ダイキン 米Goodmanの買収 買収を足がかりにした北米住宅用空調への本格参入

更新:

時期 2012年8月
当時の社長 十河政則
論点 北米市場の攻略手法とM&Aの是非
何をなぜ決めたか
概要

ダイキンが2012年、北米住宅用空調でトップシェアを占めるグッドマン グローバル グループ インクの議決権100%を取得の対価2,200百万米ドルで取得し、北米で主流のダクト式住宅用市場へ本格参入した経営判断。同社の借入の借換分を含む買収価額は37億ドルで、ダイキンとして最大規模のM&Aとなった。1980年代以来くり返した北米進出の三度目の挑戦である。

背景

ダイキンは1980年代前半と1990年代後半に北米へ進出しながらいずれも数年で撤退し、2006年のOYL社買収でも住宅用のシェアは限られていた。米国では室内を一括冷却するダクト式が主流で、得意のダクトレス式では地歩を築けずにいた。

内容

有価証券報告書は企業結合の理由を、最大規模の販売網を持つ北米住宅用空調分野でトップシェアの同社を子会社化することにより、世界最大の空調市場において一気に売上を拡大し、グローバル空調市場においてのリーディングカンパニーとしての地位を磐石なものとするためと記す。新設の米国子会社ダイキン ホールディングス(ヒューストン)インクが買収目的会社をグッドマンに吸収合併させる形で、議決権の100%を取得した。

含意

中国では自前の直売、欧州では現地買収で成功した参入手法を、北米では巨額買収で貫こうとした選択であった。買収で連結のれんは1,821億円増えて3,484億円となり、総資産は1兆1,605億円から1兆7,358億円へ膨らんだ。規模の獲得は世界首位グループの地位を確かにした一方、グッドマンの経常損益は2016年3月期から4期続けて赤字となり、M&Aの成否が買収後の適応にかかることを示した。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

買収の判断より、根づかせる力が問われた

この買収の意味は、金額の大きさよりも、参入手法の選び方に表れている。ダイキンは中国では異業種と組んで自前の直売網を築き、欧州では現地販売会社を次々に買収して販路を得た。市場ごとに手を変える柔軟さで海外を広げてきた同社が、北米ではトップ企業の丸ごと買収という最も重い一手を選んだ。二度退いた市場を三度目で攻略するには、それだけの覚悟が要ったのだろう。有価証券報告書が企業結合の理由に、グローバル空調市場においてのリーディングカンパニーとしての地位を磐石なものとするためと記したのは、この一手に世界首位の座を懸けたことの表れであった。

だが、丸ごと買うことは、根づかせることまで保証しない。買収でのれんは3,484億円に膨らみ、20年の均等償却が連結損益にのしかかった。グッドマン単体の売上高は2014年3月期の2,412億円から2018年3月期には3,782億円へ伸びた一方、経常損益は2016年3月期から4期続けて赤字となった。どの市場でどの手法を採るか——ダイキンの海外展開を貫いてきたこの問いは、最大の買収においてこそ、最も重く跳ね返ってきたといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業の名称 グッドマン グローバル グループ インク 住宅及び業務用空調機器の開発・製造・販売。本社は米テキサス州ヒューストン
企業結合を行った主な理由 世界最大の空調市場において一気に売上を拡大 最大規模の販売網を持つ北米住宅用空調分野でトップシェアの同社を子会社化する
企業結合日 2012年11月1日(米国現地時間) みなし取得日は2012年12月31日で、当期の連結損益に業績は含まれない
企業結合の法的形式 買収目的会社の吸収合併による取得 新設の米国子会社ダイキン ホールディングス(ヒューストン)インクを通じた
取得した議決権比率 100%(1株) 企業結合日直前に所有していた議決権比率は―%
取得の対価 2,200百万米ドル 連結キャッシュ・フロー計算書の株式取得価額は1,756億47百万円
取得に直接要した費用 28億24百万円 アドバイザリー費用等
借換分を含む買収価額 37億ドル 子会社グッドマン グローバル インクの長期借入金1,255億42百万円を返済
発生したのれん 2,260百万米ドル 20年間にわたる均等償却。発生原因は将来の超過収益力
受け入れた資産の額 4,985百万米ドル 流動資産795・固定資産4,189百万米ドル
引き受けた負債の額 2,749百万米ドル 流動負債2,005・固定負債743百万米ドル
のれん以外の無形固定資産 顧客関連資産1,217百万米ドル 商標権424百万米ドル。償却期間は効果の及ぶ期間に基づき個別に設定
買収資金の調達(借入) 長期借入れによる収入3,334億88百万円 長期借入金の残高は1,381億8百万円から4,830億33百万円へ
買収資金の調達(社債) 第17〜19回無担保普通社債500億円 2012年12月12日発行。利率0.460%・0.720%・1.204%
通期換算した業績への影響 売上高1,595億98百万円 期首に完了と仮定した概算額。営業利益212億18百万円・当期純利益76億7百万円

出所:ダイキン工業 有価証券報告書 第110期(2013年3月期)【企業結合等関係】【連結財務諸表】

のれんと無形固定資産の推移

ダイキン:のれんと無形固定資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2008年3月期 200,733207,8591,213,648
2009年3月期 193,404202,8041,117,417
2010年3月期 182,867192,3031,139,655
2011年3月期 170,561179,0281,132,506
2012年3月期 166,276180,4861,160,564
2013年3月期 348,411510,8881,735,836 のれんが1,821億35百万円増え、顧客関連資産は42億70百万円から1,097億23百万円へ
2014年3月期 361,667545,7562,011,870
2015年3月期 369,964576,7242,263,989
2016年3月期 329,753518,8612,191,105
2017年3月期 330,876536,9632,356,148
2018年3月期 309,282516,0592,489,953
のれんと無形固定資産
のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

出所:ダイキン工業 有価証券報告書 第105〜115期(連結貸借対照表)

米州売上高とグッドマンの業績

ダイキン:米州売上高とグッドマンの業績

(百万円) 米州売上高グッドマン売上高グッドマン経常利益 備考
2011年3月期 118,805−−
2012年3月期 127,268−−
2013年3月期 137,478−− みなし取得日は2012年12月31日で、グッドマンの業績は含まれていない
2014年3月期 359,122241,21420,974 グッドマンを第1四半期から新規連結した最初の期
2015年3月期 432,423306,52325,941
2016年3月期 484,950347,149△2,158 グッドマンの経常損益がここから4期続けて赤字となる
2017年3月期 503,489343,940△2,950
2018年3月期 551,819378,287△4,480
米州売上高
米州売上高(百万円)

出所:ダイキン工業 有価証券報告書 第109〜115期【セグメント情報等】(地域ごとの情報・顧客の所在地を基礎とする売上高) / ダイキン工業 有価証券報告書 第111〜115期【関係会社の状況】(グッドマン グローバル グループ インクの主要な損益情報等)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • ダイキン工業 有価証券報告書 第110期(2013年3月期)【企業結合等関係】
  • ダイキン工業 有価証券報告書 第111〜115期【関係会社の状況】【セグメント情報等】
  • ダイキン工業 プレスリリース(共同通信PRワイヤー・2012年8月29日)「米国住宅用空調大手Goodman社を総額37億ドルで買収」
  • ダイキン工業「HISTORY OF DAIKIN INNOVATION 米国住宅用空調大手のGoodman社を買収」(公式サイト)
  • ダイキン工業80年史(ダイキン工業)
  • ダイキン工業 有価証券報告書「第110期(2013年3月期)有価証券報告書」
  • ダイキン工業 有価証券報告書「第111期(2014年3月期)有価証券報告書」
  • ダイキン工業 有価証券報告書「第112期(2015年3月期)有価証券報告書」
  • ダイキン工業 有価証券報告書「第115期(2018年3月期)有価証券報告書」

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