筆者の見解
大企業の速さという難題
この改革の核にあるのは、規模の大きさと意思決定の速さをどう両立させるかという問いである。旭硝子は、単一の指揮系統で扱える事業規模には限りがあるとみて、会社を独立採算の事業体の集まりに見立て、権限と責任を現場へ下ろした。作れば売れた時代に染みついた供給者優位の緩さを、業績評価と権限委譲の二つで断とうとした試みであったのだろう。数字で報いる査定制度をあわせて入れた点に、意識だけでは体質は変わらないという判断がうかがえる。
もっとも、事業部へ権限を分ける発想は、素材メーカーとしての一体感や研究開発の長い時間軸とは、ときに緊張をはらむ。旭硝子はその後、電子事業の即断即決体制やカンパニー制へと組織を組み替え続け、2010年代にはガラス依存からライフサイエンスを含む事業構成の転換にまで着手していった。1994年の疑似分社は、その長い組み替えの出発点として置かれた一手であり、大企業が速さをどう獲得するかという課題は、以後も形を変えて問われ続けただろう。
Yutaka Sugiura, 2026年7月