼COOへ進んでいた。会社は異動の理由として、今後ユニークな事業展開で一層発展していくには人材・組織とテクノロジーの強みが重要になると述べ、新しい経営スタイルのもとで組織の力を引き出す体制づくりを掲げた。守安CEOが退任前にすでに固定費の見直しを唱えていたことと合わせ、新体制はゲーム事業の立て直しと固定費の抑制を通じ、成長を追う経営から収益の質を重んじる経営へと軸足を移していくことになる[7][8]。
結果
黒字転換、再度の赤字、そして『ポケポケ』
新体制初年度の2021年3月期は、連結売上収益が約1,370億円、営業利益が約225億円、親会社の所有者に帰属する当期利益が約256億円と、黒字に転換した。ライブコミュニケーションアプリ「Pococha」を中心とするライブストリーミング事業が伸び、収益源の多様化に一定の道筋がついた。2022年4月には東京証券取引所のプライム市場へ移行した[9][10]。
もっとも、業績は再び振れた。2024年3月期は、ゲームタイトルやライブストリーミング事業などで減損損失を計上し、連結の営業損益は約283億円の赤字、親会社の所有者に帰属する当期損益は約287億円の赤字となった。しかし、2024年10月に配信を始めたスマートフォン向け『Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)』が世界的なヒットとなり、2025年3月期は連結売上収益が約1,640億円、営業利益が約290億円へと大幅な黒字に戻した[11][12][13]。
- DeNA ニュースリリース 2021年2月9日「代表取締役の異動に関するお知らせ」
- ITmedia NEWS 2021年2月10日「DeNA、10年ぶり社長交代 球団やゲーム事業率いた岡村氏が昇格」
- DeNA 有価証券報告書(第22期・2020年3月期)
- DeNA 有価証券報告書(第23期・2021年3月期)
- DeNA 有価証券報告書(第26期・2024年3月期)
- DeNA 有価証券報告書(第27期・2025年3月期)
- ログミーFinance「DeNA、2020年3月期第3四半期決算説明会」(2020年2月5日)