筆者の見解
極限の危機が壊した壁
この経営判断の核心は、前社長の急逝と自身の余命への向き合いという極限のなかで、業績低迷の原因を景気でなく社内の壁に定め、聖域とされた人員削減と縦割り組織の再編を同時に断行した点にある。銀行・事務系が社長を承継してきた会社で、生産畑の傍流であった鈴木泰信氏が、既存の力学に縛られず改革を進めた。歴代が手をつけられなかった希望退職に切り込みながら、等速ジョイント世界一という攻めの目標で組織の向きを一つに揃えたことに、この復活の性格がうかがえる。
もっとも、闘病の執念に支えられたトップダウンの改革は、強い個人の意志に多くを負っていた。危機のなかで壁を壊す速さは称賛される一方、その速さを平時の制度としてどう続けるかは、次の課題として残る。等速ジョイントに象徴される駆動部品は、軸受と並ぶNTNの2本柱として、その後のグローバル展開の軸となった。危機が個人に集めた力を、危機が収まった後の組織へどう引き継ぐか——2002年からのNTNの復活は、その問いを含んでいるといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月