倉敷の大型電炉化(2022年・JFEHDの決断)

更新:
論点 改修期の高炉を電炉へ置き換えるか
JFEHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
改修期を迎える高炉を電気炉へ置き換える、生産体制とCO2排出の組み替え

何をなぜ決めたか:改修期を迎える高炉を電気炉へ置き換える、生産体制とCO2排出の組み替え

概要

2022年度、JFEスチールは西日本製鉄所(倉敷地区)で高炉の改修時期にあわせて高効率・大型電気炉を導入することを検討していると明らかにした。2023年度には2027年度の導入という時期が加わり、2024年度に「いち早く実装可能な革新電気炉を2027年度に改修時期を迎える高炉の代替プロセスとして導入する」ことを機関決定した。

工期は2025年4月から2028年度第1四半期、投資額は3,294億円で、2026年3月期の翌1年の設備投資計画3,989億円のうち最大の工事にあたる。資金は自己資金および借入金等を充てる。

背景

JFEグループは2020年を気候変動問題への対応強化の節目と位置付け、2030年度のCO2排出量を2013年度比で20%以上削減し、2050年のカーボンニュートラルを目指す目標を掲げた。2021年5月の第7次中期経営計画で「JFEグループ環境経営ビジョン2050」を策定し、2022年2月には2030年度の削減目標を2013年度比30%以上へ上方修正している。既存プロセスの省エネルギー・高効率化に加えて電気炉技術の活用を進めており、仙台製造所の電気炉増強と千葉地区のステンレス製造プロセスへの電気炉導入は先に決めていた。

内容

NEDOのグリーンイノベーション基金事業のもとで、高炉での水素還元、カーボンリサイクル高炉、直接還元、電気炉での不純物除去という超革新技術を複線的に開発してきた。2024年12月に直接水素還元法のベンチ試験炉、2025年2月に電気炉の不純物除去の小型試験炉、2025年5月に小規模カーボンリサイクル試験高炉を立ち上げている。

そのなかで最も早く実装できる技術として革新電気炉が選ばれた。狙いは、既存の大型電気炉では実現が難しかった高品質・高機能鋼材を大量に、かつ低いCO2排出で供給する体制をつくることにある。

含意

電気炉への置き換えは生産体制の縮小と一体にある。粗鋼生産能力は高炉7基体制の2,600万トンから、高炉休止によって2027年度に2,100万トン程度へ縮み、2028年度に革新電気炉が稼働して高炉5基+革新電気炉1基の体制となる計画である。2026年3月期には用地確保のための既存設備の撤去でGX設備建設関連撤去費用5,464百万円を計上し、鉄鋼事業の資本的支出は333,989百万円へ増えた。稼働は2028年度で、転換はなお途上にある。

いつ何が起きたか 8件
当時の取締役 8名

当時の取締役(2022年6月株主総会決議)

考察:重厚長大が脱炭素と向き合うということ
考察

考察:重厚長大が脱炭素と向き合うということ

この判断の核心は、老朽高炉を数千億円かけて築き直すという通常の設備更新を、製法そのものを替える機会に振り替えたところにある。3,294億円という額は、翌1年の設備投資計画3,989億円の8割を超え、設備1基の更新に収まる話ではない。2027年度に改修時期が来るという避けられない分岐点を、後戻りしにくい転換の入口として使った点に、経営の判断がにじんでいる。同時にこれは縮小の計画でもある。粗鋼生産能力は2,600万トンから2027年度に2,100万トン程度へ落ち、電気炉が加わっても高炉は5基に減る。

もっとも、この転換が脱炭素の解になるかは、まだ決着していない。会社が複線で進める超革新技術のうち、水素還元もカーボンリサイクル高炉も試験炉の段階にあり、革新電気炉は「いち早く実装可能」という理由で先に選ばれた技術である。高品質鋼を電気炉で安定して造れるか、直接還元鉄を安定して調達できるかは、これからの検証にかかる。2026年3月期には建設の用地確保だけで5,464百万円の撤去費用が出た。重厚長大の生産基盤を組み替える試みは、稼働予定の2028年度を越えて初めて評価が定まるのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

JFEHD:鉄鋼事業の売上収益とセグメント利益

鉄鋼事業 売上収益(百万円)鉄鋼事業 セグメント利益率(%)
JFEHD:鉄鋼事業の売上収益とセグメント利益
(百万円) 鉄鋼事業 売上収益鉄鋼事業 セグメント利益 備考
2018年3月期 2,378,107187,240 有価証券報告書が手元になく逐語で照合できていない
2019年3月期 2,441,696161,383 売上収益は外部顧客への売上収益。セグメント間の売上収益を含まない
2020年3月期 2,311,251△8,783 京浜地区の上工程休止を決め、鉄鋼事業で233,144の減損損失を計上した
2021年3月期 1,938,933△65,461 2期続けてセグメント損失。粗鋼生産量の減少が響いた
2022年3月期 2,790,084323,776 2月に2030年度のCO2削減目標を2013年度比30%以上へ上方修正
2023年3月期 3,427,239146,825 倉敷地区で高炉の改修時期にあわせた大型電気炉の導入を検討と記載した期
2024年3月期 3,318,920202,733 9月に京浜地区の上工程および熱延設備を予定どおり休止した
2025年3月期 3,007,92436,385 革新電気炉の導入を機関決定。設備投資計画に3,294億円が載った期
2026年3月期 2,756,61638,022 革新電気炉等の建設に伴う撤去費用5,464を計上。連結の減損損失は8,743
出所:JFEホールディングス 有価証券報告書 第17期〜第24期【セグメント情報】(連結・IFRS)
出所:JFEホールディングス 有価証券報告書 第17期〜第24期【セグメント情報】(連結・IFRS)

JFEHD:鉄鋼事業の設備投資と減損損失

鉄鋼事業 資本的支出(百万円)
JFEHD:鉄鋼事業の設備投資と減損損失
(百万円) 鉄鋼事業 資本的支出鉄鋼事業 減価償却費鉄鋼事業 減損損失 備考
2018年3月期 282,245168,98523,071 有価証券報告書が手元になく逐語で照合できていない
2019年3月期 306,285182,3439,736 設備投資は資本的支出、減損損失はセグメントの計上額
2020年3月期 362,741209,031233,144 千葉地区・京浜地区の構造改革を前提に使用価値を測り直した
2021年3月期 308,384211,6456,351 資本的支出は3,000億円台を保った
2022年3月期 304,967225,4867,308 倉敷地区の電磁鋼板製造設備増強工事などが進んでいた期
2023年3月期 277,467240,5773,443 この期の設備投資計画に革新電気炉はまだ載っていない
2024年3月期 269,377242,4382,275 翌1年の設備投資計画3,759億円にも革新電気炉は載らなかった
2025年3月期 266,499220,82220,013 翌1年の計画3,665億円の筆頭に革新電気炉建設工事3,294億円が載った
2026年3月期 333,989233,6026,699 資本的支出が3,000億円台へ戻る。翌1年の計画は3,989億円
出所:JFEホールディングス 有価証券報告書 第17期〜第24期【セグメント情報】【設備の新設、除却等の計画】(連結・IFRS)
出所:JFEホールディングス 有価証券報告書 第17期〜第24期【セグメント情報】【設備の新設、除却等の計画】(連結・IFRS)

設備投資の条件

設備投資の条件
科目 概要 備考
対象の設備 革新電気炉(高効率・大型電気炉) 既存の大型電気炉では実現困難であった高品質・高機能鋼材を大量に製造する
所在地 JFEスチール 西日本製鉄所(倉敷地区) 岡山県倉敷市。2027年度に改修時期を迎える高炉の代替プロセスとして導入する
投資額 3,294億円 2026年3月期の翌1年の設備投資計画3,989億円のうち最大の工事にあたる
工期 2025年4月〜2028年度第1四半期 2025年3月期の有価証券報告書から設備投資計画に載った。稼働は2028年度
資金の調達方法 自己資金および借入金等 設備投資計画の全体に対する説明で、工事ごとの内訳は開示されていない
粗鋼生産能力 2,600万トン→2,100万トン程度 高炉7基体制(仙台製造所電気炉を除く)から、高炉休止で2027年度に縮める
転換後の体制 高炉5基+革新電気炉1基 2028年度に革新電気炉を稼働させた後の体制。休止する高炉の号機は開示されていない
機関決定 2025年3月期 2022年度と2023年度の記載は「検討している」で、決定はこの期に示された
建設に伴う撤去費用 5,464百万円(2026年3月期) 用地確保で既存設備の撤去が必要となり、GX設備建設関連撤去費用として計上
出所:JFEホールディングス 有価証券報告書 第23期(2025年3月期)・第24期(2026年3月期)【設備の新設、除却等の計画】【事業等のリスク】【注記事項】
出所:JFEホールディングス 有価証券報告書 第23期(2025年3月期)・第24期(2026年3月期)【設備の新設、除却等の計画】【事業等のリスク】【注記事項】
当時の取締役 8名

当時の取締役(2022年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • JFEホールディングス 有価証券報告書 第17期〜第20期(連結・IFRS)
  • JFEホールディングス 有価証券報告書「第21期(2023年3月期)【サステナビリティに関する考え方及び取組】【研究開発活動】」
  • JFEホールディングス 有価証券報告書「第22期(2024年3月期)【サステナビリティに関する考え方及び取組】」
  • JFEホールディングス 有価証券報告書「第23期(2025年3月期)【設備の新設、除却等の計画】【研究開発活動】」
  • JFEホールディングス 有価証券報告書「第24期(2026年3月期)【設備の新設、除却等の計画】【注記事項】」
  • JFEホールディングス 決算説明会資料「2024年3月期 決算説明会」

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