この判断の核心は、技術の独創よりも、輸入品を分解して国産の製造手段に置き換え、そこに呼びやすい名前を添えた点にある。井上貞治郎氏は舶来の"なまこ紙"を手製の機械で作り替え、"段ボール"という語呂の良い呼び名を与えた。呼び名すら無かった資材に名称と国産品が同時に生まれたことで、国内にそれまで存在しなかった商品カテゴリーが立ち上がったと推察される。先行者がカテゴリーの標準を握る強さが、その後の事業の土台になった。
井上氏の出発点は、綿密な市場調査ではなく、二畳の座敷での思案と手作業の試行錯誤にあった。偶然に近い連鎖が同氏を国産初の段ボール製造へ導いた経緯には、創業期における計画と偶発の入りまじりがうかがえる。名づけと国産化が重なったこの創業は、標準を先に握った者がのちの垂直統合や業界再編の土台を得るという道筋を、規模でも資本でもなく名称と製法という無形の先行によって、早い時期に示している。