この参入の核心は、儲けの大きい市場へ乗り込む話ではなく、規制で守られた領域へどう足がかりを築くかという点にあった。医療法が企業の参入を阻み、医師以外の医療行為に厳しい線が引かれるなかで、セコムは在宅輸液療法や病院再建という迂回路から、制度の側に"医経分離"の議論を起こさせた。飯田亮会長が信頼の競争の焦点とみたように、参入の論理は目先の採算ではなく、いったん信頼を得た者に長く続く先行者利益に置かれていた。規制と経営判断が絡み合う場面で、あえて制度の縁に踏み込んだ判断だっただろう。
もっとも、先行者利益という言葉は、裏を返せば長い赤字を正当化する論理にもなりうる。患者数が目標に遠く届かず赤字が続くなかで、10年・20年という時間軸を掲げ続けることは、本業のセキュリティーが潤沢な利益を生み続けるかぎりで成り立つ構えでもあった。医療・介護は確かに後にセコムの収益源の一つへ育ったが、それは高齢化という追い風と、本業が支える体力があってのことといえる。規制の変化を待ちながら赤字事業を抱え続ける判断は、強い本業を持つ企業ゆえに取りえた選択だったとみられる。