IRジャパンHDの歴史
IR(アニュアルレポート制作)の先駆者だが、実質株主判明調査に業態転換。ただし利益相反で信用を喪失し、大型案件を相次いで失注
Author: @yusugiura
IR(アニュアルレポート制作)の先駆者だが、実質株主判明調査に業態転換。ただし利益相反で信用を喪失し、大型案件を相次いで失注
1984年に鶴野史朗氏(BCGなどを経てIRジャパンを設立。詳細な経歴は非開示。なので事情は察する)がアイ・アールジャパンを設立し、アニュアルレポートの作成などのIR活動の支援ビジネスを開始した。当時、日本企業においてIRの重要性は認知されていなかった。そのため、IRジャパンの創業は、IR活動を普及するという側面を担っており、IR支援における日本の先発企業であった。
1980年代は日本企業にとって資金調達が多様化する時期にあたり「国内の銀行からの借入金による調達」に加えて、「海外の機関投資家からの資本調達」という選択肢が生まれつつあった。制度面の背景としては、日本政府が資本自由化を推進しつつあり、海外投資家が日本の上場企業の株式を保有できるになったことが挙げられる。
経済面での背景としては、Japan as No.1の時期にあたり、日本企業の海外進出が活発化して株価が上昇トレンドになったことから、海外の機関投資家が日本の上場企業を投資対象とみなすようになったことがある。
その他の背景としては、総会屋(特殊株主)の追放がある。かつての日本企業では暴力団と思われる勢力が株主総会に出席し、経営陣にプレッシャーをかけており、資本市場が正常に機能していなかった。だが、企業法務に精通した弁護士によって、これらの勢力が駆逐されたことで、正常な資本市場の機能に戻りつつあった。
これらの背景が重なり、資本市場が日本でも正常に機能する兆しが見えるようになり、IRを行う前提条件が出そろったと言える。
1980年代から1990年代にかけて、多くの日本企業においてIR活動が「企業広報」と混同していた。すなわち企業の見栄えを良くするための活動をIRと捉えられる中で、IRジャパンの創業者である鶴野史朗氏はIRの活動の意義を「資本コストの削減」に求めた。
IRの目的について、1991年の時点で鶴野氏は「最終目的が『企業の資本コストを下げていく』点にある」(1991/1銀行時評)と述べており、創業時からIRを「広報としての手段」ではなく、「資金調達の手段」として捉えていた。
すなわち、以下、推察になるが、上場企業が資本市場から資金調達を行う際に、IR活動によって企業価値を正しく判定される状態に保ち、結果として資本コストが低い状態を保つことが、IRの本源的な意義があると判断したと思われる。
IRジャパンはIR活動の先駆者として創業されたが、順調に業容を拡大したわけではない。
その理由として、1990年代を通じてバブル崩壊によって日本企業の株価が低迷して海外の投資家が日本の資本市場から撤退したことや、間接金融が充実している日本企業において、株式の希薄化を伴う増資による調達のニーズが限定的だったことが挙げられる。
このため、1980年代から1990年代にかけて、IRの必要性を認知する日本企業は増えたものの、実際にIRに注力する企業はごく一部に限られた。
また、1990年代を通じて日本国内ではアニュアルレポートの制作を行う企業(日本ビジネスアートなどが参入)は珍しくなくなった。顧客ニーズに合わせて冊子を構成し、印刷するだけの参入障壁の低いビジネスであるため、IRジャパンは先発企業としてのメリットを生かしきれなかった。
この結果、IRジャパンはIR活動のパイオニアとして創業したものの、1990年代を通じて業績が低迷。1997年には「経営が危機的な状況」(2016/6企業診断)に陥ったという
ここ10年間、日本企業のエクイティー・ファイナンスはすごく増えました。それも時価発行で行われています。しかし最近問題になっているように日本企業の配当性向は低いですからね。だからこそ、こういうIR活動を地道にやっていることが株主あるいは投資家との間の信頼関係を作ることになります。そのことがエクイティー・ファイナンスをスムーズに行うために効果的であり、ひいては資本コストの引き下げにつながるということです。