第一ライフグループ エムスリーに対抗し買収 先行TOBへの対抗による、福利厚生代行最大手の取り込み

更新:

時期 2024年2月
当時の社長 菊田徹也
論点 非保険への多角化とM&A
何をなぜ決めたか
概要

2024年、第一生命ホールディングスが福利厚生代行で国内最大手のベネフィット・ワンを株式公開買付けで買収し完全子会社化した案件。医療情報のエムスリーが先行して1株1,600円でTOBを進めていたところへ、第一生命が2,173円で対抗し、争奪戦を制した。取得原価は2,920億56百万円であった。

背景

少子高齢化で国内の保険市場が縮み、保険商品を売り続けるだけでは成長の天井が見えていた。第一生命は従来の生命保険業を超えた保険サービス業への変革を掲げて非保険領域での事業スケール獲得を狙っており、全国の企業が使う福利厚生プラットフォームはその旗艦の標的であった。

内容

2023年11月にエムスリーが1,600円でTOBを開始。第一生命は同年12月に対抗する買収提案を公表し、価格を2,173円へ引き上げた。約51%を握る親会社パソナグループが高値を選び、2024年2月9日から3月11日までの買付けで37.38%を取得。株式併合と自己株式取得を経て5月23日に完全子会社化した。

含意

日本の大企業が既に進行中のTOBへ正面から対抗するのは異例であった。相互会社から出発した生保が非保険サービスへ本格的に参入する、ポートフォリオ改革の象徴でもある。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

TOB市場の新局面と、生保のポートフォリオ改革

第一生命によるベネフィット・ワンの買収が異例だったのは、価格の高さそのものよりも、日本の大企業がすでに進行しているTOBに正面から対抗した点にある。相手の同意なく対抗提案に着手することを"お行儀が悪い"と避けてきた市場慣行のなかで、第一生命は約3週間で対抗の意思を固め、価格を積み増して争奪戦を制した。過半数を握る親会社が高値を選んだ結果、少数株主にも厚いプレミアムが及んだ点も、これまでの親子上場の解消とは異なる後味を残したといえる。

もっとも、この買収の本質は攻防の派手さではなく、生命保険会社のポートフォリオ改革にある。少子高齢化で国内の保険市場が縮むなか、第一生命は保険を売るだけの会社から、顧客接点とキャッシュフローを保険の外にも広げる会社へと軸足を移そうとしてきた。福利厚生代行という、買収の翌年度に会員数が1,000万人を超えた顧客基盤は、その転換を象徴する資産である。相互会社として相互扶助から出発した企業が、株式会社化・海外買収・持株会社化に続く一手として、非保険サービスへ本格的に参入した——ベネフィット・ワンの買収は、日本の生保が成熟した国内保険モデルの先に何を描くのかという問いを、鮮明に映し出した案件であったといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 株式会社ベネフィット・ワン 事業の内容は福利厚生代行サービス事業
公開買付けの決議 2024年2月8日 取締役会で決議。買付期間は2024年2月9日から3月11日まで
公開買付価格 1株2,173円 2024年2月8日の適時開示。エムスリーの先行買付価格1,600円に対抗した価格
公開買付けで取得した株式 59,329,660株(所有割合37.38%) 決済の開始日である2024年3月18日付で持分法適用関連会社となった
企業結合日 2024年5月23日 ベネフィット・ワンによる株式併合、自己株式取得等を経て完全子会社化
企業結合の法的形式 株式の取得 結合後企業の名称に変更はない
取得した議決権比率 100% 議決権の100%を取得したことから第一生命を取得企業と決定した
取得原価 292,056百万円 対価の種類は現金。売り手のパソナグループは移転損益112,040百万円を計上
取得関連費用 3,403百万円 アドバイザリー費用等
受け入れた資産 182,870百万円 うち無形固定資産115,799百万円
引き受けた負債 93,862百万円 うちその他の負債61,741百万円
のれん 200,592百万円 10年間の均等償却。第124期に暫定的な会計処理が確定し金額の変動はない
顧客関連資産 107,290百万円 のれん以外の無形固定資産に配分。加重平均償却期間は24年
連結に含めた業績の期間 2024年7月1日から2025年3月31日まで 第123期に取り込んだのは9か月分

出所:第一生命ホールディングス 有価証券報告書 第122期(2024年3月期)【経営上の重要な契約等】・第123期(2025年3月期)【企業結合等関係】

のれんと無形固定資産の推移

第一ライフグループ:のれんと無形固定資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産 備考
2020年3月期 39,497472,990
2021年3月期 42,696445,163
2022年3月期 56,245502,795
2023年3月期 117,236736,712 パートナーズ・グループとアイペットの買収でのれんが117,236へ増えた
2024年3月期 115,206708,383
2025年3月期 328,4271,107,255 ベネフィット・ワンののれん200,592と顧客関連資産107,290を計上
2026年3月期 302,276963,435 前期の無形固定資産は第124期有報で1,044,116へ遡及修正されている
のれんと無形固定資産
のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

出所:第一生命ホールディングス 有価証券報告書 第119〜125期(連結貸借対照表)

ベネフィット・ワンが属するその他事業セグメント

第一ライフグループ:ベネフィット・ワンが属するその他事業セグメント

(百万円) 外部顧客からの経常収益セグメント利益 備考
2020年3月期 12,579123,448 その他事業は非保険事業とグループ経営管理。利益は受取配当金を含む
2021年3月期 11,500177,745
2022年3月期 9,209197,539
2023年3月期 7,226268,948
2024年3月期 10,945199,229
2025年3月期 43,217221,000 経常収益が4倍に。のれんの償却額15,044を同セグメントで負担している
2026年3月期 79,050340,204 ベネフィット・ワンが通年で寄与した初年度
その他事業の経常収益とセグメント利益
外部顧客からの経常収益(百万円)セグメント利益(百万円)

出所:第一生命ホールディングス 有価証券報告書 第119〜125期(セグメント情報)

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参考文献
出典・参考
  • 第一生命ホールディングス 有価証券報告書【沿革】
  • 第一生命ホールディングス 適時開示「株式会社ベネフィット・ワン株式(証券コード2412)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
  • ベネフィット・ワン 適時開示「第一生命ホールディングス株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ」
  • 第一生命ホールディングス 適時開示「株式会社ベネフィット・ワン株式に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」
  • 第一生命ホールディングス 有価証券報告書「第122期(2024年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 第一生命ホールディングス 有価証券報告書「第123期(2025年3月期)【企業結合等関係】」
  • 第一生命ホールディングス 有価証券報告書「第124期(2026年3月期)【企業結合等関係】」
  • パソナグループ 有価証券報告書「第17期(2024年5月期)【企業結合等関係】事業分離」

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