概観

業界の物語

--- --- ドラッグストアの歴史は、医薬品という「医療」の顔を持ちながら、その本質が小売業の薄利多売に行き着いた集約の物語である。1995年に矢野経済研究所が記録した勢力図(下の地図)では、売上首位のマツモトキヨシでも約906億円、上位は松戸・静岡・小山・大阪と地域ごとに割拠し、まだ全国チェーンは存在しなかった。

ドラッグストアは専門性(薬)と便利性(日用品・化粧品)を兼ねる業態だが、売り場の大半を占めるH&BC(ヘルス&ビューティ)と日用雑貨は差別化の乏しい商品で、安く大量に売る点では食品スーパーやディスカウントストアと変わらない。処方箋に基づく調剤は本来「医療」の側にあり、アインホールディングスのように調剤特化で大型化した系統は、いわば小売への「移植」である。だが店舗網の規模を追えば、行き着く先はどこも小売の価格競争だった。

転機は規制緩和である。1994年の大店法緩和で1,000㎡未満の出店が原則自由化され、2000年には大店立地法で面積による出店規制そのものが撤廃された。さらに2009年の改正薬事法で登録販売者制度が始まり、薬剤師がいなくても第2類・第3類の一般用医薬品を売れるようになると、出店と人員の制約が外れて参入と大型化が一気に進んだ。石油業界が特石法廃止で価格競争へ突入したのと同じ構図で、規制に守られた並立から、自由化後の集約へと業界は舵を切った。

「ドラッグストア」と一括りにしても、集客の核は一様ではない。化粧品・H&BCに特化した都心型の小型店(マツモトキヨシ、セイジョー、コクミン)、食品まで併設した郊外型の大型フード&ドラッグ(後のコスモス薬品)、調剤を併設して医療と結ぶ型(スギ薬局)。都心と郊外でも戦略は分かれる。化粧品なのか、食品併設なのか、集客方法は違う。だが、どの型でも共通して効いたのは、地域を絞って集中出店するドミナント戦略だった。物流と認知を固め、薄利を量で回収する勝ち筋は、業態の違いを超えて一貫している。

価格競争はコスト効率に劣る中小を脱落させ、仕入規模を握る上位への集約を進めた。1994年に並んでいた地域チェーンの多くは姿を消すか、いくつかの大きな受け皿へ吸い込まれていった。イオン傘下でタキヤ・寺島薬局・ハックキミサワ(→CFS)などを束ねたウエルシア、レデイ薬局などを統合したツルハ、そしてマツモトキヨシとココカラファイン(セガミメディクス+セイジョー)が一つになったマツキヨココカラ。買収再編が、業界の地図を塗り替えていった。

一方で、その流れに乗らない単独勢も存在する。九州発のコスモス薬品は、食品比率の高い郊外大型店をドミナント出店で増やし、M&Aにほぼ頼らず自力で上位へ駆け上がった。集約が主旋律のこの業界にあって、買収によらず巨大化した会社が並び立つことは、薄利多売の競争が「規模の作り方」を一つに縛らなかったことの証でもある。

筆者所感

"「薬を売る店」が「薄利多売の小売」に行き着くまで"

ドラッグストアは「薬を売る店」として始まったが、店を増やすほど主役は化粧品と日用品に移り、競争は価格へ収斂した。専門性で守られた医薬品は処方箋の調剤へ、便利性で売る日用品は薄利多売の小売へ。同じ「ドラッグストア」の看板の下で、医療と小売は静かに分かれていった。規模を取りに行った各社が行き着いたのは、結局スーパーやディスカウントストアと地続きの、薄利多売の世界だった。

このため、ドラッグストアの業界再編は、石油やビールのような集約とよく似ている。仕入と物流の規模がものを言い、ドミナントで地域を固めた者が残る。買収再編でイオンが二大チェーン(ウエルシア・ツルハ)を束ねる一方、コスモス薬品のように一度も買収に頼らず単独で巨大化した会社が並び立つのは、薄利多売の競争が「規模の作り方」を一つに縛らなかったことの裏返しでもある。1994年の地図に並んだ地域チェーンの顔ぶれは、その後の三十年で何が淘汰され、何が残るのかを先取りしていた。

業界構造の変遷

1994年の勢力図

矢野経済研究所『ヤノニュース』1503号(1995年3月)「主要ドラッグチェーンの売上高・経常利益一覧」をもとに、主要28社を1994年(各社94年決算)の本社所在地で日本地図に配置。円の大きさは売上高、色は現在まで存続する企業のブランドカラー(判明分)。関東・関西への集中と、まだ全国に散らばる中小チェーンの並立が見てとれる。

主要ドラッグチェーン 1994年 売上・店舗マップ 主要ドラッグチェーン28社 1994年の勢力図 円の大きさ=売上高 ・ 各社94年決算時点 社名本社売上(億)店舗 マツモトキヨシ(松戸市)売上906億円・205店 → 現存(東証 3088) ツルハ(札幌市)売上256億円・118店 → 現存(東証 3391) サンドラッグ(府中市)売上249億円・52店 → 現存(東証 9989) マツモトキヨシ(松戸市)売上906億円・205店 → 現存(東証 3088) マツモトキヨシ 松戸 906 205 ハックキミサワ 静岡 514 125 カワチ薬品 小山 509 54 コクミン 大阪 496 230 セガミメディクス 大阪 321 290 ヒグチ産業 東大阪 283 457 ツルハ(札幌市)売上256億円・118店 → 現存(東証 3391) ツルハ 札幌 256 118 サンドラッグ(府中市)売上249億円・52店 → 現存(東証 9989) サンドラッグ 府中 249 52 マルゼン 尼崎 205 134 タキヤ商事 尼崎 161 81 セイジョー 世田谷 133 58 飯塚薬品 前橋 132 26 キリン堂 吹田 125 115 寺島薬局 つくば 116 26 ミネ医薬品 渋谷 115 46 シバタ薬品 桐生 112 22 龍生堂本店 新宿 110 26 レディ薬局グループ 松山 100 33 ドラッグストアアイゴー 青梅 87 22 ジャスコドラッグ事業部 千葉 86 91 ダルマ薬局 仙台 85 34 コダマ 新潟 78 75 清水ドラッグストアー 豊明 74 70 大賀薬局 福岡 71 27 朝日メディコ 豊島 71 160 湘南薬品 藤沢 70 26 太陽 館林 69 17 協和商事 東大阪 67 21
社名 本社 決算期 売上高(億円) 前期比 経常利益(百万円) 利益率 店舗数
マツモトキヨシ 松戸市 94/3 906 107.7 2,628 2.9 205
ハックキミサワ 静岡県 94/2 514 1,077 2.1 125
カワチ薬品 小山市 94/3 509 117.0 180 0.4 54
コクミン 大阪市 94/4 496 105.5 1,550 3.1 230
セガミメディクス 大阪市 93/9 321 110.2 1,462 4.6 290
ヒグチ産業 東大阪市 94/3 283 93.7 1,120 4.0 457
ツルハ 札幌市 94/5 256 114.4 820 3.2 118
サンドラッグ 府中市 94/3 249 107.9 2,030 8.2 52
マルゼン 尼崎市 94/5 205 100.9 134
タキヤ商事 尼崎市 94/2 161 98.2 221 1.4 81
セイジョー 世田谷区 93/9 133 109.5 902 6.8 58
飯塚薬品 前橋市 94/4 132 129.2 510 3.9 26
キリン堂 吹田市 94/2 125 112.1 229 1.8 115
寺島薬局 つくば市 94/2 116 108.4 320 2.8 26
ミネ医薬品 渋谷区 94/3 115 104.5 46
シバタ薬品 桐生市 94/5 112 100 0.9 22
龍生堂本店 新宿区 93/9 110 105.9 260 2.4 26
レディ薬局グループ 松山市 94/6 100 97.8 100 1.0 33
ドラッグストアアイゴー 青梅市 94/3 87 134.8 240 2.8 22
ジャスコドラッグ事業部 千葉市 94/2 86 118.4 91
ダルマ薬局 仙台市 94/3 85 108.1 610 7.2 34
コダマ 新潟県 93/8 78 107.6 75
清水ドラッグストアー 豊明市 93/12 74 114.0 220 3.0 70
大賀薬局 福岡市 93/9 71 110.9 190 2.7 27
朝日メディコ 豊島区 94/2 71 106.6 160
湘南薬品 藤沢市 93/9 70 127.4 26
太陽 館林市 93/9 69 95.8 20 1.2 17
協和商事 東大阪市 93/8 67 121.0 280 4.2 21

出所:矢野経済研究所『ヤノニュース』1503号(1995年3月20日)「主要ドラッグチェーンの売上高・経常利益一覧」。売上高は百万円→億円換算。色付きは現在まで系譜が続く企業(太字行)、うち企業色はブランドカラーが判明する社(マツキヨ系・ツルハ系・サンドラッグ)。マツモトキヨシ・ハックキミサワの売上は営業収益。

系譜図

1994年の主要チェーンが、その後どの企業グループへ集約されたかを示す系譜図。大店法・薬事法の規制緩和(縦の点線)を境に参入と価格競争が加速し、イオン傘下のウエルシア・ツルハ、マツモトキヨシ×ココカラファインの統合へと収斂した。右端の太枠が現存する持株会社。

1994 大店法緩和 出店規制の自由化で大型化・参入が加速
2009 改正薬事法 登録販売者制度で医薬品販売を規制緩和
1995 2001 2003 2005 2008 2008 2012 2015 2005 2007 2015 2017 2007 2008 2010 2021 2009 2008 2014
寺島薬局
ハックキミサワ 1993〜
CFSコーポレーション 2003〜2016
ジャスコ ドラッグ事業
ドラックス 1995〜2001
タキヤ商事
タキヤ 2001〜2015
グリーンクロス・コア 1997〜2005
ウエルシア関東
高田薬局
グローウェルHD 2008〜2012
ウエルシアHD
イオン傘下・売上首位(本サイト未収録)
ツルハ
くすりの福太郎
レデイ薬局
旧レディ薬局グループ
杏林堂グループ
ツルハHD
マツモトキヨシ 1932〜
マツモトキヨシHD 2007〜2021
セガミメディクス
セイジョー 1951〜
ココカラファインHD 2008〜2010
ココカラファイン 2010〜2021
マツキヨココカラ&カンパニー コスモス薬品
M&Aに依らず単独で全国展開
ダイレックス
サンドラッグ
1994年から独立を維持
スギ薬局 1976〜
スギHD
調剤併設に強み
カワチ薬品
独立系のまま上場を維持
キリン堂 1958〜
キリン堂HD
2021年MBOで上場廃止

主要企業の現在

1994年の主要チェーンの系譜を受け継ぎ、現在も上場している主要企業。売上首位のウエルシアHD(イオン傘下)など一部は本サイト未収録のため掲載していない。

3088
マツキヨココカラ&カンパニー
売上高 10,616 億円 営業利益 820 億円
営業利益 販管費 売上原価 売上高 営業利益率
FY1998〜FY2025
3391
ツルハHD
売上高 14,505 億円 営業利益 630 億円
営業利益 販管費 売上原価 営業利益率
FY2007〜FY2026
9989
サンドラッグ
売上高 8,018 億円 営業利益 444 億円
営業利益 販管費 売上原価 営業利益率
FY2006〜FY2025
7649
スギHD
売上高 10,103 億円 営業利益 485 億円
営業利益 販管費 売上原価 営業利益率
FY2007〜FY2026
3349
コスモス薬品
売上高 10,113 億円 営業利益 404 億円
営業利益 販管費 売上原価 営業利益率
FY2006〜FY2025
3549
クスリのアオキHD
売上高 5,014 億円 営業利益 266 億円
営業利益 販管費 売上原価 売上高 営業利益率
FY1992〜FY2025
3148
クリエイトSDHD
売上高 4,570 億円 営業利益 226 億円
営業利益 販管費 売上原価 売上高 営業利益率
FY2002〜FY2025

業界年表

イベント 詳細
1995 ジャスコ ドラッグ事業 → ドラックス ジャスコのドラッグ事業を分離しドラックスを設立
2001 タキヤ商事+ドラックス → タキヤ タキヤ商事とドラックスが合併しタキヤに
2003 ハックキミサワ → CFSコーポレーション ハックキミサワがCFSコーポレーションへ商号変更
2005 グリーンクロス・コア → ウエルシア関東 グリーンクロス・コアがウエルシア関東へ商号変更
2005 ツルハ → ツルハHD ツルハが持株会社ツルハHDへ移行
2007 くすりの福太郎 → ツルハHD くすりの福太郎を完全子会社化
2007 マツモトキヨシ → マツモトキヨシHD マツモトキヨシが持株会社マツモトキヨシHDへ移行
2008 寺島薬局 → ウエルシア関東 ウエルシア関東が寺島薬局を子会社化
2008 ウエルシア関東+高田薬局 → グローウェルHD ウエルシア関東と高田薬局が株式移転でグローウェルHDを設立
2008 セガミメディクス+セイジョー → ココカラファインHD セガミメディクスとセイジョーが株式移転でココカラファインHDを設立
2008 スギ薬局 → スギHD スギ薬局が持株会社スギHDへ移行
2009 ダイレックス → サンドラッグ ダイレックスを完全子会社化
2010 ココカラファインHD → ココカラファイン ココカラファインHDがココカラファインへ商号変更
2012 グローウェルHD → ウエルシアHD グローウェルHDがウエルシアHDへ商号変更
2014 キリン堂 → キリン堂HD キリン堂が持株会社キリン堂HDへ移行
2015 タキヤ+CFSコーポレーション → ウエルシアHD タキヤ・CFS(ハック系)をウエルシアHDが統合
2015 レデイ薬局 → ツルハHD レデイ薬局(旧レディ薬局グループ)を子会社化
2017 杏林堂グループ → ツルハHD 杏林堂グループを子会社化
2021 マツモトキヨシHD+ココカラファイン → マツキヨココカラ&カンパニー マツモトキヨシHDとココカラファインが経営統合

資料

売上シェアの変遷

売上高ベースの業界内シェア。1994年は矢野データの主要28社の売上から算出(業界全体ではなく主要チェーン内の構成比)。後年代は出所が揃い次第追記する。

1990年代
1994年(各社94年決算)
主要28社内の売上構成比
  • マツモトキヨシ16.2%16%)
  • ハックキミサワ9.2%9%)
  • カワチ薬品9.1%9%)
  • コクミン8.9%9%)
  • セガミメディクス5.7%6%)
  • ヒグチ産業5%5%)
  • ツルハ4.6%5%)
  • サンドラッグ4.4%4%)
  • その他20社36.9%37%)
出所:ヤノニュース 1503号(矢野経済研究所, 1995年3月)
2000年代
データなし
2010年代
データなし
2020年代
2022年度
国内DgS市場の売上シェア
  • ウエルシアHD13.1%13%)
  • ツルハHD11.1%11%)
  • マツキヨココカラ10.9%11%)
  • コスモス薬品9.5%9%)
  • サンドラッグ7.9%8%)
  • スギHD7.7%8%)
  • クリエイトSD4.4%4%)
  • 富士薬品4.4%4%)
  • その他31%31%)
出所:日本チェーンドラッグストア協会 市場規模(2022年度 約8.7兆円)+各社売上ランキング

歴史的証言

再編前夜、1995年の業界観測を矢野経済研究所の『今後の展望』から。店舗大型化と業態開発の方向性が、その後の集約を先取りしている。

"矢野経済研究所" "『ヤノニュース』1503号「今後の展望」"
「大店法」の緩和により、出店調整の対象となる店面積の下限が500㎡(約152坪)から1,000㎡(約303坪)に引き上げられた。これにより、従来は150坪が主体であったドラッグストアも300坪までは原則として自由な出店が可能となった。
業態開発の方向性は大きく3つに分類される。第一が従来からの都心型立地による展開で、20〜50坪を主体とし、H&BC分野に特化している。第二が、現在の業態開発の中心を占める大型ドラッグストアで、H&BC分野を核に日用雑貨品などを幅広く扱い、コンビニエンス性やバラエティ性を持たせている。
第三が、ジャスコやハックキミサワが開発に着手したコンボストア(コンビネーションストア)である。生鮮食料品中心の食品売り場と、H&BCを核とする非食品分野を併せ持つことで集客力を高めており、フード&ドラッグともいう。
また、医薬分業の進展で、調剤への取組を強化するチェーンが増加している。将来的には店舗は大型化の方向にあるが、すぐに300坪クラスが主流になるとは言い難い。
"ヤノニュース 1503号(矢野経済研究所, 1995年3月20日)"

"再編前夜、1995年時点の業界観測。ここで挙げられた「店舗大型化」「業態の3類型」「医薬分業=調剤併設」は、その後30年の集約と業態進化をほぼ言い当てている。"

出所

  • ヤノニュース 1503号(矢野経済研究所, 1995年3月20日)「ドラッグストア市場実態」主要ドラッグチェーンの売上高・経常利益一覧/今後の展望
  • ウエルシアホールディングス/ウエルシア薬局 沿革(グリーンクロス・コア→ウエルシア関東→グローウェルHD→ウエルシアHD、CFS・タキヤ・寺島薬局の統合)
  • ツルハホールディングス 沿革(2005年持株会社化、くすりの福太郎・レデイ薬局・杏林堂の子会社化)
  • マツキヨココカラ&カンパニー 沿革(マツモトキヨシHDとココカラファイン〈セガミメディクス+セイジョー〉の2021年経営統合)
  • イオン プレスリリース「ウエルシアHD・ツルハHDの経営統合」(2024年2月/2025年4月)
  • 大規模小売店舗法・大規模小売店舗立地法(e-Gov 法令データ提供システム)
  • 厚生労働省 政策レポート「一般用医薬品販売制度(登録販売者・リスク区分)」改正薬事法(2009年6月施行)
  • 日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)ドラッグストア実態調査(市場規模・店舗数の推移)
  • コスモス薬品・スギホールディングス・サンドラッグ・カワチ薬品・キリン堂ホールディングス 各社沿革・有価証券報告書