HOYA ライフケアへの優先投資 資源の優先配分と、眼鏡レンズ事業の継続的な買収

更新:

時期 2012年4月
当時の社長 鈴木洋
論点 事業構成の再編と優先投資
何をなぜ決めたか
概要

2012年4月2日のブラジルOPTOTAL買収を皮切りに、HOYAがライフケアへ優先して資本を振り向けた一連の判断。2013年2月1日にセイコーエプソンのメガネレンズ開発製造事業を48億円で譲り受け、2017年8月1日には米Performance Opticsを301億45百万円で子会社化した。

ガラスから多角化した事業構成を、市況で振れるエレクトロニクスから、景気に左右されにくい生活財の側へ寄せ直す選択である。ライフケアの売上収益は2012年3月期の1,929億円から2018年3月期には3,528億円へ伸びた。

背景

HOYAは、半導体用マスクブランクスやHDD用ガラス基板など市況変動を受けやすいエレクトロニクス事業と、生活必需品で景気に左右されにくいメガネレンズ事業をあわせ持っていた。2008年のリーマンショック後の世界的な需要変動は、この二つの性格の差を映し出した。2012年3月期のライフケアの売上収益1,929億円に対し、情報・通信は1,658億円。規模の近い二つの事業のうち、どちらへ資本を寄せるかが問われていた。

内容

2012年4月2日、ブラジル最大の特注メガネレンズ工場を持つOPTOTALの株式75%を80億73百万円で取得した。2013年2月1日にはセイコーエプソンのメガネレンズ開発製造事業を48億円で譲り受け、翌期には中国のRICH EPOCH、自動内視鏡洗浄装置のWASSENBURG、セイコーオプティカルプロダクツと取得が続く。

2016年12月にC2 Therapeutics、2017年1月に3Mの度付き保護メガネ事業、同年8月1日には米Performance Opticsを301億45百万円で子会社化した。最後の取得では、対価とは別に負債の返済資金として244億71百万円を貸し付けている。

含意

買い集めの結果、メガネレンズはライフケア事業売上の約50%を占める最大の製品群となった。HOYAは 『当社は業界2番手であり、オーガニック成長に加え、2013年にSEIKOのメガネレンズ部門、2017年には米Performance Optics社など、M&Aにより市場シェアを拡大しています』 としており、業界2番手の位置から、市場シェアの3割強を占める中小レンズメーカーの取り込みでシェアを拡大する道筋を描く。一方で、のれんは2012年3月期の14億円から2018年3月期には318億円へ積み上がった。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

二つの振れ方の違う収益を組み合わせる

この経営判断の芯にあるのは、性格の異なる二つの事業を抱えた会社が、景気変動に強い生活財のほうへ意図して資源を配分した点にある。半導体やHDD向けの部材は、市況が上を向けば潤い、下を向けば悪化する。対してメガネレンズは、派手さこそないが、暮らしが続くかぎり売れ続ける。2008年以降の世界的な需要変動を経て、HOYAはこの安定を収益の土台に選び、エプソンからの取得を手始めに、中小メーカーを一社ずつ買い集めて事業の規模を積み上げた。

もっとも、買収を積み重ねる戦略には代償もある。のれんは2012年3月期の14億円から、Performance Opticsを取り込んだ2018年3月期には318億円へ膨らんだ。買った事業の想定が狂えば、この残高はそのまま減損の危険に変わる。それでもHOYAは、5年余りで9件を取り込み、ライフケアの売上収益を1,929億円から3,528億円へ伸ばして、景気に左右されにくい事業を連結の支えに据えた。市況で揺れる事業と、暮らしに根ざす事業。どちらか一方に賭けるのではなく、振れ方の違う二つの収益を組み合わせて全体をならすという設計に、この判断の要がある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
連続買収の条件

連続買収の条件

科目 概要 備考
OPTOTAL HOYA LIMITADA 8,073百万円 2012年4月2日に75%を株式取得。ブラジル最大の特注メガネレンズ工場を持つ
日本ユニテック 2,000百万円 2012年5月30日に100%を株式取得。金属系整形インプラント市場への参入
セイコーエプソン メガネレンズ開発製造事業 4,800百万円 2013年2月1日に事業譲受。現金3,150百万円とロイヤルティ実績に応じた長期未払金
RICH EPOCH INVESTMENT 2,313百万円 2013年4月2日に100%を株式取得。VISION OPTICS(上海)を間接取得
WASSENBURG & Co. 3,765百万円 2013年11月1日に51%を株式取得。自動内視鏡洗浄装置の製造・販売
セイコーオプティカルプロダクツ 2,399百万円 2014年3月31日に50%を株式取得。ベストビジョン他6社を間接取得
C2 Therapeutics 9,794百万円 2016年12月23日に100%を株式取得。低侵襲治療用手術器具の開発・製造・販売
3M 度付き保護メガネ事業 6,174百万円 2017年1月1日に事業譲受。北米で90年以上の実績を持つ度付き保護メガネ
Performance Optics 30,145百万円 2017年8月1日に100%を株式取得。VISION EASE他16社を間接取得
Performance Optics への貸付 24,471百万円 取得対価とは別の負債返済資金。現金による支払対価は合計54,617百万円
Performance Optics で生じたのれん 23,833百万円 取得の対価と識別可能な純資産の公正価値6,312百万円の差。無形資産は12,150百万円

出所:HOYA 有価証券報告書 第75期(2013年3月期)・第76期(2014年3月期)・第79期(2017年3月期)・第80期(2018年3月期)【企業結合】

ライフケアと情報・通信の売上収益

HOYA:ライフケアと情報・通信の売上収益

(百万円) ライフケア情報・通信 備考
2011年3月期 203,006168,971 IFRSへ移行し、ライフケアと情報・通信の2区分になった最初の期
2012年3月期 192,947165,822
2013年3月期 208,968161,216 OPTOTALと日本ユニテックを子会社化し、2月にエプソンの事業を譲り受けた
2014年3月期 265,470159,333 RICH EPOCH・WASSENBURG・セイコーオプティカルプロダクツの3件を取得
2015年3月期 306,653180,164
2016年3月期 322,673178,749 Knecht&Muller など当期の取得は軽微として開示を省略している
2017年3月期 314,442160,617 C2 Therapeuticsと3Mの度付き保護メガネ事業を取得
2018年3月期 352,872178,480 Performance Opticsの連結は8月から
ライフケアと情報・通信の売上収益
ライフケア(百万円)情報・通信(百万円)

出所:HOYA 有価証券報告書 第73期〜第80期(セグメント情報、報告セグメントごとの売上収益)

のれんの残高

HOYA:のれんの残高

(百万円) のれん 備考
2011年3月期 2,629
2012年3月期 1,431
2013年3月期 8,367
2014年3月期 10,961
2015年3月期 9,970
2016年3月期 9,502
2017年3月期 14,590
2018年3月期 31,892 Performance Opticsで生じた23,833を含む
のれんの残高
のれん(百万円)

出所:HOYA 有価証券報告書 第73期〜第80期(連結財政状態計算書、のれん)

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参考文献
出典・参考

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