この再編の核心は、事業の足し算そのものよりも、対等合併を成立させるために創業者が差し出した"世襲の放棄"にあったのだろう。オーナー3人が集まる合併では、誰の子が跡を継ぐか、どの社が主導権を掌握するかをめぐる争いが起きやすい。鬼塚喜八郎氏はその火種を、合併の入り口で"同族企業からの脱皮"という約束に置き換えた。自らも創業者でありながら、真っ先に自分の一族の特権を放棄して見せたところに、この合併の説得力があっただろう。
社名からオニツカという創業者の姓を外し、青少年育成というスポーツ観をラテン語の頭文字に託したことも、同じ思想の延長にあった。合併後の規模の倍増は、3社の事業が確かに補い合っていたことを示している。もっとも、脱同族の理念を掲げた合併が、その後の非創業家による経営承継や近年のプロ経営者の登用までまっすぐに結んだかどうかは、後年の歩みが答えることになる。創業家の世襲と対等統合をどう両立させるかという問いを、アシックスは発足の時点で経営の中心へ据えていた。