この改革の際立った点は、業績が悪化したからではなく、28期連続増収増益という絶頂のなかで断行されたことにある。収益の大黒柱と、その事業を一人で牽引してきた創業者——その二つに寄りかかれるうちに、あえて寄りかかれない仕組みへ組み替えた。強い創業者が自らの影響力を制度的に引き下げる試みとして読むことができる。
もっとも、本業が突出して強い企業で新規事業を対等に扱うことには、たえず引力が働く。セキュリティーが"打出の小槌"であり続けるかぎり、資源も人材もそこへ吸い寄せられやすい。飯田亮会長が危惧した大企業病、すなわち挑戦を避け本業に安住する空気は、分権の体制を用意しただけで消えるものではない。会長依存からの決別という号令が、その後どこまで組織の体質を変えたか——好調な本業を抱えた企業が多角化と向き合ううえで、この改革はひとつの実験だったと思われる。