合弁・提携
1971 年5月

日本マクドナルドを設立

歴史的意義
大手が敬遠した未知の食品を拾った輸入雑貨商の逆説

ダイエーが出資比率51%に固執して交渉が破談し、ハンバーガーという未知の商品に関心を示す食品企業も少なかった。この業界の無関心が、外食経験のない輸入雑貨商・藤田田に対して、通常5%のロイヤリティを1%に抑え契約期間30年という破格の条件を引き出す交渉余地を与えた。参入条件の有利さは、参入者の能力ではなく既存プレーヤーの不在によって決まるという構造であり、後の30年間にわたる藤田体制の経営自由度はこの初期条件の設計に規定されていた。

背景

外食産業の資本自由化とファストフード参入ブーム

1969年、日本政府は第二次資本自由化を実施し、外食産業における海外企業の合弁による日本進出が解禁された。米国ではハンバーガーやフライドチキンといったファストフードが巨大な外食チェーンに成長しており、日本市場への参入機会を窺っていた。1970年にはダイエー系のドムドムバーガーが町田に1号店を開き、同年に三菱商事が米ケンタッキーと提携して名古屋で出店するなど、大手企業が次々と外食分野に参入し始めた。

当時の日本では食の洋風化が進行途上にあり、外食産業そのものが急成長するという見通しが広く共有されていた。中小企業が群雄割拠してきた外食産業に大企業が参入する時代が到来し、外資との合弁、独自資本による展開、個人商店からのチェーン化など、参入形態は多様であった。ハンバーガー市場は未開拓であるがゆえに潜在需要が大きいとみなされ、複数の企業が同時期に参入を決めた。

決断

藤田田氏が米マクドナルドとの合弁を実現

輸入雑貨商・藤田商店を経営する藤田田氏は、米マクドナルドの業務システムに着目した。必要なスキルをマニュアル化し、経験の浅い人材でも短期間で店舗運営を習得できる仕組みは、徒弟制度が中心だった日本の外食産業において真新しいものであった。藤田氏は米マクドナルドに日本展開の提携を申し入れたが、米国側は当初ダイエーなどの大手企業との合弁を模索していた。

しかし、ダイエーが出資比率51%にこだわったために交渉が破談し、ハンバーガーという未知の商品に関心を示す企業も少なかった。結果として藤田氏に有利な条件で交渉が進み、通常5%のロイヤリティを1%に、契約期間を30年に設定することに成功した。1971年3月、藤田商店25%・第一製パン25%・米マクドナルド50%の出資比率で日本マクドナルドが設立され、資本金は5400万円であった。

結果

藤田田体制の確立と資本構造の再編

設立後まもなく資本政策の変更が行われた。藤田氏は材料メーカーの出資によって取引先が偏ることを懸念し、第一製パンの持株を買い取った。これにより日本マクドナルドは藤田商店と米マクドナルドの折半出資という形に再編された。藤田氏が社長に就任し、米国側は助言こそするものの日常経営の意思決定は日本側に一任される体制が築かれた。

この折半出資と経営一任の構造は、藤田氏が2003年頃に逝去するまでおよそ30年にわたって維持された。設立時に掲げた目標は東京都心部で1年以内に8〜10店舗の展開と年間売上高1億円であり、6000万円の設備投資が計画された。日本マクドナルドの実質的な創業者は藤田田氏であり、同社の経営スタイルを規定したのはこの設立時の合弁条件と資本構造であった。

ハンバーガー・チキン各社の参入時期
日時参入展開会社の資本関係
1970-02ドムドムバーガー1号店を開店(町田)ダイエー
1970-11ケンタッキー1号店を開業(名古屋市)三菱商事+米ケンタッキー
1971-07マクドナルド1号店を開業(銀座)藤田商店+米マクドナルド
1972-03モスバーガー1号店を開業(成増)個人創業
1972-09ロッテリア1号店を開業(日本橋)ロッテ
月刊経済 1971年9月号
1971年ごろの当事者の証言
チェーン数1000〜2000、年商150億〜2000億という巨大なレストランチェーンが、昨年秋の資本自由化で続々と日本へ上陸。ハンバーガー、フライドチキン、ドーナツなどをフランチャイズ・システムで売り込んでいる。外食の多い若者たちは喜んでいるが、食堂関係者はみな苦い顔。
藤田田 日本マクドナルド社長
1978年ごろの当事者の証言
日本マクドナルドの場合、出資比率は50対50だが、合弁会社で出資者がフェアな協力をしようと思えば、この折半出資がいちばん望ましいんじゃないですか。どちらか一方が過半数を握っていると、本当の協力関係を確立するのはむずかしい。投票すれば一方が勝つのが最初から明白ですからね。(略) (注:対立が起きた時は)その場合は、社長が裁断すればいいんです。出資者がお互いに話し合って問題が解決できなければ社長の権限で決めるべきですよ。そのための社長ですからね。日本マクドナルドの場合、日常経営については一切日本側に任されています。米側本社は助言はしてますが、それを受け入れるかどうかは全くこちらの自由なわけです。常駐の米側役員がいない代わりに、その都度広告やら、資材部門へアドバイザーが派遣されてくる。
経営統合に関連する時系列
  1. 第二次資本自由化
  2. 藤田商店が米マクドナルドに対して提携アプローチ
  3. 日本マクドナルドの会社設立
  4. 第二次資本自由化(外食産業の合弁進出許可)
  5. 日本マクドナルドを合弁設立