チリ銅など資源権益の一括減損と18年ぶりの最終赤字

18年ぶりの最終赤字を出してでも、柿木真澄社長はなぜ資源権益の含み損を一括処理したのか

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時期 2020年3月
意思決定者 柿木真澄 社長
論点 資源権益への依存と投資規律
概要
2020年3月期、就任初年度の柿木真澄社長のもとで、丸紅がチリ銅・米ガルフ石油・北海油田など資源権益の含み損を一括して減損処理し、当期純損益を1,974億円の赤字(18年ぶり・過去最大の最終赤字)へ沈めた経営判断。資源市況の急落と新型コロナ禍が重なるなかで、過去の投資の後始末を一度に引き受け、以後の投資規律を立て直した。
背景
2000年代の資源ブームのもとで、丸紅は金属・エネルギーの権益を積み上げ、資源市況の振れがそのまま連結損益に及ぶ体質を強めていた。チリでは英資源大手アントファガスタと組み、センチネラ・アントコヤ・ロスペランブレスの銅鉱山に出資して非鉄の主力に据えていた。取得時に高い評価額を織り込んだ権益は、市況の下振れで減損に転じる性格を抱えていた。
内容
2020年3月25日、丸紅は業績予想を2,000億円の黒字から1,900億円の赤字へ下方修正し、総額約3,700億円の一過性損失を公表した。5月7日の本決算で当期純損失は1,974億円と確定し、減損は石油・ガス開発約1,313億円、米国穀物事業約982億円、チリ銅事業約603億円などに及んだ。柿木社長は役員報酬の減額で経営責任を示した。
含意
資源市況を連結損益が直接受けとめる商社にとって、好況期の権益は不況期に減損として跳ね返る。柿木社長は就任直後に含み損を一括処理して身軽になり、翌2021年3月期のV字回復と、2023年3月期の過去最高益(純利益5,430億円)へつなげた。減損を教訓に組み替えた投資規律は、後任の大本晶之社長が掲げる成長投資の前提にもなった。
筆者の見解

資源に賭ける商社と、その制御

この決断が映すのは、資源市況を連結損益が直接受けとめる総合商社の体質である。好況期に高い評価額で取得した権益は、市況が反転すれば減損となって跳ね返る。柿木体制の一斉減損は、就任直後という節目で前任期までの含み損をまとめて処理した点で、攻めよりも守りに寄った判断であったとみることができる。大きな赤字を出してでも過去の荷物を下ろした身軽さが、その後のV字回復と、投資規律の立て直しの土台になった。好況のうちに膿を出すのではなく、市況の急落に押されて処理へ動いた点に、この判断の性格がにじむ。

もっとも、資源への傾斜そのものが消えたわけではない。センチネラの拡張が示すように、丸紅は依然として銅という市況商品に賭けつつ、そのリスクを外部資金へ逃がしながら資源と向き合っている。減損を制度の教訓へ変えた投資規律は、後任の大本晶之社長が掲げる成長投資の前提にもなった。資源で稼ぎ、資源で沈み、また資源に向かう——商社が市況とどう折り合うかという問いは、丸紅の経営になお残されているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

資源ブーム期に積み上げた権益

総合商社のなかで丸紅は、非資源に活路を求めてきた社と語られることが多い。だが2000年代の資源ブームのもとでは、金属とエネルギーの権益を積み上げ、資源市況の振れがそのまま連結損益に及ぶ体質を強めていた。金属の主力に据えたのが、南米チリの銅であった。丸紅は英資源大手アントファガスタと組み、センチネラ・アントコヤの両鉱山に約30%、ロスペランブレス鉱山に約9%を出資し、非鉄の柱に育てていた[1][2]

これらの権益は、取得の時点で将来の生産量と市況を前提に高い評価額を織り込む。市況が下振れれば、帳簿上の価額と実力の差が減損として一気に表面化する性格を抱えていた。現に2016年前後には大手5商社で合計約1兆2,000億円規模の資源減損が相次ぎ、丸紅も2016年3月期には当期純利益が622億円まで落ち込んでいた。好況期に利益を押し上げる資源権益は、不況期には評価損となって跳ね返る[3][4]

柿木真澄社長の就任とコロナ禍

2019年4月、電力事業を長く歩んだ柿木真澄が、國分文也社長の後任として社長に就いた。就任初年度にあたる2019年度、原油や銅の資源価格がじりじりと下がり、そこへ2020年初頭からの新型コロナウイルスが世界の需要を凍らせた。柿木社長は当時、経済活動が止まっていく様子を「SF映画のようなことが実際に起きている」と語っている。資源ブーム期に積み上げた権益の含み損が、市況急落とコロナ禍で一斉に評価損へと振れていった[5][6]

新社長が向き合ったのは、前任期までに膨らんだ資源権益の含み損という、過去から引き継いだ荷物であった。2020年3月期の連結業績は、売上高6兆8,276億円に対して営業損益が1,659億円の赤字、当期純損益は1,974億円の赤字(IFRS)へ沈む。前期の2,308億円の黒字から一転しての転落で、資源市況とコロナ禍を連結損益がそのまま受けとめた。資源に賭けてきたことのつけが、就任早々の新社長に回ってきた[7]

決断

3,700億円の一斉減損と18年ぶりの赤字

2020年3月25日、丸紅は2020年3月期の業績予想を、2,000億円の黒字から1,900億円の赤字へと下方修正した。引き下げ幅は約3,900億円、計上する一過性損失は総額およそ3,700億円にのぼる。その柱は資源であった。メキシコ湾油田・英領北海油田・チリ銅の資源関連で約2,050億円、米国の穀物事業で約1,000億円を見込み、就任初年度の柿木社長のもとで資源権益の含み損が一気に表面化した[8][9]

5月7日の本決算で、当期純損益は1,974億円の赤字と確定した。2002年3月期以来18年ぶり、かつ過去最大の最終赤字である。減損の柱は石油・ガス開発で約1,313億円、米国穀物事業で約982億円、そしてチリ銅事業で約603億円にのぼった。柿木社長は経営責任を明確にするとして役員報酬の減額に踏み切り、就任早々に自ら過去の投資の後始末を引き受けた[10][11]

重い荷物を下ろすという判断

巨額の減損は、資源権益への依存を断ち切る意思表示でもあった。柿木社長は後年、この処理を振り返って「とにかく重たい荷物を全部下ろして身軽になった」と述べている。含み損を先送りせず一括で処理し、抱えていた不確実性を早い段階で出し切る。就任初年度に大きな赤字を出してでも過去の荷物を下ろした点に、この決断の性格が表れていた[12]

あわせて、投資の規律そのものを立て直した。柿木社長は就任時に中期経営戦略「GC2021」を掲げ、資源市況に左右されにくい非資源中心のポートフォリオへ収益の柱を移す方針を打ち出した。個別の投資判断でも、資産評価と減損のリスクを取得前に厳しく見積もる審議へと運用を組み替えた。「事業投資は戦略ありきで行い、単に利益を買うための投資は行いません」——市況に賭ける大型資源開発から、丸紅は距離を置いていった[13]

結果

V字回復と資源投資の質

含み損を出し切った効果は早く表れた。翌2021年3月期、当期純利益は2,232億円へとV字回復し、以後は資源高も追い風に、2023年3月期には5,430億円の過去最高益を更新した。減損による最終赤字から最高益の更新までが、同じ社長の任期の内側で起きた。過去の投資の重荷を一度に落としたことが、その後の身軽な立て直しを支えたとみられる[14]

資源投資そのものをやめたわけではない。2023年12月、丸紅はEV普及と脱炭素で需要が伸びる銅を見込み、チリ・センチネラ鉱山の拡張を決めた。総事業費は約44億ドル(約6,600億円)にのぼるが、大半をプロジェクトファイナンスで賄い、丸紅の実質的な持ち出しを約800億円に抑える設計をとった。市況に丸ごと賭ける大型開発ではなく、リスクを外部資金へ逃がす投資の質へと、減損の教訓を組み替えていった[15][16]

出典・参考