この判断の核心は、発明そのものよりも、発明をどう囲い込んで先行者の地位に変えるかにあった。安藤百福社長は、模倣の横行する新市場で製造法の特許を取り、約110社へのけん制と提訴という強い対抗策を講じた。しかし特許の行使は、競合を排除して市場を独占するには届かず、警告と係争を通じて業界の秩序を自らに有利な形へ整える程度にとどまった。先願をめぐる混乱を抱えていた点も踏まえれば、これは無傷の勝利ではなく、係争含みの主導権確立であっただろう。
それでも、訴訟や権利を交渉のテコに使い、先に量産と流通を固めて後発を引き離すという型は、この時期に輪郭を得た。同じ型は、後年のカップヌードルをめぐる特許・実用新案の防衛戦でより鮮明になり、模倣を設備の作り込みで封じる戦い方へと引き継がれていく。即席麺という産業を立ち上げた発明の陰で、それを誰の主導のもとに置くかを争ったこの一件は、日清食品が技術と権利をどう経営に使う会社なのかを、早くに示していたといえる。