住宅事業への参入と「くらしまるごと」への多角化

家電単品市場の頭打ちに、ヤマダは店舗網と顧客基盤という財産をどこへ向けたか

更新:

時期 2011年8月
意思決定者 山田昇・一宮忠男(2代社長) 会長兼CEO
論点 多角化と事業構成
概要
2011年、ヤマダ電機がプレハブ住宅メーカーのエス・バイ・エルを子会社化して住宅事業へ参入し、2020年のヒノキヤグループ取得と持株会社ヤマダホールディングスへの移行を経て、家電・住宅・家具・金融を束ねる「くらしまるごと」への多角化を進めた経営判断。
背景
2011年3月期の売上高2兆1532億円を頂点に家電単品市場が縮小へ転じた。人口減少と少子高齢化で需要が細るなか、全国に張り巡らせた店舗網と長年の来店客データという財産の使い道が問われた。
内容
2011年に旧エス・バイ・エルを1株62円のTOBで子会社化して住宅を第二の柱に据え、2020年に全館空調「Z空調」を持つヒノキヤグループを1株2000円・126億円で取得して住宅を主力級へ引き上げた。家電で築いた顧客を3世代の家族全体へ広げる構想を掲げた。
含意
家電の安値・多店舗モデルを、購買の頻度も単価も桁違いの住宅へ持ち込む試み。住宅は第二の柱に育ったが、暮らしまるごとを体現する大型店網の整備には「あと25年」を要すると山田会長は語り、長期戦は道半ばにある。
筆者の見解

家電の勝ち方は、家に通じるか

この多角化の眼目は、縮む家電市場で余った経営資源を、隣接する住宅へ振り向けた点にある。全国の店舗と来店客のデータ、そして家電で鍛えた価格交渉力を、家という最も高額な買い物に接続すれば、一世帯あたりの取引額は家電の比ではなくなる。エス・バイ・エルで足場を得て、ヒノキヤで技術と規模を補い、持株会社化で家具・金融まで束ねた一連の流れは、山田会長が語る「くらしまるごと」という一枚の絵に沿って進んできた。

ただし、家電と住宅は商売の呼吸が異なる。家電は安く多く売る回転の商売であり、住宅は一生に一度の高額な意思決定に寄り添う商売である。安値と多店舗で家電量販を制した勝ち方が、購買の頻度も単価も桁違いの住宅でそのまま通じる保証はない。住宅を第二の柱に育てた実績と、大型店網の整備に「あと25年」を要するという長さ——この二つのあいだにある距離が、暮らしまるごと戦略の現在地を示している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

家電単品市場の頭打ち

ヤマダ電機は郊外ロードサイドの大型店で家電量販の首位を固め、2010年3月期に売上高2兆円を超えた。翌2011年3月期には2兆1532億円と過去最高を記録する。だが、この数字が頂点になった。家電エコポイント制度の終了と地上デジタル放送への完全移行が一巡すると薄型テレビの特需は引き、以後の売上は下降へ転じる。山田昇会長はのちに、人口減少と少子高齢化が需要を細らせた構図を「ここ10年くらい、家電市場は縮小している」と語っている[1]

家電は住宅設備に比べ買い替えの周期が短く、価格競争も激しい。市場そのものが縮むなかで、全国に張り巡らせた店舗網と、長年かけて積み上げた来店客のデータをどう生かすかが問われた。山田会長はこの資産に目を向ける。「この財産を生かそうと考えた。従来のターゲットはあくまで個人だったが、これを3世代の家族全体に広げる」——家電という単品の販売から、一つの家族の暮らし全体を相手にする商売へ、対象を広げる発想であった[2]

家電から「家丸ごと」へ

多角化の方向は、家電と親和性の高い住宅へ向いた。太陽光発電や蓄電池、省エネ家電を組み込んだ「スマートハウス」の需要が2010年前後に高まり、家電量販が住宅設備と地続きの領域へ進む余地が生まれていた。エス・バイ・エル取得の翌年、一宮忠男社長は当面の目標を売上高3兆円に置き、「家丸ごと一戸へのソリューションを提供する」と述べた。家電に住宅・住設・金融を束ね、一戸の家をまるごと商圏とみなす構想であった[3]

決断

エス・バイ・エル取得による住宅参入

2011年8月12日、ヤマダ電機はプレハブ住宅メーカーのエス・バイ・エルを子会社化すると発表した。1株62円で株式公開買い付けを実施し、あわせて第三者割当増資を引き受ける。買付総額は最大52億7000万円で、議決権の過半を握った。同年10月にヤマダ・エスバイエルホームへ改称し、家電の販売網を通じて注文住宅を売る体制を整える。家電量販が住宅そのものを手掛ける、業界でも例の少ない多角化であった[4]

住宅は家電と桁の違う高額商品であり、一度売れば次の建て替えまで数十年を要する。ヤマダは注文住宅に加え、住設機器のハウステック、木造住宅のヤマダ・ウッドハウスなどを相次いで傘下に収め、2018年10月には住宅事業をヤマダホームズへ集約した。家電で培った低価格志向と全国の店舗網を、住宅という長サイクルの商材へ接続できるかが、この多角化の成否を分ける論点になった[5]

ヒノキヤ取得と持株会社化——「くらしまるごと」の確立

2020年9月8日、ヤマダ電機は注文住宅大手のヒノキヤグループへの公開買い付けを発表した。1株2000円、買付総額126億円で議決権の50.1%を取得し、連結子会社とする。ヒノキヤは全館空調「Z空調」と高気密・高断熱のWバリア工法を持ち、桧家住宅・パパまるハウス・レスコハウスの3ブランドを擁する。救済色の濃かったエス・バイ・エル取得に対し、ヒノキヤ取得は住宅を家電に次ぐ主力級へ引き上げる攻めの一手であった[6]

同じ2020年10月、ヤマダ電機は持株会社体制へ移行し、商号をヤマダホールディングスへ改めた。前年末に子会社化した大塚家具の家具も加え、家電・住宅・家具・金融・リフォームを一つのグループに束ねる。山田会長はこの構えを「我々の事業戦略は『暮らしまるごと』」[7]と表した。単品の家電を売る量販店から、一つの世帯の衣食住をまとめて引き受ける企業へ、看板を掛け替える組織再編であった。

結果

第二の柱としての住宅と「ライフセレクト」

多角化から10年余りを経て、住宅はヤマダホールディングスの第二の収益源に育った。2023年には創業の地に近い群馬県吉岡町へ、家電・住宅・家具・リフォームを一つの店で提案する大型店「Tecc LIFE SELECT前橋吉岡店」を開いた。上野善紀社長は「家電を中心に金融、住建など衣食住のサービスをワンストップで提供できるようになった」とし、この品ぞろえを「ハウスメーカーの中でもヤマダHDにしかできない強み」と説明する[8]

もっとも、暮らしまるごとを体現する大型店はまだ数が限られる。2500坪を超える「ライフセレクト」は39店にとどまり、山田会長は理想の店舗網を築くには「年間10店舗出せば、あと25年かかり、長期戦略で臨まなければならない」と述べる。家電量販が一世帯の暮らし全体を囲い込む構想は、店舗の作り替えと人材の育成に長い時間を要する事業であり、その道の半ばにある[9]

出典・参考