日本郵政・ゆうちょ・かんぽ3社同時上場——最後の大型民営化

純粋持株会社と金融2社を同時に上場させる「親子上場」で、西室泰三社長は最後の大型放出株をどう市場に託したか

更新:

時期 2014年12月
意思決定者 西室泰三 日本郵政 社長
論点 政府保有株の放出と3社同時上場のスキーム設計
概要
2015年11月4日、日本郵政と、その完全子会社であるゆうちょ銀行・かんぽ生命保険の3社が東京証券取引所第一部に同時上場した。純粋持株会社と金融子会社2社を同時に市場へ出す「親子上場」で、政府と日本郵政が保有株を売り出し、3社合計で約1兆4千億円を調達した、戦後最後の大型民営化案件である。
背景
2005年の郵政民営化関連法成立と2007年の株式会社化を経ても、国が株式を100%保有する状態が続いていた。民主党政権下で金融2社の上場は一時凍結されたが、東日本大震災の復興財源に売却収入を充てる大義名分が加わり、上場への動きが加速した。国に保有義務のない政府保有株の大半を日本郵政株が占め、市場では「最後にして最大」の政府放出株と呼ばれた。
内容
純粋持株会社の日本郵政株を政府が、金融2社株を親会社の日本郵政が売り出す親子上場のスキームを採った。2014年12月26日に上場計画を発表し、2015年9月10日に上場が承認された。売出価格は日本郵政1400円、ゆうちょ銀行1450円、かんぽ生命保険2200円と決まり、11月4日に3社が同時上場した。
含意
上場初日は3社とも公開価格を上回る初値をつけ、個人投資家の関心の高さを示した。一方で純利益の約9割を金融2社が占める収益構造や、利益相反が生じやすい親子上場の統治、ユニバーサルサービスと市場からの生産性要求の板挟みといった課題を残したまま、株式を市場に公開し民間企業として評価を受ける立場に移った。
筆者の見解

民営化の到達点と、残された課題

3社同時上場は、小泉政権以来の郵政民営化に一つの区切りをつける出来事であった。国が全株を握る特殊会社を、純粋持株会社と金融2社を束ねたまま市場へ出し、復興財源という国民的な大義に結びつけた設計は、政治と財政と資本市場の要請を一つのスキームに畳み込む試みであったとみることができる。初日に3社が公開価格を上回ったことは、少なくとも売り出しの段階では、その綱渡りが成功裏に着地したことを示している。

もっとも、上場はゴールではなく、民間企業としての採点が始まる場面でもあった。純利益の大半を金融2社に頼る構造、利益相反を抱えやすい親子上場の統治、全国一律のサービス義務と市場の生産性要求との緊張——上場時に指摘された論点は、その後の株価の低迷や金融2社株の段階的な売却をめぐる判断のなかで、繰り返し問い直されていく。市場に開かれたことで、日本郵政グループはむしろ、民営化が本当に果たされたのかを問われ続ける立場に置かれたとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

民営化の紆余曲折と「最後の大型放出株」

郵政民営化は2005年の関連法成立で方向づけられ、2007年10月には郵便・郵便貯金・簡易保険の3事業がすべて株式会社へ移管された。もっとも株式会社化したとはいえ、国が株式を100%保有し続けていては実態は国営企業と変わらない。民主党政権下ではゆうちょ・かんぽの上場が一時凍結され、官僚OBが経営トップへ復帰するなど、民営化の理想からは後退していた。その後、政権が自民党へ移り、東日本大震災の復興財源に売却収入を充てる大義名分が加わったことで、上場への動きが一気に加速したとみられる[1]

上場が「最後にして最大の政府放出株」と呼ばれた背景には、政府保有株の規模があった。上場要件を満たす特殊会社向けの政府保有株のうち、法的な保有義務のない分は約9.2兆円にとどまり、その大半に当たる約8.3兆円を日本郵政株が占めていた。政府は日本郵政株の売却収入を4兆円と見積もり、その収入を東日本大震災の復興財源に充てることが法律で定められていた。財政面でも大きな意味を帯びた案件であったとみることができる[2][3]

親子同時上場という設計

上場計画で最大の論点となったのが、純粋持株会社である日本郵政と、その完全子会社である金融2社を同時に上場させる、いわゆる親子上場であった。親子上場は一般に親会社が子会社から利益を吸い上げる利益相反が問題視されやすい。ただし郵政民営化法では、政府保有の日本郵政株と、日本郵政が保有する金融2社株の売り出し・上場があらかじめ想定されており、東京証券取引所も少数株主保護の状況を確認したうえで親子上場自体は否定しない立場を採っていた[4]

このスキームが採られた背景には、日本郵政の収益構造があった。同社の純利益の約9割を金融2社が占めており、親子同時上場によって金融2社の企業価値が市場で最大限に評価されることは、日本郵政の株価形成にも直結する要素であった。政府が見込む1回あたり1.3兆円規模の売却額を達成するうえでも、日本郵政株の売り出しだけでは足りず、日本郵政が得る金融2社株の売却収入を組み込む設計が不可欠となっていた[5]

決断

3社同時上場の決定とスケジュール

2014年12月26日、上場計画発表の記者会見で、西室泰三・日本郵政社長は民営化を具体化させる意義を力説した。計画は2015年3月に仮審査を、6月末に東証への上場申請を済ませ、過去に例を見ない親子3社同時上場という難度の高さから審査に時間を要したものの、9月10日に上場が承認された。同時上場では野村証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、JPモルガン証券、ゴールドマン・サックス証券の4社がグローバルコーディネーターに選ばれ、これに国内外の証券を合わせて計11社が主幹事証券に名を連ねた[6][7]

値決めは相場の波乱と復興財源との綱引きのなかで進んだ。3社は7月に1株を30株に分割して個人が買いやすい株価水準に整え、目論見書で想定される3社合計の売出総額は約1兆4千億円に達した。9月下旬から10月上旬にかけては西室社長を含む経営陣が欧米の機関投資家を回るロードショーに臨んだ。夏場からの株式市場の波乱が収まらないなか、売出価格を低く設定すれば復興財源となる政府の収入が減るというジレンマを抱えつつ、10月に日本郵政1400円、ゆうちょ銀行1450円、かんぽ生命保険2200円と売出価格が決まった[8][9]

結果

上場初日と1兆4千億円の調達

2015年11月4日、3社はそろって買い気配で取引を始め、いずれも公開価格を上回る初値をつけた。日本郵政は公開価格1400円に対し初値1631円、ゆうちょ銀行は1450円に対し1680円、かんぽ生命保険は2200円に対し2929円と、かんぽは3割超の上昇となった。市場では個人投資家の人気の高さが証明されたと受け止められた。3社合計の資金調達額は約1兆4362億円にのぼり、1987年のNTTに次ぐ歴代有数の大型上場となった[10][11]

華々しい船出の一方で、上場後の郵政グループには構造的な課題が積み残されていた。純利益の約9割を金融2社に依存する収益構造は変わらず、金融2社株の段階的な売却が進めば持株会社の取り分は目減りする。加えて上場せず日本郵政の完全子会社にとどまった日本郵便は収益性が低く、直前に約6千億円で買収した豪トール社ののれん償却も重荷として意識されていた。ユニバーサルサービスの義務と、資本市場から迫られる生産性向上との板挟みも残された。政府はその後も段階的に保有株を売却し、震災復興の財源確保を進めていった[12][13]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2015年1月17日号「核心リポート01 日本郵政、ついに上場 ガバナンスに課題あり」
  • 週刊東洋経済 2015年9月5日号「第1特集 郵政上場 Part1 3分でわかる 郵政上場」
  • 週刊東洋経済 2015年10月10日号「核心リポート03 迫る日本郵政の上場 売出価格をめぐる深謀」
  • 日本経済新聞 2015年11月4日「日本郵政3社初値、いずれも公開価格を大幅に上回る」 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO93599160U5A101C1000000/
  • Bloomberg(2015年11月4日)「郵政3社初値は上昇、郵政17%高、ゆうちょ16%高、かんぽ33%高」 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2015-11-04/--igk1msdn
  • 日本郵政 有価証券報告書(2016年3月期)

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