倉敷の高炉1基を休止し大型電炉へ置き換える脱炭素の生産体制転換

二酸化炭素削減のために主力の高炉を止めるか——鉄鋼2位が選んだ「脱高炉」への転換

更新:

時期 2022年9月
意思決定者 北野嘉久 JFEスチール社長
論点 脱炭素対応と製鉄プロセスの転換
概要
2022年9月1日、JFEホールディングス傘下で国内鉄鋼2位のJFEスチールが、2027年度以降に岡山県・西日本製鉄所倉敷地区の高炉1基を休止し、同地区に新設する大型電炉へ置き換えると発表した経営判断。二酸化炭素の排出削減を目的に主力の高炉を止める、脱炭素を見据えた生産体制の転換である。
背景
鉄鉱石から鉄を造る高炉は還元の過程で大量の二酸化炭素を排出し、鉄鋼業の排出量は国内産業部門の約4割を占める。2050年のカーボンニュートラルを掲げる政府方針のもと、JFEは2030年度の排出量20%以上削減(2013年度比)を公表しており、休止対象の倉敷第2高炉は4度目の大規模改修の時期を迎えつつあった。
内容
1969年稼働の倉敷第2高炉を2027年度以降に休止し、鉄スクラップを電気で溶かす大型電炉に置き換える。電炉の二酸化炭素排出量は高炉の約4分の1で、今回の置き換えで年間約300万トンの削減を見込む(JFEの年間排出量は約4700万トン)。数百億円を要する高炉改修の判断に、初めて電炉新設とセットの休止で応えた。
含意
これまでの高炉休止が過剰能力の是正を目的としたのに対し、本件は二酸化炭素削減を目的に据えた最初の休止である。完全水素還元など決定打となる技術が確立していないなか、高炉休止と電炉新設の組み合わせを現実的な選択として先んじて示した。日本製鉄・神戸製鋼所も追随を検討する契機となった。
筆者の見解

重厚長大が脱炭素と向き合うということ

この判断の核心は、数百億円をかけて老朽高炉を築き直すという通常の設備更新を、脱炭素への布石に振り替えたところにある。年間300万トンという削減効果は、JFE全体の約4700万トンからみれば一部にすぎない。それでも、二酸化炭素削減を正面の理由に掲げて主力の高炉を止めた最初の一手であったために、この決断は自社の1基の問題を超え、日本の高炉がどこまで残るのかという業界全体の選別を促す象徴となったとみることができる。改修時期という避けられない分岐点を、後戻りしにくい転換の機会として使った点に、経営の判断がにじんでいる。

ただ、電炉への置き換えが脱炭素の解になるのか、なお見通しは定まっていない。高品質鋼を電炉で安定して造る技術、回収した二酸化炭素をどう処理するか、そして完全水素還元という究極の製法——いずれも確立には遠く、倉敷の転換自体が発表後も検討途上に置かれた。重厚長大の生産基盤を数十年かけて組み替える試みは、技術とコストと政策の支援が噛み合って初めて完結する。2022年の一手が移行の出発点として意味を持ち続けるかどうかは、この先の技術開発と、社会が脱炭素のコストをどう分かち合うかにかかっているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

鉄鋼業が背負う脱炭素の宿命

鉄鉱石から鉄を造り出す高炉は、酸化鉄から酸素を取り除く「還元」の過程で石炭の炭素を使うため、原理的に大量の二酸化炭素を排出する。日本では鉄の約75%が高炉で造られ、鉄鋼業の排出量は国内産業部門の約4割、日本全体の約13%を占めていた。2020年10月に政府が2050年のカーボンニュートラルを宣言すると、排出量の大きい鉄鋼各社の対応がにわかに焦点となった[1]

JFEホールディングスは政府宣言に先立つ2020年9月末、2030年度の二酸化炭素排出量を2013年度比で20%以上削減し、2050年以降のできるだけ早い時期にカーボンニュートラルを実現するという目標を公表していた。もっとも、鉄鋼業の脱炭素には確立した技術がなく、切り札とされる完全水素還元は見通しが立っていなかった。目標と実現手段のあいだには、大きな隔たりが残されていた[2]

改修の時期を迎えた倉敷第2高炉

休止の対象となった倉敷第2高炉は、1969年に稼働した設備であった。高炉は炉の内壁の耐火れんがが消耗するため、20〜25年に一度、数百億円をかけて内部を築き直す大規模改修が欠かせない。倉敷第2高炉は2003年に3度目の改修を終えており、2020年代後半には4度目の改修に踏み切るかどうかの判断が迫られていた。老朽設備の更新をめぐる通常の意思決定が、脱炭素という新しい問いと重なった時期であった[3]

国内の高炉はこの数年、休止が相次いでいた。日本製鉄は2020年に1基、2021年に3基を止め、JFEも2023年に京浜地区の1基の休止を発表済みであった。ただ、これら一連の休止は国内需要の縮小に対する過剰能力の是正が主眼で、二酸化炭素の削減を正面の理由に掲げたものではなかった。改修時期を迎えた倉敷第2高炉に、JFEはそれとは異なる論理を持ち込もうとしていた[4]

決断

高炉を止め、電炉に置き換える

2022年9月1日、JFEスチールは、2027年度以降に岡山県・西日本製鉄所倉敷地区の高炉1基を休止し、同地区に新設する大型電炉に置き換えると発表した。電炉は鉄スクラップを電気の熱で溶かして鉄を造る製法で、還元済みの鉄を再利用するため、二酸化炭素の排出量は高炉の約4分の1にとどまる。使う電力を脱炭素化できれば、電炉はカーボンニュートラルに近づけられるとみられていた[5]

この置き換えによる二酸化炭素の削減効果は、年間約300万トンと見込まれた。JFEの年間排出量が約4700万トンであることを踏まえれば、1基の転換が全体に及ぼす削減は限られる。それでも、数百億円をかけて既存の高炉を築き直す道を選ばず、電炉新設とセットの休止に踏み切った点に、老朽更新を脱炭素への布石に振り替えるという判断が表れていた[6]

「終わりの始まり」と、残された高炉

二酸化炭素削減を目的に主力の高炉を止める決断は、鉄鋼各社に波及した。神戸製鋼所は2021年5月の決算説明会で、山口貢社長が兵庫の高炉について「高炉の改修をしないという選択肢もある」と述べ、日本製鉄も2022年に兵庫で小型電炉を新設していた。改修時期を迎える高炉をどう扱うかという共通の問いに、JFEが先んじて一つの答えを示した形であった[7]

もっとも、高炉を簡単に手放せない事情も残った。JFEは休止予定を除いても6基の高炉を持ち、連結の粗鋼生産の約9割は高炉によるものであった。2030年代には複数の高炉が改修時期を迎えるが、それらも同様に休止して電炉へ置き換えるのかについて、北野嘉久JFEスチール社長は「明確な答えは持っていない」と述べていた。1基の転換は、大きな移行の入り口にすぎなかった[8]

結果

相次ぐ高炉休止と、立ちはだかる技術の壁

発表の翌年、高炉休止の流れはさらに進んだ。2023年9月16日、JFEスチールは東日本製鉄所京浜地区の高炉を休止し、国内に持つ高炉は7基、粗鋼生産能力は年400万トン減の2600万トン体制となった。国内需要の縮小という構造的な要因に、脱炭素という新しい理由が重なり、製鉄所のシンボルであった高炉の火が各地で相次いで消えていった[9]

ただし、電炉への転換は脱炭素の決定打ではなかった。電炉が有効だとしても、高品質の鋼材を電炉で安定して造る技術には課題が残る。高炉側の低炭素化技術による削減効果は3割程度にとどまり、なお残る排出を相殺するには、日本では実用化のハードルが高い二酸化炭素の回収・貯留を組み合わせる必要がある。究極とされる完全水素還元も、現時点で技術的な見通しは立っていなかった[10]

なお検討途上の、倉敷の転換

発表から時間を経ても、倉敷での転換は最終決定に至っていなかった。JFEは2024年5月の決算説明会で、2027年度に倉敷地区で高炉から電炉へのプロセス転換を「現在検討中」と説明している。並行して、高効率・大型の電気炉、高炉から回収した二酸化炭素を再利用するカーボンリサイクル高炉、直接還元製鉄法といった超革新技術の開発を進め、その成果を倉敷の転換に盛り込む考えを示した[11]

JFEは2030年代半ばまでにカーボンニュートラルを達成するための超革新技術の開発を完了し、実装の準備を進めるという長期の道筋を描いていた。2022年の倉敷第2高炉の休止表明は、その長い移行の出発点であり、重厚長大産業が数十年の時間軸で自らの製造基盤を組み替えていく試みの第一歩であった[12]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2022年9月17日号「JFEが電炉へ置き換え 「高炉」終わりの始まり」
  • 週刊東洋経済 2021年2月6日号「日本の鉄鋼業は生き残れるか ゼロ炭素鉄への高すぎる壁」
  • 週刊東洋経済 2023年9月30日号「高炉の炎が日本から次々と消えていく理由」
  • JFEホールディングス 2024年3月期 決算説明会(2024年5月7日)
  • JFEホールディングス 有価証券報告書(2022年3月期・連結)