欧州Helios買収(2017年・関西ペイントの決断)

更新:

論点 欧州市場への参入方式
売上高(億円)営業利益率(%)
買収を足がかりとした欧州市場への本格参入と地盤の獲得

買収を足がかりとした欧州市場への本格参入と地盤の獲得

概要

関西ペイントが2017年3月31日に、Annagab S.A.及びそのグループ会社38社(Helios Group)の全株式を現金42,733百万円で取得し、完全子会社とした経営判断。有価証券報告書は企業結合を行った主な理由を「欧州市場への本格参入及び同市場における事業拡大のため」と記している。企業結合日が2017年3月期の期末日にあたるため、同期の連結損益計算書にHelios Groupの業績は含まれていない。

背景

2017年3月期の欧州セグメントは売上高16,830百万円・経常利益1,024百万円で、日本151,416百万円、インド74,694百万円、アジア56,623百万円、アフリカ28,026百万円と並ぶ5つの報告セグメントのうち最小であった。関西ペイントは1986年にインドのKansai Nerolac Paints Ltd.を、2011年に南アフリカのKansai Plascon Africa Ltd.を、2016年8月に米国のU.S. Paint Corporationを傘下に収めており、欧州は地理的な空白として残っていた。

内容

受け入れた資産は53,177百万円、引き受けた負債は44,817百万円で、取得原価との差額であるのれんは暫定284百万ユーロ(34,981百万円)と算定された。2018年3月期末に取得原価の配分が確定し、建物2,575百万円、土地1,146百万円、商標権908百万円、顧客関連資産2,423百万円、その他の無形資産2,170百万円が配分された結果、のれんは7,456百万円減って27,525百万円となった。取得原価とは別に、取得日までに33,084百万円の貸付けを実行している。

含意

欧州セグメントの売上高は2018年3月期に59,098百万円(前期比251.1%増)へ跳ね、連結売上高も401,977百万円と初めて4,000億円台に乗った。2018年9月28日にはKansai Helios Coatings GmbHが三井物産を引受人とする第三者割当増資を実施し、出資比率は関西ペイント80%・三井物産20%となった。一方で2026年3月30日の取締役会は、同社の収益性の低下が顕在化したとして欧州事業の構造改革を決議し、2027年3月期に約70億円の特別損失を見込んでいる。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解 一括で取得した地盤の重さ
筆者の見解

一括で取得した地盤の重さ

受け入れた資産53,177百万円から引き受けた負債44,817百万円を差し引くと、手にした正味の資産は8,360百万円にすぎない。払った42,733百万円との差、当初34,981百万円と見積もられた金額がのれんであった。値がついたのは工場や在庫ではなく、欧州に張られた38社分の販売網と製品群である。取得原価とは別に33,084百万円の貸付けを実行している点も見落とせない。負債の重い会社を、負債ごと引き受ける買い方であった。

参入そのものは早く効いた。欧州セグメントの売上高は2018年3月期に59,098百万円へ跳ね、連結売上高は初めて4,000億円台に乗る。翌年には三井物産が20%の出資で加わり、欧州は一人で背負う事業ではなくなった。ただし経常利益は2019年3月期に2,360百万円まで落ち、売上高が84,320百万円に達した2022年3月期でも利益率は6.6%にとどまる。2026年3月30日の取締役会は、事業規模の拡大に伴う組織及び事業運営の複雑化と収益性の低下を理由に欧州事業の構造改革を決議し、2027年3月期に約70億円の特別損失を見込んだ。38社を一括で買うという入り方の速さは、そのまま複雑さとして残ったとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

数字で見る 3表
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 Annagab S.A. 他グループ会社38社 Helios Group。塗料の製造・販売事業を行う各社の株式保有
企業結合を行った主な理由 欧州市場への本格参入及び同市場における事業拡大のため
企業結合日 2017年3月31日 当連結会計年度末日のため同期の連結損益計算書に業績は含まれない
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式取得 取得企業を決定するに至った主な根拠も関西ペイントによる現金を対価とする株式取得
取得した議決権比率 100.00% 株式取得直前に所有していた議決権比率は-%
取得原価 42,733百万円 対価の種類は現金のみ
取得関連費用 743百万円 コンサルタント費用・手数料等
のれん 27,525百万円 暫定額は284百万ユーロ(34,981百万円)で、確定により7,456百万円減
のれんの償却 20年以内の合理的な期間で定額法 企業結合時は償却期間を算定中としていた
確定で配分された主な資産 建物2,575百万円、土地1,146百万円 ほかに商標権908、顧客関連資産2,423、その他の無形資産2,170百万円
受け入れた資産 53,177百万円 流動資産29,715百万円、固定資産23,461百万円
引き受けた負債 44,817百万円 流動負債10,929百万円、固定負債33,887百万円
取得のための支出(純額) 33,948百万円 取得価額42,733百万円から現金及び現金同等物8,785百万円を控除
取得日までに実行した貸付け 33,084百万円 対応する借入金は子会社化に伴い連結上相殺消去した
通期換算した業績への影響 売上高44,575百万円 期首に完了と仮定した概算額。経常利益1,696百万円。監査証明の対象外
合弁パートナーの参画 2018年9月28日 三井物産が第三者割当増資を引受。出資比率は関西ペイント80%・三井物産20%

出所:関西ペイント 有価証券報告書 第153期(2017年3月期)・第154期(2018年3月期)・第155期(2019年3月期)【企業結合等関係】

のれんと無形固定資産、総資産の推移

関西ペイント:のれんと無形固定資産、総資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2012年3月期 −−319,409 のれんと無形固定資産は2015年3月期より前の期の有価証券報告書に内訳の記載がない
2013年3月期 −−362,625
2014年3月期 −−400,092
2015年3月期 11,26424,185448,085
2016年3月期 7,65719,454430,198
2017年3月期 36,95766,326542,163 取得原価の配分確定を反映した組替後。当初計上額はのれん44,215百万円
2018年3月期 47,20377,745601,330 欧州セグメントののれん未償却残高は29,468百万円
2019年3月期 39,78267,327584,135
2020年3月期 33,55158,406544,123
2021年3月期 29,88251,335606,580 欧州セグメントののれん未償却残高は21,623百万円
2022年3月期 27,57348,948600,057 欧州セグメントののれん未償却残高は20,222百万円
のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

出所:関西ペイント 有価証券報告書 第148期〜第158期(連結貸借対照表、報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報)

欧州セグメントの推移

関西ペイント:欧州セグメントの推移

(百万円) 欧州の売上高欧州の経常利益 備考
2016年3月期 17,772703
2017年3月期 16,8301,024 企業結合日が期末日のためHelios Groupの業績は含まれない
2018年3月期 59,0984,395 Helios Groupをのれんの償却を含め通年で計上。売上高は前期比251.1%増
2019年3月期 71,9342,360
2020年3月期 68,1682,719
2021年3月期 66,0025,220
2022年3月期 84,3205,608
欧州の売上高(百万円)欧州の経常利益率(%)

出所:関西ペイント 有価証券報告書 第148期〜第158期(セグメント情報)

参考文献
出典・参考
  • 関西ペイント 有価証券報告書 第153期(2017年3月期)【企業結合等関係】
  • 関西ペイント 有価証券報告書 第154期(2018年3月期)【企業結合等関係】
  • 関西ペイント 有価証券報告書 第155期(2019年3月期)【企業結合等関係】
  • 関西ペイント 有価証券報告書 第162期(2026年3月期)【重要な後発事象】
  • 関西ペイント 有価証券報告書 第148期〜第158期(連結貸借対照表・セグメント情報)
  • 関西ペイント 有価証券報告書「第153期(2017年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】」
  • 関西ペイント 有価証券報告書「第154期(2018年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【セグメント情報】」
  • 関西ペイント 有価証券報告書「第155期(2019年3月期)【企業結合等関係】」
  • 関西ペイント 有価証券報告書「第162期(2026年3月期)【重要な後発事象】」
  • 関西ペイント 有価証券報告書「第148期〜第158期(連結貸借対照表、セグメント情報)」
  • 関西ペイント 統合報告書「統合報告書2026」

免責事項およびポリシー