東急の直近の動向と展望

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東急の直近の業績・経営課題・市場ポジションと、今後の展望をまとめたページです。

セグメント構成や中期的な論点を、現経営陣の発信と有価証券報告書の記述をもとに整理しています。

直近の動向と展望

渋谷3大プロジェクトに総額6,000億円の投資

渋谷再開発は最終フェーズに入った。Shibuya Upper West Project(2029年度完成予定)、渋谷スクランブルスクエア中央棟・西棟(2031年度完成予定)、宮益坂地区第一種市街地再開発(2031年度完成予定)の3プロジェクトが進行中で、想定投資額は建築費高騰を受けて従前の5,000億円から6,000億円に上方修正された。他社の都内大型再開発が遅延や見送りに転じる中、東急は公表スケジュール通りに進める方針を維持し、需給逼迫による賃料上昇の恩恵を取りに行く。1922年の目黒蒲田電鉄設立から約100年、渋谷ターミナルの価値を最大化する投資が最終段に入っており、2029年から2031年にかけて複数物件が順次竣工する予定である。建築費高騰のもとで計画推進の方針を維持する点は、他社の大型再開発との差別化要因にもなっている。

2025年3月期の営業収益は1兆549億円、経常利益は1,077億円で過去最高を更新した。不動産事業のセグメント利益は483億円で、交通事業の289億円の約1.7倍にあたる。渋谷エリアでは2024年度下期に複数テナントと10〜15%の増賃改定を実施し、月坪4万円を超える物件も出てきている。一方で今後3年間は大型再開発の建設仮勘定が積み上がるためROEが一時的に下がる見通しであり、利益を生まない資産の増加が資本効率の課題になる。中期経営計画では700億円の資産売却と自己株式取得(100億円・650万株上限)も予定し、大型再開発期間中の資本効率の維持を図っている。渋谷エリアのオフィス賃料は丸の内との差を縮め、月坪4万円を超える物件も出始めるなど、渋谷再開発の収益貢献が見え始めた。

参考文献
  • 決算説明会 FY24
  • 財界オンライン 2023年
  • JBpress 2024/5/7

堀江正博体制の「人口誘致」戦略と沿線人口の取り込み

堀江正博社長は「人口誘致に真正面から取り組む」(JBpress 2024/05/07)と語り、渋谷の就業人口増加と沿線の居住人口増加を経営戦略の中心に据えている。社長就任時には「イノベーション、新産業が生まれる街づくりを!」(財界オンライン 2023年)とも述べ、渋谷を新産業の集積地に育てる方針を示した。渋谷で働く人を沿線に住まわせ、鉄道・バス・生活サービスの利用者として取り込む循環モデルが東急の事業構造の根幹にある。分譲マンションは人口誘致の手段として位置づけ、手頃な価格帯の物件(定期借地権マンション等)の供給も進める。1922年の五島慶太の郊外電鉄モデルが、約100年を経て「沿線人口の取り込み」として再定義されており、鉄道・不動産・生活サービスの3つの柱がそれぞれの持株会社を通じて連動する仕組みになっている。

2023年3月に開通した東急新横浜線は新幹線との直通アクセスを実現し、移動需要の拡大に寄与している。鉄道運賃については追加値上げではなく輸送人員の増加でコスト増をカバーする方針である。バス事業では東急トランセとの統合で業界内競争力のある賃金水準を実現し、他社で減便が相次ぐ中で運転手確保が進んでいる。1956年の多摩田園都市構想以来、東急は鉄道インフラへの先行投資と沿線人口の積み上げで長期収益を作ってきたが、その構造は渋谷の大型オフィス開発と、沿線の分譲マンション供給として2020年代にも引き継がれている。堀江体制の人口誘致戦略は、約100年を超える東急の基本モデルを2030年代に向けて更新する試みでもある。

参考文献
  • 決算説明会 FY24
  • 財界オンライン 2023年
  • JBpress 2024/5/7

参考文献・出所

有価証券報告書
決算説明会 FY24
東洋経済 1925/09/19
週刊東洋経済 1925/09/19
ダイヤモンド 1930/01/01
ダイヤモンド 1932/11/10
産業と経済 1953/09
読売新聞 1956/08/16
実業の世界 1966/12
日経朝刊 1986/03/16
日経ビジネス 1986/06/23
日経新聞 1989/03/14
日経新聞 1989/03/16
交通公論 1978/05
決算説明会 FY21-2Q
財界オンライン 2023年
JBpress 2024/05/07
JBpress