筆者の見解
強みを否定する転換の重さ
この経営判断の核心は、業界首位の高収益をあげていた絶頂期に、その収益を生んだ量産方式そのものを自ら問い直した点にある。標準品の量産で御三家に上りつめた森精機が、需要がシステム化へ向かう先を読み、財務にゆとりのあるうちに質への転換へ動いたのは、成功体験に安住しない先見だったと推察される。強みを否定する転換に、好調のうちに手を入れた点で、危機に追われて動く再建とは性格が異なっていた。
もっとも、強みを手放す転換は重い代償を伴った。量産向けに造った新工場が特注生産に合わず、設備の入れ替えと赤字を招いた。国内では量産メーカーのイメージが根強く、質への転換は皮肉にも国内でなく欧米の大手向け特注機として実を結んでいった。宮大工に戻るという理想と、量産で築いた現実の生産体制との間には、埋めるのに数年を要する落差があった。強みを次の強みへどう組み替えるか——森精機の1990年前後の選択は、成功した企業ほど転換の設計に時間と痛みがかかることを示しているといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月