日清食品ホールディングス 明星食品の買収 スティール・パートナーズの敵対的TOBに対する、ホワイトナイトとしての介入

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時期 2006年11月
当時の社長 安藤宏基
論点 即席麺市場の再編と経営権の安定
何をなぜ決めたか
概要

2006年10月末、米投資ファンドのスティール・パートナーズが即席麺2位級の明星食品に敵対的TOBを仕掛けた。明星の要請を受けた日清食品は、安藤宏基社長のもとでホワイトナイト(白馬の騎士)として参戦し、11月15日の取締役会で公開買付けと資本業務提携を決議して同日覚書に調印。12月22日を企業結合日として明星食品を子会社化し、翌2007年3月31日の株式交換で完全子会社とした経営判断である。

背景

2005〜2007年は、アクティビストがキャッシュリッチで不採算事業を抱える食品会社を狙った時期であった。スティール・パートナーズは明星食品だけでなく日清食品自身の株式も買い集めており、日清の2007年3月期の有価証券報告書には、同ファンドが関連ファンドと共同で発行済株式の10.31%を保有する旨の大量保有報告書が提出されたと記されている。日清食品にとって明星は、1960年代以来の大手専業4社の一角を占める国内の有力な競合であった。

内容

有価証券報告書は企業結合を行った理由を、明星食品の経営方針が中長期的な視野のもとに維持・発展されるべく最大限の支援を提供するため、および業務提携を通じた商品提供等のシナジー創出により両社の企業価値向上を実現するため、と記している。公開買付けの取得原価は32,686百万円。続く株式交換は明星食品1株に日清食品0.195株を割り当てる比率で、自己株式838,623株を交付して取得原価3,752百万円を計上した。

含意

取得した議決権比率は100.0%となり、明星食品は日清食品の完全子会社となった。発生したのれんは公開買付け分3,693百万円と株式交換分285百万円の合計3,978百万円で、10年にわたる均等償却とされた。日清・明星連合は即席麺分野でシェア約5割に達したが、公正取引委員会は競争を実質的に制限しないと判断した。買収防衛と業界再編が交差する、2000年代の日本のM&A史を象徴する一件となった。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

買収防衛と業界再編が交差した一件

この判断の核心には、他社に仕掛けられた敵対的買収を、自社の市場戦略へと引き寄せた発想がある。スティールの登場は日清にとって外から降ってきた出来事であったが、日清はそれを明星の防衛戦としてではなく、即席麺市場を統合する好機として受け止めた。数字の上では、これは高値づかみの買収ではない。公開買付けで払った取得原価32,686百万円に対し、企業結合日に受け入れた資産は60,207百万円、引き受けた負債は26,957百万円、少数株主持分は4,256百万円であり、差し引いた純資産28,994百万円をわずか3,693百万円上回るにすぎなかった。超過収益力として立てたのれんは、払った額の1割強でしかない。老舗メーカーの工場と土地という実物の裏付けが、対価のほとんどを説明していた。

一方で、買ったものが首位企業と同じ収益力を持つかは別である。のれんは10年で償却を終え、減損には至らなかったが、明星食品セグメントの営業利益率は4%台で推移し、2017年3月期の決算説明会の質疑応答には、国内即席めん事業の営業利益率10.9%に対し、明星食品と切り分けた日清食品だけの営業利益率は12.1%という数字が出てくる。統合から10年を経ても、両者の収益性の差は残っていた。買収防衛のためのホワイトナイトが、しばしば市場価格を超える買い物を迫られる構図は、その後の日本のM&Aでも繰り返し現れることになる。日清食品はこの買収を通じて国内即席麺の寡占を一段と深めた。その選択の当否は、明星ブランドが買収から20年近くを経てもなおグループに残る事実とあわせて、これからも読み解かれてよい論点であると思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 明星食品株式会社 主な事業の内容は即席麺事業および外食事業
企業結合の法的形式 株式の公開買付けおよび株式交換 完全子会社化。結合後企業の名称は日清食品株式会社
取締役会の決議日 2006年11月15日 公開買付けと資本業務提携を決議し、同日その旨の覚書に調印した
企業結合日 2006年12月22日 連結損益計算書に含めた業績の期間は2006年10月1日から2007年3月31日
公開買付けの取得原価 32,686百万円 株式取得費用31,985百万円と仲介手数料等701百万円の合計
公開買付価格・買付期間 記載なし 応募株券数を含め、有価証券報告書のいずれの章にも記載がない
株式交換の決議日 2007年2月6日 取締役会で決議し、同日に株式交換契約を締結した
株式交換比率 明星食品1株に日清食品0.195株 市場株価平均法とDCF法を用い、公開買付価格も参考に協議して合意した
株式交換で交付した株式 838,623株 自己株式を2007年3月31日に割当交付。資本剰余金が1,337百万円増加した
株式交換時の1株評価額 4,350円 株式交換契約締結日前日の東京証券取引所における日清食品株式の終値
株式交換の取得原価 3,752百万円 株式交換に直接要した費用104百万円を含む
取得した議決権比率 100.0% 公開買付けと株式交換を経て完全子会社となった
発生したのれん 3,978百万円 公開買付けで3,693百万円、株式交換で285百万円。10年にわたる均等償却
受け入れた資産の額 60,207百万円 流動資産26,279百万円、固定資産33,927百万円
引き受けた負債の額 26,957百万円 流動負債17,205百万円、固定負債9,751百万円。ほかに少数株主持分4,256百万円
子会社株式取得に伴う支出 23,258百万円 取得価額32,686百万円から受け入れた現金及び現金同等物9,428百万円を控除した額
通期換算した売上高 3,971億円 期首に完了と仮定した概算額。営業利益346億円、当期純利益192億円。監査証明なし

出所:日清食品 有価証券報告書 第59期(2007年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】

のれんと総資産の推移

日清食品ホールディングス:のれんと総資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2002年3月期 −−326,913
2003年3月期 −−331,994
2004年3月期 −−343,644
2005年3月期 −771361,104 当時の連結調整勘定は発生年度に全額償却する方針で、残高の別掲がない
2006年3月期 0445366,801 買収前。貸借対照表ののれんは「-」
2007年3月期 4,3525,022410,407 明星食品の取得でのれん3,978百万円が発生。総資産は436億円増えた
2008年3月期 3,8634,321392,694
2009年3月期 4,3274,779408,729
2010年3月期 4,1494,850408,410
2011年3月期 3,3994,465409,748
2012年3月期 2,6483,939414,717 10年均等償却で残高は減り続け、減損損失は計上されていない
のれんと総資産
のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

出所:日清食品 有価証券報告書 第58期〜第65期(連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移)

即席めん事業のセグメントの推移

日清食品ホールディングス:即席めん事業のセグメントの推移

(百万円) セグメント売上高セグメント営業利益 備考
2006年3月期 294,51030,089 菓子・飲料の重要性が増し、この期からセグメント情報の記載が始まった
2007年3月期 325,46732,352 明星食品の連結は2006年10月から。売上高には6か月分が入る
2008年3月期 346,82125,374 明星食品が通年で寄与した最初の期。原材料価格の上昇で減益
2009年3月期 322,83621,654
2010年3月期 331,39624,669
即席めん事業の売上高と営業利益率
セグメント売上高(百万円)セグメント営業利益率(%)

出所:日清食品 有価証券報告書 第58期〜第65期(事業の種類別セグメント情報、セグメント情報)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 日清食品 有価証券報告書 第59期(2007年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【大株主の状況】
  • 日清食品 有価証券報告書 第58期〜第65期(連結貸借対照表、セグメント情報)
  • 日清食品ホールディングス 2017年3月期 決算説明会 質疑応答(2017年5月15日)
  • 公正取引委員会 平成18年度企業結合事例2「日清食品株式会社による明星食品株式会社の株式取得について」
  • 日清食品 有価証券報告書「第59期(2007年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】」
  • 日清食品 有価証券報告書「第59期(2007年3月期)【大株主の状況】」
  • 日清食品 有価証券報告書「第58期〜第65期(連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移、セグメント情報)」
  • 日清食品ホールディングス 決算説明会 質疑応答「2017年3月期 決算説明会(質疑応答)」

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