都心旗艦店から生活圏の中型店へ——堂前宣夫の「第二創業」
グローバルSPAの規模競争を追うのか、地方の生活圏へ降りるのか——無印良品が選んだ針路
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- 概要
- 2021年9月、ファーストリテイリング出身の堂前宣夫社長が就任し、都心の大型旗艦店に頼る成長から、日本の食品スーパー商圏に構える600坪前後の中型店への転換を掲げた経営判断。2030年に売上高3兆円という長期目標を置いた。
- 背景
- 2018年2月期に最高益を記録したものの、利益源は国内と東アジアに偏り、欧米の赤字をそこで埋める構造だった。決算期変更に伴う2020年8月期の変則決算にコロナ禍が重なり、上場以来初の純損失169億円に沈んだ。
- 内容
- 業界規模での首位は目指さないと明言し、食品スーパーの隣で食品・日用品・衣料を一体で揃える生活圏密着型の中型店へ出店を組み替えた。1980年に西友のPBとして生まれた原点への回帰を「第二創業」と位置づけた。
- 含意
- 同じグローバルSPAの系譜を歩んだ経営者が、規模の拡大ではなく国内生活圏の深耕へ針路を定めた。3期連続の最高益で方向性は裏づけられたものの、2030年3兆円への道はなお遠く、中型店を採算に乗せて標準化できるかが試金石となる。
規模の外し方——グローバルSPAが選んだ逆方向
この判断の核心は、業績のV字回復そのものよりも、規模を追わないと宣言しながら大きな数字を掲げた矛盾の畳み方にある。堂前社長はファーストリテイリングが世界の都心で追った規模競争を無印良品では真似ず、同社が手薄だった日本の地方商圏へ資源を寄せた。同じグローバルSPAの系譜を歩んだ経営者が、あえて反対方向へ針路を定めた点に、この決断の性格がよく表れている。コロナ禍で露呈した利益集中の脆さへの答えを、海外の拡大ではなく、国内生活圏の面的な深耕に求めた選択であったとみることができる。
もっとも、2030年の売上高3兆円は、2024年8月期の6616億円から見ればなお遠い。都心旗艦店で確かめた世界観を、600坪の中型店で採算に乗せて標準化できるかが試金石になる。2024年9月、堂前社長は会長へ退き、実行は清水智社長に委ねられた。方向づけと数字を置いた前任と、それを日々の売場で回す後任のあいだで、生活圏密着モデルが理念の宣言にとどまるのか、収益の型として根づくのか——第二創業の成否は、これからの中型店の一枚一枚にかかっている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
東アジアが支えた最高益
良品計画は2018年2月期に売上高3788億円・営業利益452億円・当期純利益301億円の最高益を記録し、自己資本利益率も20%台に乗せた。2014年2月期の売上高2200億円から4年で約1.7倍に伸ばした急成長である。牽引したのは国内と中国を中心とする東アジアで、両地域の稼ぐ利益が全体を押し上げた。半面、2014年以降の欧米事業はセグメント赤字が常態化し、その損失を国内・東アジアの利益で埋める構図が定着していた[1]。
この偏りは2010年代を通じて深まっていた。海外の直営展開が広がるにつれ、FY15(2016年2月期)には東アジア地域事業のセグメント利益172億円が国内事業の170億円を上回り、利益の柱が国内から東アジアへと移っていた。2018年2月期の最高益はこの国内と東アジアという二本の脚に支えられ、欧米の赤字を抱えたまま、需要側のショックに弱い構造を残していた。地域ごとの偏りは平時には高収益として表れる一方、外部環境が急変すれば弱点にも転じうるものであった[2]。
決算期変更に重なったコロナ禍
2019年、良品計画は決算期を2月期から8月期へ変更し、移行期にあたる2020年8月期は6カ月の変則決算となった。この短い期に、コロナ禍による世界的な店舗閉鎖が直撃する。同期の売上高は1794億円にとどまり、営業利益8.7億円、純損失169億円と、上場以来初の本格的な純損失に沈んだ。海外の4地域はすべて営業赤字となり、有利子負債は前期の50億円規模から768億円へ膨らんだ。利益源を国内と東アジアに集めてきた構造の脆さが、需要側のショックで表に出た[3][4]。
決断
規模を追わない、という逆張り
2021年9月、ファーストリテイリング副社長とローソン副社長を歴任した堂前宣夫氏が社長に就いた。世界規模で店舗網を競うグローバルSPAの出身者が示したのは、規模競争の継続ではなく逆方向の針路だった。堂前社長は地域への貢献を経営の軸に据え、業界規模での首位は目指さないと明言したうえで、2030年に売上高3兆円という長期目標を掲げた。2021年8月期の売上高4536億円から見れば6倍を超える水準であり、規模を追わない宣言と大きな数字が同居する、異例の中期像であった[5][6]。
大きな数字と規模否定が両立したのは、3兆円を世界の都心での規模競争ではなく別の経路で積む構想があったためである。堂前社長はファーストリテイリングとローソンの副社長を歴任し、他社の店舗網を売場として使う発想に通じていた。世界の都心で店舗数を競う道は選ばず、日本の生活圏を細かく覆う中型店に、ローソン全店という他社チャネルを重ね合わせ、2500店規模の面で数字へ届かせる筋道を描いていた[7][8]。
都心旗艦店から生活圏の600坪へ
3兆円への経路として堂前社長が置いたのは、都心の大型旗艦店に頼る出店からの転換だった。日本の消費者の多くが暮らす食品スーパーの商圏に600坪前後の中型店を出し、食品・日用品・衣料を一体で揃える。地元のスーパーや企業と組み、その生活圏の「コミュニティセンター」になるという構想である。堂前社長はこれを、良いものを手に取りやすい価格で届けるという無印良品の発足時の考え方に立ち戻る試みとし、1980年に西友のPBとして生まれた原点への回帰を宣言した[9][10]。
結果
ローソン全店と3期連続の最高益
転換は数字に表れた。2022年4月、良品計画は2020年6月から実験してきた無印良品商品の販売を全国のローソン店舗へ広げ、生活圏密着モデルの第一弾とした。600坪前後の中型店を軸に出店を組み替え、2022年8月期4961億円、2023年8月期5814億円、2024年8月期6616億円と、3期連続で最高売上を更新する。2024年8月期の営業利益561億円・当期純利益415億円は、最高益だった2018年2月期の301億円を1.4倍上回り、コロナ禍で768億円まで膨らんだ有利子負債も454億円まで縮めた[11][12]。
回復は数字だけにとどまらなかった。2022年4月にローソン全店へ広げた無印良品商品は、2020年6月からの実験販売を経た本格展開で、生活圏密着モデルの最初の実装となった。あわせて地方の食品スーパー併設や中規模商業施設への出店を進め、都心旗艦店一辺倒だった出店を600坪前後の中型店中心へ組み替えた。掲げた3兆円にはなお距離があるものの、方向づけが売場と収益の両面で形になりつつあったとみることができる[13]。
- 良品計画 有価証券報告書(2018年2月期・連結)
- 良品計画 有価証券報告書 第42期(2020年8月期・連結)
- 良品計画 有価証券報告書(2022年8月期・連結)
- 良品計画 有価証券報告書(2024年8月期・連結)
- Business Insider Japan(2021年7月26日)「無印良品、2030年に売り上げ6倍へ。ファストリ出身の新社長が語った5つの戦略」
- 東洋経済オンライン(2021年11月12日)「無印は地域に貢献する 規模でトップは目指さない 堂前宣夫 良品計画社長」