IRジャパンHDの歴史

IR(アニュアルレポート制作)の先駆者だが、実質株主判明調査に業態転換。ただし利益相反で信用を喪失し、大型案件を相次いで失注

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Author: @yusugiura
1984〜1997 - 創業経緯
日本におけるIRの先駆者。アニュアルレポート制作が本業だったが、儲からずに経営危機へ
1984 12月
会社設立
株式会社アイ・アールジャパンを設立
【日本におけるIR(Investor Relations)のパイオニア】 1984年に鶴野史朗氏(BCGなどを経てIRジャパンを設立。詳細な... 続きを読む
1985 01月
新規参入
[*出所1-2]
上場企業に対してアニュアルレポートの作成支援を開始
海外の機関投資家向けのディスクロージャーを想定
鶴野史朗(IRジャパン 創業者)
鶴野史朗(IRジャパン 創業者)
1989
経営方針
[*出所1-3]
日本におけるIR元年を宣言
1980年代を通じてIRを行う企業はソニーなどごく一部だったが、1989年になると伊藤忠商事などの大企業も相次いでIRを開始。加えて、インサイダー取引の規制強化、三菱銀行のNY上場、バブルによる株価高騰を受けて、鶴野史朗氏は1989年に「IR元年」を宣言した
鶴野史朗(IRジャパン 創業者)
鶴野史朗(IRジャパン 創業者)
1997
経営危機
[*出所1-4]
日本の株式市場の低迷により業績悪化。経営危機へ
IRジャパンはIRの先駆者であったが、バブル崩壊による株価の低迷や、IRに意義を見出さない企業があり、IRの普及が多難な状況に陥った。IRジャパンの業績も悪化し「経営は危機的状況」(2016/6企業診断)だったという。(推察だが、競争面ではアニュアルレポートの作成は単純作業であるため参入障壁を構築できず、収益も伸び悩んだと思われる)
寺下史郎氏(IRジャパンHD 元CEO)
寺下史郎氏(IRジャパンHD 元CEO)
Performance > 1984〜1997
1997〜2007 - 業態転換
議決権行使支援のビジネスを開始。機関投資家ではなく上場企業の味方となり、買収防衛策の支援を強化
1997 10月
新規事業
[*出所2-1]
機関投資家の判明調査を開始
IRジャパンは、従来のIR支援に加えて、株主の判明調査に本格参入した。米国で普及していた判明調査のビジネスを参考に、日本国内で信託銀行が管理する株主について、実質的な所有者を明らかにするサービスを展開。(調査は足や電話で稼ぐスタイルと推察される)
寺下四郎(IRジャパンHD 元CEO)
寺下四郎(IRジャパンHD 元CEO)
1998 05月
新規事業
[*出所2-2]
議決権行使支援を開始。主な顧客はソニー
株主判明調査を生かす形で、株主による議決権行使の支援ビジネスを開始。最初の顧客はソニーであり、外国人株主の判明調査を依頼されたという。以後、IRジャパンは「上場企業のIR支援」から「上場企業の議決支援」へとビジネスを大きく転換した
寺下史郎氏(IRジャパンHD 元CEO)
寺下史郎氏(IRジャパンHD 元CEO)
2004 03月
海外展開
[*出所2-3]
ニューヨークオフィスを新設
日本企業の株式を保有する海外機関投資家増加を受けて、ニューヨークに拠点を新設。海外投資家の動向調査を本格化
2005 09月
新サービス
[*出所2-4]
敵対的買収の監視サービスを開始
2000年代を通じて海外機関投資家が日本企業の株式を保有し、TOBを仕掛けることが定着した。これに対して、IRジャパンHDは上場企業における買収防衛を支援する姿勢を見せ、敵対的買収の監視サービスを開始する。(私見だが、資本市場の自由の原則から逆行する打ち手に見え、心象は悪い)
寺下四郎(IRジャパンHD 元CEO)
寺下四郎(IRジャパンHD 元CEO)
2005 09月
顧客獲得
[*出所2-5]
第一三共とプロキシーファイトに関するアドバイザリー契約を締結
2005年に第一製薬と三共は経営統合の方針を発表するが、一部の株主(村上ファンド)が統合に反対。これを受けて、IRジャパンは第一三共側とプロキシーファイトに関するアドバイザリー契約を締結して村上ファンドと対立。結果として第一三共の経営統合を成立させた。以後、IRジャパンはアドバイザリー業務を徐々に拡大
寺下四郎(IRジャパンHD 元CEO)
寺下四郎(IRジャパンHD 元CEO)
Performance > 1997〜2007
2007〜2018 - MBO
MBOにより寺下史郎氏が主導権を握り、創業者の鶴野氏は退任へ。買収防衛策の支援ビジネスを継続
2007 10月
会社設立
[*出所3-1]
寺下史郎氏がアイ・アールジャパンHDを設立
寺下史郎氏は旧アイ・アールジャパンの株式をMBOによって取得することを目的とし、アイ・アールジャパンHDを設立(なお、寺下氏と、創業者の鶴野氏との関係の温度感は不明であり、温和なMBOだったのか、それとも確執を伴うMBOであったのかは窺い知れない)
2008 04月
MBO
[*出所3-2]
IRジャパンHDが旧IRジャパンを吸収合併。MBOが成立
2010 03月
業績低迷
リーマンショックを受けて業績低迷へ
2011 03月
株式上場
[*出所3-4]
東京証券取引所JASDAQに株式上場
2011 06月
経営方針
[*出所3-5]
買収防衛策の支援継続を表明
FY2010の有価証券報告書において、アイアールジャパンは「上場企業の買収防衛策に対する支援の強化」という方針を公表した。(以下、私見だが、この選択は資本市場の自由化を重視する機関投資家を敵に回す行為と言える。すなわち、IRジャパンと機関投資家における関係性の瓦解を意味する)
2013 04月
新規事業
[*出所3-6]
株式事務代行業務を開始
2013 04月
新規事業
[*出所3-7]
投資銀行業務を開始
2017 03月
株式上場
[*出所3-8]
東京証券取引所第2部に市場変更
Performance > 2007〜2018
2018〜2021 - 急成長
買収防衛策などのアドバイザリー業務を強化。5000万円以上の大型案件の獲得で業容拡大
2018 01月
拠点新設
[*出所4-1]
投資銀行本部丸の内オフィスを新設
新国際ビルに拠点を設置。敵対的買収を避けたい日本企業に対するアドバイザーリーを本格化。これらの案件は「大型案件(5000万円〜)」と位置付けられ、丸の内に設置した投資銀行部門が担当。以後、IRジャパンHDは大型案件の受注によって業容を拡大するが、これらの案件に継続性はなく、業績予想の精度が低下するデメリットを被った
2018 09月
株式上場
[*出所4-2]
東京証券取引所第1部に市場変更
2019 08月
業績好調
[*出所4-3]
業績予想を上方修正
2021 04月
顧客確保
[*出所4-4]
アジア開発キャピタルと接触
当時のIRジャパンの副社長A氏は、アジア開発キャピタルと接触(東京機械製作所の買収アドバイスを行った可能性について「ダイヤモンオンライン(2022/6/6及び2022/6/18)」が報道)
2021 08月
顧客確保
[*出所4-5]
SMBC信託銀行と業務提携契約を締結
証券代行業務を強化。アクティビスト・敵対的TOBを受けた上場企業に対して、アドバイザーを務める立場を明確化(この結果、アクティビストとの対立が、より一層深刻化したと推察)
2021 08月
キーパーソン
[*出所4-6]
皆川裕氏が取締役を辞任
2021 09月
顧客確保
[*出所4-7]
東京機械製作所と防衛アドバイザリー業務を締結
アジア開発キャピタルによる東京機械製作所の買収について、東京機械製作所と買収防衛のアドバイザリー業務を締結(ここに利益相反が成立した疑いがあったと推察される。2022年11月にIRジャパンHDは本件に関する調査委員会を発足)
2021 11月
経済犯罪
[*出所4-8]
代表取締役副社長COO(当時)がIRジャパンHDの株式を売却
金融商品取引法における違反の疑い
Performance > 2018〜2021
2021〜2022 - 経営危機
大型案件の喪失で業績低迷。副社長はインサイダー取引の疑いで逮捕。深刻な利益相反により、大型案件が壊滅的な失注へ
2022 03月
業績低迷
[*出所5-1]
業績予想の大幅な下方修正。役員報酬を減額
5000万円以上の大型案件の成約失敗により、大幅な業績予想の下方修正を発表。FY2021の通期業績予想の売上高120億円に対して、FY2021の修正後予想売上高84億円(FY2021の実績売上高は84.02億円)。業績予想の大幅な悪化を受けて、役員報酬の減額を決定
2022 06月
経営危機
[*出所5-2]
証券取引等監視委員会がIRジャパンHDを強制捜査
インサイダー取引の疑い
2022 06月
キーパーソン
[*出所5-3]
代表取締役副社長COOの栗尾拓滋氏が辞任
2022 11月
業績低迷
[*出所5-4]
大型案件で相次ぎ失注
IRジャパンは不祥事により顧客からの信頼を喪失。5000万円以上の大型案件について、FY2021上期の売上高16.9億円から、FY2022同売上高4.1億円に激減した。一方、株主判明調査などの通常案件の収益は安定しており、業績を下支え
2022 09月
経営問題
[*出所5-5]
週刊ダイヤモンドの報道内容を否定。法的措置を検討
2022 09月
社長交代
[*出所5-6]
寺下史郎氏が代表取締役社長CEOを退任。大規模な人事異動へ
後任の代表取締役社長に北村雄一郎氏が就任。寺下史郎氏は代表権のない取締役に就任。CEOの役職は消滅。また、古田温子氏が常務取締役企画本部長兼エクイティ・コンサルティング統括本部長を辞任。組織における大規模な異動が発生
2022 11月
経営危機
[*出所5-7]
臨時取締役会にて第三者委員会の設置を決定(2回目)
2022年11月に週間ダイヤモンドは東京機械製作所に対する問題をスクープ。IRジャパンは東京機械に買収防衛策をアドバイスする一方、東京機械の株式取得を狙うアジア開発キャピタルのアドバイスも兼任していた疑いがあることを公表した。これを受けてIRジャパンは第三者委員会を設置(インサイダー取引に続く第三者員会の設置であり、信頼を喪失。同社の株価は暴落へ)
Performance > 2021〜2022
1984
Report

株式会社アイ・アールジャパンを設立

会社設立

日本におけるIR(Investor Relations)のパイオニア

1984年に鶴野史朗氏(BCGなどを経てIRジャパンを設立。詳細な経歴は非開示。なので事情は察する)がアイ・アールジャパンを設立し、アニュアルレポートの作成などのIR活動の支援ビジネスを開始した。当時、日本企業においてIRの重要性は認知されていなかった。そのため、IRジャパンの創業は、IR活動を普及するという側面を担っており、IR支援における日本の先発企業であった。

1980年代は日本企業にとって資金調達が多様化する時期にあたり「国内の銀行からの借入金による調達」に加えて、「海外の機関投資家からの資本調達」という選択肢が生まれつつあった。制度面の背景としては、日本政府が資本自由化を推進しつつあり、海外投資家が日本の上場企業の株式を保有できるになったことが挙げられる。

経済面での背景としては、Japan as No.1の時期にあたり、日本企業の海外進出が活発化して株価が上昇トレンドになったことから、海外の機関投資家が日本の上場企業を投資対象とみなすようになったことがある。

その他の背景としては、総会屋(特殊株主)の追放がある。かつての日本企業では暴力団と思われる勢力が株主総会に出席し、経営陣にプレッシャーをかけており、資本市場が正常に機能していなかった。だが、企業法務に精通した弁護士によって、これらの勢力が駆逐されたことで、正常な資本市場の機能に戻りつつあった。

これらの背景が重なり、資本市場が日本でも正常に機能する兆しが見えるようになり、IRを行う前提条件が出そろったと言える。

資本コストの低下にIRの意義を見出す

1980年代から1990年代にかけて、多くの日本企業においてIR活動が「企業広報」と混同していた。すなわち企業の見栄えを良くするための活動をIRと捉えられる中で、IRジャパンの創業者である鶴野史朗氏はIRの活動の意義を「資本コストの削減」に求めた。

IRの目的について、1991年の時点で鶴野氏は「最終目的が『企業の資本コストを下げていく』点にある」(1991/1銀行時評)と述べており、創業時からIRを「広報としての手段」ではなく、「資金調達の手段」として捉えていた。

すなわち、以下、推察になるが、上場企業が資本市場から資金調達を行う際に、IR活動によって企業価値を正しく判定される状態に保ち、結果として資本コストが低い状態を保つことが、IRの本源的な意義があると判断したと思われる。

アニュアルレポート制作は参入障壁が低く、1997年に経営危機へ

IRジャパンはIR活動の先駆者として創業されたが、順調に業容を拡大したわけではない。

その理由として、1990年代を通じてバブル崩壊によって日本企業の株価が低迷して海外の投資家が日本の資本市場から撤退したことや、間接金融が充実している日本企業において、株式の希薄化を伴う増資による調達のニーズが限定的だったことが挙げられる。

このため、1980年代から1990年代にかけて、IRの必要性を認知する日本企業は増えたものの、実際にIRに注力する企業はごく一部に限られた。

また、1990年代を通じて日本国内ではアニュアルレポートの制作を行う企業(日本ビジネスアートなどが参入)は珍しくなくなった。顧客ニーズに合わせて冊子を構成し、印刷するだけの参入障壁の低いビジネスであるため、IRジャパンは先発企業としてのメリットを生かしきれなかった。

この結果、IRジャパンはIR活動のパイオニアとして創業したものの、1990年代を通じて業績が低迷。1997年には「経営が危機的な状況」(2016/6企業診断)に陥ったという

鶴野史朗(IRジャパン 創業者)

ここ10年間、日本企業のエクイティー・ファイナンスはすごく増えました。それも時価発行で行われています。しかし最近問題になっているように日本企業の配当性向は低いですからね。だからこそ、こういうIR活動を地道にやっていることが株主あるいは投資家との間の信頼関係を作ることになります。そのことがエクイティー・ファイナンスをスムーズに行うために効果的であり、ひいては資本コストの引き下げにつながるということです。

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