コロナ禍のV字回復と営業利益率24%——観光動線を削らず保った高収益体質の確立

人流が消えた観光土産の会社は、売場と人員を畳まずに需要の戻りへどう高収益で応えたか

更新:

時期 2023年3月
意思決定者 河越誠剛 寿スピリッツ 社長
論点 危機下の事業構造の保全と高収益体質の確立
概要
2020年、新型コロナが空港・駅・観光地の人流を断ち、寿スピリッツは売上を前年のほぼ半分へ落として営業赤字へ転じた。同社はブランド・売場・正社員を削らずに保ち、河越誠剛社長のもとで需要の戻りに賭けた。2022年3月期に黒字へ戻し、2023年3月期には売上・利益ともコロナ前のピークを上回る過去最高を更新、2025年3月期には営業利益率24%台へ達した面的な経営判断である。
背景
寿スピリッツは空港・駅・観光地の売場に商品を集中させる観光動線モデルを収益の柱としてきた。2020年3月期は売上451億円・営業利益64億円と過去最高であったが、翌2021年3月期にコロナが人流を断ち、売上は232億円へ半減、全セグメントが赤字に沈んだ。
内容
品揃えの大幅縮小や大量閉店・人員削減に走らず、ブランドと売場、正社員を保った。派遣・期間従業員を絞り、雇用調整助成金を活用しながら固定的な人員を守り、2022年10月の入国制限緩和に合わせて国際線ターミナルの販売体制を早期に整えた。少数精鋭の人員配置で部門採算を高める運営へ切り替えた。
含意
観光動線に売場を集めた構造は、人流が止まると最も深く沈むが、戻ると最も高く伸びる。営業利益率はコロナ前の14%台から24%台へ上がり、会社は中期計画で経常利益率30%を掲げた。売場を握るモデルが、回復後にむしろ高い収益を生むことを示している。
筆者の見解

削らなかったことが生んだ高収益

この判断の芯にあるのは、危機に際して事業を縮めなかったことが、回復の速さと利幅の厚さの両方を生んだ、という逆説である。観光動線に売場を寄せた構造は、人流が消えたときに最も深く沈み、全セグメントを一度に赤字へ落とした。だが売場とブランド、そして中核の人員を保ったまま持ちこたえたからこそ、制限緩和の号砲に合わせて誰よりも早く増販へ転じられた。守りの時期に削らなかった資産が、攻めの時期の高収益へ直結した点に、この面的な判断の含みがうかがえる。

もっとも、営業利益率24%という水準は、観光の追い風とインバウンドの急回復に多くを負っている。人流の増減をそのまま業績へ映す構造は変わっておらず、原材料や人件費の上昇、次に人の流れが細ったときの振れ幅も、高収益の裏側に控えている。削らずに保つ選択が効いたのは、需要が戻るという読みが当たったからでもある。会社が掲げる経常利益率30%の先で、この高い利幅をどこまで平時の体質として保てるかが、次に人流が動くときに問われていくとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

観光動線に集約した事業構造と、コロナ前のピーク

寿スピリッツの稼ぎ方は、空港の売店、駅の構内、観光地の土産物店という人の流れが集まる売場に、商品を集中させるところにあった。地域別子会社による分散立地も、首都圏のシュクレイも、北海道のルタオも、いずれも観光と出張の動線に売場を置き、その土地でしか買えない菓子を高い回転で売る構えである。人流の量がそのまま売上を左右する事業構造で、成長も収益も観光の勢いに乗って積み上がってきた[1]

コロナ直前の2020年3月期、寿スピリッツは連結売上451億円・営業利益64億円と過去最高を更新し、営業利益率は14.3%へ届いていた。売上は2015年3月期の229億円から5年で約2倍に伸び、訪日客の増加と国内旅行の活況を追い風に、観光動線モデルは右肩上がりの成長を続けていた。この高成長が積み上げた財務の余力が、直後の急落に耐える体力にもなっていた[2]

人流の消失と、全セグメントの赤字

2020年春以降のコロナは、その動線を一度に断った。渡航制限で訪日客が消え、緊急事態宣言で国内の移動も止まると、空港・駅・観光地の売場は客足を失った。2021年3月期の連結売上は232億円と前年の約半分へ落ち込み、営業損益は28億円の赤字へ転じた。首都圏のシュクレイから北海道のルタオ、地域子会社まで、観光動線に依存する全セグメントがそろって赤字に沈んだ[3]

もっとも、赤字は営業段階にとどまった。同期は営業外収益に雇用調整助成金などを含む25億円が立ち、経常損益は3億円の赤字へ収まっている。人員を削って固定費を切り下げるよりも、助成制度を使って雇用を抱えたまま持ちこたえる形が、この一期の損益にあらわれていた。需要が戻る前提に立てるかどうかが、その後の分かれ目になっていく[4]

決断

削らず保つ——ブランド・売場・人員の温存

このとき寿スピリッツが選んだのは、品揃えの大幅縮小や大量閉店、人員削減で身軽になる道ではなかった。ブランドと売場を畳まず、正社員を保ったまま需要の回復を待つ構えである。連結の就業人員は2020年3月期の1,520名から2021年3月期には1,583名へむしろ増え、2022年3月期も1,507名とほぼ横ばいで推移した。売上が半減した一期を、正社員をほとんど減らさずに越えていた[5]

調整の矛先は、変動費の側に置かれた。派遣・期間従業員は2020年3月期の1,247名から2021年3月期886名、2022年3月期778名へ絞られ、固定的に抱える正社員とは対照的に減っている。雇用調整助成金で人件費の負担を和らげつつ、戻れば即戦力となる中核の人員は手放さない配分であった。河越誠剛社長は危機を前に「何があってもツイている」と語り、悲観による縮小へは傾かなかった[6][7]

回復への備えと、少数精鋭への切り替え

需要が戻る糸口は、2022年10月に見えた。入国制限が緩和され、主要国際線ターミナルの売店が段階的に再開すると、寿スピリッツは早期に人員体制を整えて国際線ターミナルでの展開強化に動いた。売場と人員を保ってきたからこそ、制限緩和の号砲に合わせて増販へ即座に転じられる。温存してきた体制が、インバウンドの復調をそのまま取りにいく構えへ切り替わっていた[8]

回復に転じる過程で、同社は稼ぎ方そのものにも手を入れた。商品価格の改定を進めて売上総利益率を押し上げる一方、部門ごとに少数精鋭の人員配置へ切り替え、採算をより高める運営を掲げた。落ち込みを耐える守りから、戻る需要を高い利幅で受けとめる攻めへ、コスト構造の側から組み替えていた。この切り替えが、のちの利益率の跳ね上がりを支える下地になっていく[9]

結果

V字回復と、コロナ前を超える過去最高

回復は速かった。2022年3月期に連結売上321億円・営業利益14億円で黒字へ戻すと、2023年3月期には売上501億円・営業利益99億円へ跳ね、経常利益は100億円を超えた。売上・営業利益ともコロナ前のピークだった2020年3月期を上回り、過去最高を更新している。会社は自ら、売上500億円と経常利益率20%の突破を節目として掲げた。落ち込みからわずか2期での完全な回復であった[10][11]

伸びを牽引したのは、温存してきた売場へ戻ってきた訪日客であった。国際線ターミナルでのインバウンド売上は、2024年3月期に71億円、2025年3月期には初めて100億円を突破し、前期比40.6%増となった。地元紙の山陰中央新報も、2025年3月期決算で純利益・売上・経常利益が最高を更新し、インバウンド消費の増大がこれを押し上げたと報じている。人流の戻りが、そのまま高い売上へ跳ね返っていた[12][13]

営業利益率24%という高収益体質

回復は、規模だけでなく利幅の質にもあらわれた。営業利益率はコロナ前の14.3%から、2024年3月期24.6%、2025年3月期24.3%へと上がり、2025年3月期は売上723億円・営業利益176億円に達した。コロナ前ピークと比べて売上は約1.6倍、営業利益は約2.7倍で、利益の伸びが売上の伸びを上回っている。価格改定と少数精鋭の運営で、戻った需要を以前より高い利幅で受けとめる体質へ変わっていた[14]

この高収益は、市場からも観光回復の象徴として読まれた。2023年8月、中国政府が日本への団体旅行を解禁すると、四季報はインバウンド関連の代表として「観光土産菓子の大手」寿スピリッツを挙げ、同社株は前日比5.5%高をつけたと伝えている。会社は中期計画「Value Up 2030」で経常利益率30%・経常利益350億円を2030年3月期の目標に据え、観光動線を握るモデルを高収益の柱として押し進める構えを示した[15][16]

出典・参考