Kansai Helios Group買収による欧州本格参入

アジア・アフリカ・米国と広げた版図の先に、関西ペイントはなぜ700億円で欧州を選んだか

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時期 2016年12月
意思決定者 石野博 関西ペイント 代表取締役社長CEO
論点 欧州市場への参入方式
概要
2016年12月、関西ペイントが、欧州・東欧の塗料メーカー「ヘリオスグループ」の全株式を約700億円で取得すると発表し、2017年3月末までに取得を完了して連結子会社「Kansai Helios Group」とした経営判断。アジア・アフリカ・米国と広げてきた海外展開の中で、欧州市場への本格参入を意味した。
背景
1986年のインドKansai Nerolac子会社化から20年がかりでアジア新興国網を積み上げた関西ペイントは、2011年のアフリカ進出、2016年8月の米国U.S. Paint Corporation取得と版図を広げ、欧米の塗料大手を追い上げる位置にあった。
内容
ヘリオスグループは鉄道車両向けなど産業用塗料に強みを持ち、独シーメンスとの取引関係や東欧・ロシアの販売網を備えていた。関西ペイントはこの販売網と研究開発機能を一括で取得し、2018年4月には三井物産が現地子会社に20%出資して事業パートナーに加わった。
含意
買収でFY17の連結売上高は初めて4,000億円台に到達したが、欧州事業の利益率は低く、2024年公表の第18次中期経営計画「True Color」で工場閉鎖を含む構造改革の対象となった。買収を主導した石野博氏は翌FY18に毛利訓士氏へ経営を引き継いだ。
筆者の見解

版図拡大の代償という視点

アジア・アフリカ・米国と重ねてきた海外展開の延長線上で欧州を選んだこの判断は、地理的な空白を埋めるという意味では筋の通った一手であったとみることができる。鉄道車両用塗料という専門性の高い分野で欧州大手に伍する足場を一括で得た点は、単独では時間のかかる市場開拓を買収によって圧縮した好例といえる。売上高が一年で4,000億円台に乗った事実も、規模の面での成果を裏づけている。

ただし、規模の拡大と採算の確保は別の課題であった。欧州セグメントの利益率が伸び悩んだまま7年が過ぎ、2024年の中期経営計画でようやく構造改革の対象として名指しされた経緯は、買収時に描いた版図の広がりが、そのまま収益力に転化するとは限らないことを示している。買収を主導した経営陣が翌年度には交代していたことも踏まえると、拡大の判断と採算改善の実行が異なる世代の経営者に委ねられた点に、この決断の長い余波がうかがえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

20年がかりで積み上げたアジア新興国網

関西ペイントは1968年11月にタイで最初の海外現地法人を設立し、1986年9月にはインドの「Kansai Nerolac Paints Ltd.」を子会社化して本格的な海外展開に転じた。以降も台湾・タイ・マレーシア・インドネシア・トルコと5年おきに現地企業への出資・買収を重ね、国内総合塗料メーカーからアジア・新興国軸の塗料メーカーへと、20年がかりで事業構造を組み替えていった。この構造転換の末、FY11(2012年3月期)の連結売上高は2,565億円まで拡大していた[1]

インドのKansai Nerolacは、ボンベイ証券取引所に上場していた現地優良メーカーを取り込む型のM&Aとして関西ペイントの海外展開の原型となり、後年にはインド市場でのシェアを広げる成長ドライバーに育っていく。この成功体験が、その後もアフリカ・北米・欧州へと版図を広げていく際の下敷きになった[2]

アフリカ・米国へと連なる海外展開

アジア新興国での基盤を固めた関西ペイントは、2011年4月に南アフリカの「Kansai Plascon Africa Ltd.」の株式を取得してアフリカ市場へ本格進出した。建築用塗料や自動車補修塗料の需要が長期的に拡大する市場を見込んだ展開で、アジアに続く新興国軸の広がりであった[3]

アフリカ進出から5年後の2016年8月、関西ペイントは米国の自動車用塗料メーカー「U.S. Paint Corporation」の株式を取得して米国市場に参入した。新興国での実績を土台に先進国市場へ矛先を向けたこの動きは、同じ年の末に発表される欧州のヘリオスグループ買収と時期的に連続しており、北米に続く先進国市場として欧州が視野に入っていたことがうかがえる[4]

決断

700億円でのヘリオスグループ買収発表

2016年12月6日、関西ペイントは欧州の塗料メーカー「ヘリオスグループ」の買収を発表した。買収額は約700億円にのぼる見通しで、2017年3月末までに全株式を取得する計画が示された。米国参入からわずか4カ月後の発表であり、新興国軸の展開に続いて先進国市場の空白を埋める動きであった[5]

ヘリオスグループを選んだ理由は、その事業内容にあった。同社は鉄道車両向けなど産業用塗料に強みを持ち、独シーメンスとの取引関係のほか、東欧やロシアにも独自の販売網を築いていた。関西ペイントにとっては、単に生産拠点を得るだけでなく、欧州の大手塗料メーカーに対抗しうる販路と研究開発機能を一括で手に入れる買収であった[6]

2017年3月の取得完了と三井物産の資本参加

2017年3月、関西ペイントはヘリオスグループの株式取得を完了し、連結子会社「Kansai Helios Group」とした。欧州市場での自動車・工業塗料の販売網と研究開発機能を一括で取得する買収であり、当時代表取締役社長CEOを務めていた石野博氏がこの一連の意思決定を主導した[7][8]

買収から1年余りが過ぎた2018年4月、三井物産が現地子会社「Kansai Helios Coatings GmbH」に20%出資して参画した。三井物産が保有する顧客や事業パートナーの国際的な網と、関西ペイントの製品・技術を組み合わせ、欧州及び関連市場での事業拡大を図る狙いであり、単独で取得した欧州事業に外部パートナーを迎え入れる展開となった[9]

結果

連結売上高4,000億円台への到達

Helios連結化の効果は、翌年度の決算に表れた。FY17(2018年3月期)の連結売上高は4,019億円となり、それまで3,000億円台にとどまっていた売上規模が初めて4,000億円台に到達した。FY18(2019年3月期)はさらに4,274億円まで拡大し、欧州セグメントの取り込みが会社全体の規模を一段引き上げたことを示している[10]

地域別に見ると、欧州の売上高はFY16(2017年3月期)の182億円からFY17(2018年3月期)には590億円へと急拡大し、FY18(2019年3月期)は724億円に達した。それまで独自の拠点を持たなかった地域が、買収を機に一年で会社全体の売上構成の一角を占める規模へ育ったことになる[11]

利益率の低さと2024年の構造改革対象化

売上規模の拡大とは裏腹に、欧州事業の採算は当初から重荷であった。欧州セグメントの営業利益はFY17が44億円、FY18が24億円にとどまり、売上に対する利益率は他地域に比べて低い水準が続いた。この収益性の低さは一時的なものではなく、その後も欧州事業を特徴づける課題として残っていく[12]

利益率の低さは、買収から7年後の2024年11月に公表された第18次中期経営計画「True Color」で正面から扱われた。同計画は利益率の低いKansai Helios圏を対象に、ドイツ・スロベニア等の工場閉鎖と不採算事業のカーブアウトを進める内容であり、規模より採算を優先する方針が打ち出された。買収を主導した石野博氏は買収完了の翌年度にあたるFY18に毛利訓士氏へ経営を引き継いでおり、拡大期に築いた欧州事業の採算改善は、後任の経営陣が担う課題となった[13][14]

出典・参考