NTTデータグループの完全子会社化によるグループ再結集

四半世紀前に分けた事業会社を、島田明社長はなぜ持株会社の下へ再び集めたのか

更新:

時期 2025年5月
意思決定者 島田明 NTT 社長
論点 グループ構造の再編と成長領域への再結集
概要
2025年、NTTがNTTデータグループを約2.4兆円で完全子会社化し、同社を9月下旬に上場廃止させた経営判断。島田明社長が主導し、民営化から40年の節目に主力事業会社を持株会社の下へ再結集させた。1988年に分離した旧NTTデータの親元回帰にあたる。
背景
1985年の民営化後に分割が進んだグループは、事業の主軸が音声通信からシステムインテグレーション(SI)へと移り、AI向けデータセンター需要で海外SI事業が急成長していた。前社長の澤田純氏が掲げたグループ一体化の再編路線を、島田明社長が引き継いだ。
内容
約2.4兆円を投じてNTTデータグループを完全子会社化し、上場を廃止。海外売上高はNTT全体の22%を占め、ITサービスで世界8位、データセンターで世界3位に立つ。2025年7月にはロゴと社名を刷新し、グループ企業の並びを成長領域先頭の序列へ改めた。
含意
1999年の分割で開いた分社構造を閉じる再結集であり、グループの主軸が通信からITへ移った現実を制度に落とし込んだ判断であった。中間持株会社の整理、国内事業の一体化、競合の反発と総務省の検証という論点が残された。
筆者の見解

分けた器を閉じたあとに残るもの

1999年の分割は、公正競争のために一体の会社を複数へ切り分ける作業であった。それから四半世紀を経て、NTTは分けたはずの事業会社を持株会社の下へ再び集め、通信を基盤とする総合ITの会社へと自らを描き直そうとしている。異端児だったデータグループが序列の先頭へ移り、名門と呼ばれたコミュニケーションズが看板を降りた入れ替わりには、市場の主戦場が音声から情報システムへ移った40年の変化が凝縮されているとみることができる。器の組み替えは、事業構成の実態を後から制度に合わせる作業でもあった。

もっとも、再結集が成果へ結びつくかどうかは、これからの海外事業の採算にかかっている。営業利益率3.6%の海外事業を9.5%まで引き上げる計画は、AI向けデータセンター需要という追い風を前提としており、統合の負荷や競争構造の変化しだいで揺れる余地を残す。国内では競合の反発と総務省の検証が待ち、器を組み替えたあとに中身をどう伸ばすかという課題が残された。分けた構造を閉じたNTTが、その先で何を生み出すのかは、なお見えていないといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

分割で生まれた分社構造と、異端児だったデータ

NTTは1985年に日本電信電話公社の民営化で発足し、通信業界の競争を促すため1990年代にかけて分社化が進んだ。1988年にデータ通信事業がNTTデータとして、1991年に移動通信事業がドコモとして分離し、1999年には本体が持株会社と地域通信のNTT東日本・西日本、長距離国際通信のNTTコミュニケーションズへと分割された。東西やコミュニケーションズが持株会社の直系だったのに対し、システムインテグレーター(SIer)を出自とするNTTデータは、通信会社とは異なる立ち位置の異端児的な存在であった[1]

分社構造のもとで、グループの事業構成は通信から情報システムへと移り変わっていた。民営化直後の1985年度は固定電話を中心とする音声が売上高の83%を占め、2000年度でも67%あった。ところが2024年度には、固定と移動を合わせた音声は12%まで縮み、最大の区分は38%を占めるシステムインテグレーション(SI)へと入れ替わった。電話やインターネットではなく、ITで顧客の課題を解く事業がグループの中核へと移っていた[2]

澤田純が描いたグループ再結集の構想

アメリカの巨大IT企業の台頭で市場環境が変わるなか、2018年にNTT社長へ就いた澤田純氏(現会長)は、GAFA対抗を掲げてグループの一体化へ向けた再編を始めた。同年にNTT都市開発、2020年にはNTTドコモを約4.3兆円で完全子会社化し、いったん分けた事業会社を持株会社の直接支配下へ戻していった。1985年の民営化と1990年代の分割で広げた器を、島田明氏へ引き継がれるこの路線が締め直していった[3]

NTTデータグループの完全子会社化そのものは、実は2020年のドコモ完全子会社化より前から検討されていた。複数のNTT関係者によれば、「通信では食えない、ソリューションを担うデータを真ん中に置く必要がある」と考えた澤田氏が、データを核とする海外でのグループ再編を構想していたという。ただ当時はデータ側の反発が強くて実現せず、データはグループの海外事業を担いながら独立を保った。2022年にNTTは海外法人事業をデータへ集約し、ITサービスからITインフラまで領域横断で担わせる体制を整えた[4]

決断

2.4兆円での完全子会社化

2025年5月の記者会見で、島田明社長は「これからの成長を考えると、日本を含めたNTTデータグループのグローバルビジネスが最重要になる」と述べ、データグループにグループの「真正面」へ立ってもらう必要があると明言した。その言葉どおり、NTTは約2.4兆円を投じてデータグループを完全子会社化し、同社は9月下旬に上場を廃止した。急成長する海外事業へグループ全体で対応するための一体化であり、1988年の分離から37年を経ての親元回帰であった[5]

完全子会社化により、NTTは民営化から40年の節目で、主力事業会社をすべて一体運営する体制を整えた。この転換はロゴにも表れた。2025年7月、NTTは角張った3文字の書体を、データグループが使ってきた丸みのある書体へ改め、データグループのロゴには本体の象徴である「ダイナミックループ」を添えた。刷新資料が示したグループ企業の並びも、持株会社に続いてデータグループ、ドコモ、東西の順となり、成長領域を先頭に置く序列へ改まった[6]

海外SIを中核へ据える意味

データグループが背負うのは、グループ全体の海外法人向け事業であった。ITサービスで世界8位、データセンターで世界3位に立ち、2024年度の海外売上高は2兆9624億円とNTT全体の22%に達していた。この規模は買収と再編の積み重ねの帰結であった。NTTは2010年に英ディメンションデータを約2860億円で、データは2016年に米デルのITサービス部門を約3400億円で買収し、2019年のNTTリミテッド設立を経て、2022年に海外事業会社NTTデータインクへ束ねられた[7]

急成長の裏で、海外事業の収益性の低さが課題として残った。2024年度のデータグループの営業利益率は、国内の10.6%に対し、統合の負荷がかかる海外は3.6%にとどまった。同社は買収後の統合に2023〜24年度で約500億円を投じ、海外事業の売上高を2024年度の2兆7509億円から2027年度に3兆3860億円へ、営業利益を1002億円から3200億円へ引き上げ、利益率を9.5%まで高める計画を掲げた。AI向けデータセンター需要が、その成長を支えると見込んでいた[8]

結果

再結集の後に残る国内再編と規制の論点

完全子会社化で主力事業会社が持株会社の下へ再結集した後も、再編の論点は残った。中間持株会社となったデータグループは、上場廃止で存在意義が薄れ、将来の整理も取り沙汰されている。焦点は国内事業の一体化にあり、大企業向けではデータとNTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)の顧客が重なる。現場からは営業ブランドの統一を求める声が上がり、固定電話の縮小が続く東西についても、効率化を理由とする統合論が根強く残った[9]

国内の再編は、規制と競争政策の壁にも突き当たった。データグループの完全子会社化をめぐっては、市場競争への影響を検証する作業が2025年7月から総務省で始まり、競合のKDDIはデータとドコモビジネスの合併の可能性に懸念を示したうえで、東西の分割意義を改めて強調した。再編は社名にも及び、1999年設立の名門NTTコミュニケーションズは、2022年のドコモ完全子会社化を経て、2025年7月にNTTドコモビジネスへと看板を替えた[10][11]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2025年10月25日号「新章NTT 序章 グループ再結集 NTT再編の過去・現在・未来」
  • 週刊東洋経済 2025年10月25日号「新章NTT 第1章 グローバルIT企業へ 買収と再編の末に一体化」
  • 週刊東洋経済 2025年10月25日号「新章NTT 序章 グループ再結集 看板を降ろした名門NTTコム」
  • 日本電信電話 有価証券報告書(2025年3月期・連結・IFRS)