ハイターゲット事業のBANDAI SPIRITSへの集約
子供向け一本足の玩具会社は、大人のファン層をどう専業組織の稼ぐ力に変えたか
更新:
- 概要
- 2018年4月1日、バンダイナムコグループはバンダイのハイターゲット向け事業とバンプレストの景品事業を新会社BANDAI SPIRITSへ承継させる組織再編を実施し、大人のコア層に照準を絞った専業組織を立ち上げた。
- 背景
- 少子化で子供向け玩具・アーケード市場の先細りが避けられないなか、1980年発売のガンプラ以来バンダイは大人のファン層を長年抱えており、子供向けと大人向けの商品開発・マーケティング手法が同一組織内に併存し機動力を欠いていた。
- 内容
- コレクターズ事業(ハイターゲット向けフィギュア)、ホビー事業(プラモデル)、ロト事業(キャラクターくじ)をBANDAI SPIRITSへ集約し、IPではなくブランドを軸に据えた商品展開を打ち出した。
- 含意
- 翌2019年3月期に売上高7,323億円・営業利益840億円で過去最高を更新し、BANDAI SPIRITS単体の純利益も19年3月期65億円から21年3月期157億円へ拡大するなど、高単価・高粗利のコア層を軸にした収益モデルが定着した。
分社という手段が示した、規模とは別の伸び方
規模拡大の物語として語られがちなバンダイナムコの歴史のなかで、BANDAI SPIRITSの設立はあえて組織を割った判断として異彩を放つ。統合以来、複数のIPを複数の事業で同時に展開する「IP軸経営」を積み重ねてきた会社が、事業の切り口としてもう一つ「ブランド軸」を持ち込んだ意味は小さくない。子供向けと大人向けという異なる顧客層を一つの組織に抱え続けることの限界を、規模の追求ではなく組織の分割によって解いたところに、この判断の独自性がうかがえる。
少子化という止められない構造変化に対し、同じ商品カテゴリーのなかで顧客の年齢層を引き上げるという発想は、玩具業界に限らない汎用性を持つとみることができる。一方で、事業を切り出すたびに組織は増え、ブランドの数だけ意思決定の主体も分散する。IP軸とブランド軸という二つの物差しをどこまで同時に運用し続けられるかは、統合から20年を経てなお、この会社が抱え続ける経営上の論題であるといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
ガンプラが育てた大人のファン層という遺産
バンダイは1980年、テレビアニメ「機動戦士ガンダム」のプラモデル、通称ガンプラを発売した。ロボットアニメのキャラクター模型という新市場を切り開いた商品は世代を超えて売れ続け、子供の頃にガンプラで遊んだ層がそのまま大人になっても購入を続けるという、他の玩具にはない顧客基盤を築いた。統合後のバンダイナムコも、ガンダムを玩具・ゲーム・映像の複数事業で同時に展開する中核IPの一つとして扱ってきた[1]。
統合後のバンダイナムコは、同じIPを玩具・ゲーム・映像で同時に展開するIP軸経営を掲げ、2013年3月期にはコンテンツ事業がセグメント利益364億円と統合後最高を記録した。だが、この成長を支えていたのは主に子供向けの量産型商品で、少子化で国内の出生数が減り続ける構造そのものは変わらなかった。子供向け玩具だけに頼れば、市場の縮小とともに収益基盤も縮む懸念が残っていた[2]。
拡大した事業規模と混在する開発手法
バンダイの事業規模が拡大するにつれ、未就学児・小学生向けの量産型商品と、ガンプラやコレクター向けフィギュアといった大人向けの高付加価値商品が、同じ組織のなかで並走する構造が生まれていた。両者は商品開発の手法もマーケティングの手法も海外展開の進め方も異なり、一つの事業体で全てを担うには限界が見え始めていた[3]。
2021年にBANDAI SPIRITS社長に就いた宇田川南欧氏は、後年、分社の狙いを事業規模の拡大に伴うターゲットの明確化にあったと振り返り、複数の事業体に分けてそれぞれの機動力を高める発想だったと説明している。一つの組織のなかに複数の顧客層を抱えたまま規模を追い求めることは、機動力を犠牲にする代償を伴っていたとみられる[4]。
決断
ブランド軸に立った専業会社の始動
2018年4月1日、バンダイのハイターゲット向け事業とバンプレストの景品事業を新会社BANDAI SPIRITSへ承継させる組織再編を実施した。コレクターズ事業(ハイターゲット向けフィギュア)、ホビー事業(プラモデル)、ロト事業(キャラクターくじ)を束ね、20代後半以上のコア層に照準を絞った専業組織として発足させた。バンダイの代表取締役社長を務めていた川口勝氏は、新会社の社長も兼務し、両社を率いる体制を敷いた[5][6][7]。
新会社の狙いは、IPを軸にした従来型の商品展開とは別に、ブランドを軸にした商品展開を打ち出すことにあった。ガンプラやTAMASHII NATIONS、一番くじといったブランドごとの強化を進め、キャラクター人気の浮沈に左右されにくい収益構造を目指した。後年、宇田川南欧BSP社長は「キャラクターは縦軸で、ブランドは横軸です。ブランド軸がしっかりあれば、IP軸の揺れ動きや変化に対応できます」[8]とこの発想を説明している。
結果
過去最高益と、ブランドで稼ぐ収益構造の定着
再編の効果は早い段階で表れた。翌2019年3月期、バンダイナムコHDの売上高は7,323億円、営業利益は840億円に達し、いずれも過去最高を更新した。ガンプラをはじめとするハイターゲット商材の伸びは、少子化が進む国内市場でも単価と粗利率の高いコア層へ主力を移せば成長が可能であることを裏づけた[9]。
BANDAI SPIRITS単体の純利益も、2019年3月期の65億円から2020年3月期117億円、2021年3月期157億円へと拡大した。子供向け玩具一本の量産モデルでは得にくい高粗利の収益源として、ハイターゲット事業は数年のうちにグループの利益構造に確かな地位を占めるに至った[10]。
- バンダイナムコHD 有価証券報告書【沿革】
- バンダイナムコHD 有価証券報告書(2013年3月期・セグメント情報)
- バンダイナムコHD 有価証券報告書(2019年3月期・連結)
- 電撃ホビーウェブ「ハイターゲット向け新会社『BANDAI SPIRITS』が事業開始!『ガンダム』や『キングダムハーツII』の新作アイテムもチェック!」(2018年4月6日)
- ITmedia ビジネスオンライン(2021年6月22日)「コロナ禍でも業績絶好調――BANDAI SPIRITSが新体制になって目指すこと」