第一ライフグループ 東証一部へ上場 108年続いた相互会社の解体と、株式会社への組織変更

更新:

時期 2010年4月
当時の社長 斎藤勝利
論点 会社形態と成長資本の調達
何をなぜ決めたか
概要

2010年4月1日、第一生命保険は保険業法に基づく組織変更を行い、1902年の設立から108年続いた相互会社の形態を解いて株式会社となった。同じ日に東京証券取引所市場第一部へ上場し、初値は160,000円をつけた。

組織変更計画は2009年6月30日の第108回定時総代会で承認されたもので、この総代会では組織変更後の取締役・監査役もあわせて決めている。発行済株式総数1,000万株、資本金と資本準備金は各2,102億円で発足した。

背景

相互会社は保険契約者が社員として会社を構成する形で、資本を外から入れる窓を持たない。自己資本を厚くする手段は基金に限られ、2005年から2010年にかけて基金の募集と償却を重ねてきた。組織変更にあたっては保険業法第89条に基づき、2010年3月26日に基金1,000億円を全額繰上償却し、基金の総額4,200億円は基金償却積立金へ振り替えた。

内容

株式会社への移行は新たな払込みを伴わず、純資産の部の組替えで行われた。2010年4月1日付で発行済株式総数1,000万株が立ち、資本金2,102億円・資本準備金2,102億円が計上された。

構成員として持分を持っていた保険契約者は、そのまま株主になった。4月16日現在の株主数は1,371,035人、うち個人が1,331,824人で所有株式数の44.03%を占める。大株主はみずほコーポレート銀行4.50%、損害保険ジャパン4.00%、三菱東京UFJ銀行2.20%が並んだ。

含意

上場は会社に新しい資金を入れる行為ではなく、資本の性格を入れ替える行為だった。株式会社化・上場に係る一時費用は83億円(2011年3月期ベース、資産除去債務会計基準の適用分を含む)にのぼる。株主への第1回配当は基準日を2010年4月16日とし、2010年6月28日の定時株主総会で1株1,000円・総額100億円と決めた。剰余を社員へ返す会社が、株主へ配当する会社になった。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

加入者の会社から、株主の会社へ

この判断の核心は、資金を集めたことより、会社の主役を入れ替えたことにある。上場は新株の払込みを伴わず、純資産の部の組替えで基金4,200億円が資本金と資本準備金の各2,102億円に置き換わっただけである。会社の手元に新しい現金が入ったわけではない。変わったのは、構成員として持分を持っていた保険契約者が1,371,035人の株主になり、剰余を社員配当として返す関係が、株主へ配当する関係に替わったことだ。108年守ってきた加入者主権の原理を、みずから解いて株主主権へ差し替えた点に、この決断の重さがある。

もっとも、会社の形を替えたからといって、事業の中身がすぐ変わるわけではない。国内2位の対面生保という骨格は今も続く。変わったのは、余った資本を株主へ返す規律と、それを市場に問われ続ける立場である。上場の翌期に純資産がいったん7,318億円まで落ち、その後に3兆円台まで積み上がった振れ幅は、相互会社なら誰にも問われずに済んだ数字だろう。加入者のものだった会社を株主のものへ組み替える——この選択の当否は、これからも資本市場の評価という物差しで測られていく。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
組織変更と上場の経緯

組織変更と上場の経緯

科目 概要 備考
組織変更計画の承認 2009年6月30日 第108回定時総代会で決議。組織変更後の取締役・監査役もこの総代会で決めた
基金の全額繰上償却 1,000億円 2010年3月26日、保険業法第89条に基づく。2005年・2007年に募集した各600億円分
基金償却積立金への振替 4,200億円 基金1,200億円の償却に伴い、同額の基金償却準備金を保険業法第56条の積立金へ
組織変更の効力発生日 2010年4月1日 相互会社から株式会社へ。上場も同じ日
上場市場 東京証券取引所市場第一部 当事業年度は相互会社のため株価の推移の記載はなく、上場後の初値だけが載る
初値 160,000円 2010年4月1日
発行済株式総数 10,000,000株 2010年4月1日付。1単元の株式数は1株
資本金・資本準備金 各2,102億円 組織変更による純資産の部の組替えで計上。新たな払込みによるものではない
組織変更後の株主数 1,371,035人 2010年4月16日現在。うち個人が1,331,824人で所有株式数の44.03%
筆頭株主 みずほコーポレート銀行 4.50% 2010年4月16日現在。損害保険ジャパン4.00%、三菱東京UFJ銀行2.20%が続く
第1回株主配当 1株1,000円・総額100億円 基準日は2010年4月16日。2010年6月28日の定時株主総会で決議
株式会社化・上場の一時費用 83億円 2011年3月期ベース。資産除去債務会計基準の適用に係る費用を含む

出所:第一生命保険 有価証券報告書 第108期(2010年3月期)【株式等の状況】【株価の推移】【配当政策】【財政状態及び経営成績の分析】・第109期(2011年3月期)

経常利益と当期純利益の推移

第一ライフグループ:経常利益と当期純利益の推移

(百万円) 経常利益当期純利益 備考
2008年3月期 192,879131,242 相互会社のため当期純剰余。社員配当準備金繰入額89,227を除くと組織変更後の純利益に当たる
2009年3月期 63,35186,813 相互会社のため当期純剰余。社員配当準備金繰入額は64,963
2010年3月期 188,21155,665 相互会社としての最終期。株式会社化後の配当に備え契約者配当引当金92,500を繰入
2011年3月期 81,19919,139 2010年4月に株式会社化・上場。株式会社としての初年度で、当期純利益の記載に変わった
2012年3月期 225,92020,357
2013年3月期 157,29432,427
2014年3月期 304,75077,931
2015年3月期 406,842142,476 米プロテクティブ生命の子会社化を含む期。純利益は親会社株主に帰属する当期純利益
2016年3月期 418,166178,515
経常利益と当期純利益
経常利益(百万円)当期純利益(百万円)

出所:第一生命ホールディングス 有価証券報告書 第106〜114期(主要な経営指標等の推移・連結)

純資産額と総資産額の推移

第一ライフグループ:純資産額と総資産額の推移

(百万円) 純資産額総資産額 備考
2008年3月期 1,586,01631,941,710
2009年3月期 579,92830,444,624 株価の下落でその他有価証券評価差額金が大きく減り、純資産が1兆円を割った期
2010年3月期 964,19332,104,248 基金4,200億円を含む最後の期末。純資産は前期比3,842億円の増加
2011年3月期 731,83532,297,862 基金が資本金2,102億円・資本準備金2,102億円へ組み替わった最初の期末
2012年3月期 991,74533,468,670
2013年3月期 1,649,02035,694,411
2014年3月期 1,947,61337,705,176
2015年3月期 3,589,92749,837,202 プロテクティブ生命の連結で総資産が12兆円増えた期
2016年3月期 2,932,95949,924,922
純資産額と総資産額
総資産額(百万円)純資産額(百万円)

出所:第一生命ホールディングス 有価証券報告書 第106〜114期(主要な経営指標等の推移・連結)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 日本会社史総覧(1995年11月)
  • 第一生命保険 有価証券報告書「第108期(2010年3月期)【株式等の状況】【株価の推移】【配当政策】」
  • 第一生命保険 有価証券報告書「第108期(2010年3月期)【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • 第一生命保険 有価証券報告書「第109期(2011年3月期)」

免責事項およびポリシー