株主要求と会社対応8件
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株主要求と会社対応
英国系の投資ファンドであるシルチェスターは2016年8月にきんでんへ投資し、資本配分を含む課題で7年以上にわたる対話を継続してきた。転機は2024年5月、別の投資ファンドであるひびき・パース・バリュー・ファンドが年106円配当の株主提案を提起し、シルチェスターはこの提案を支持する意向を公表。これにより大株主の2ファンドが賛成を表明したが、6月の定時総会で、同増配の議案は賛成26.7%にとどまり、否決された。ただし、株主提案後のきんでんは還元策を積極化し、2026年4月には取得上限2237億円の自社株買いを公表するなど、株主還元を積極化する経営に移行。きんでん側の視点に立てば、企業経営において、株主重視の姿勢が定着する契機をもたらした事案であり、同社の企業価値向上に寄与する転換点となった。
要求と経緯要求2件・出来事8件
株主との対話:株主から会社に対する要求と経緯
論点は、関西電力の持分法適用関連会社である「きんでんの厚い資本」を、成長投資と株主還元のどちらに振り向けるかであった。ひびきは2024年3月期の年間配当を106円とする株主提案で純資産の圧縮を求め、シルチェスターはROEの改善に役立つとして支持した。一方、きんでんは取締役会で成長投資と還元方針を挙げて反対し、株主提案は賛成26.7%で否決された。その後、きんでんは2026年に大規模な自社株買いと年間配当130円を決め、還元を積極化した。
| 項目 | 日付 | 主体 | 対話区分 | やり取りの要旨 | 株主公表 | 会社公表 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 資本効率 | 2024/01/31 | 意思決定 | 確定自社株買い・消却取得総額80億円 | — | ||
| 2024/05/22 | 書簡提案 | 要求配当でROEと資本配分を改善 | — | |||
| 2025/01/31 | 意思決定 | 確定自社株買い取得総額100億円 | — | |||
| 2026/04/27 | 意思決定 | 確定自社株TOB取得上限2,237億円 | — | |||
| 特別配当 | 2024/05/20 | 意思決定 | 確定10年定額配当は成長投資に反する | — | ||
| 2024/05/22 | 書簡提案 | 要求ひびき提案を支持1株106円 | — | |||
| 2024/06/25 | 株主総会 | 議案決議 | 否決株主提案の配当賛成26.7% | — | ||
| 2025/06/25 | 意思決定 | 確定年間配当1株90円 | — | |||
| 2026/06/24 | 意思決定 | 確定年間配当1株130円 | — |
| 日付 | 主体 | 対話区分 | やり取りの要旨 | 株主公表 | 会社公表 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2024/01/31 | 意思決定 | 確定自社株買い・消却取得総額80億円 | — | ||
| 2024/05/20 | 意思決定 | 確定10年定額配当は成長投資に反する | — | ||
| 2024/05/22 | 書簡提案 | 要求配当でROEと資本配分を改善 | — | ||
| 要求ひびき提案を支持1株106円 | |||||
| 2024/06/25 | 株主総会 | 議案決議 | 否決株主提案の配当賛成26.7% | — | |
| 2025/01/31 | 意思決定 | 確定自社株買い取得総額100億円 | — | ||
| 2025/06/25 | 意思決定 | 確定年間配当1株90円 | — | ||
| 2026/04/27 | 意思決定 | 確定自社株TOB取得上限2,237億円 | — | ||
| 2026/06/24 | 意思決定 | 確定年間配当1株130円 | — |
株主側の主張:ひびき・パース・アドバイザーズ
元来より電設業界は電力会社の持ち分比率が高い企業が多く、外部株主の影響を受けにくいことから株主還元や積極的な成長戦略の遂行には消極的な傾向があったものと私どもは評価しております。しかし、47社の上場しているサブコン企業の内、22年度に赤字を出したのは2企業に留まり、安定した収益力のある業界であることも事実です。そうであるにもかかわらず、株式市場からの評価は単純平均でPBR0.88倍(Appendix3参照)と東証株価指数の平均である1.84倍に比べて著しく低位であるのは、過去のそういった持ち株比率の状況や過去からの連続的な考え方を打破しない、業界全般に漂う「空気」のようなものを引きずってきたことにより、資本市場や世界の投資家との対話に対して決して積極的ではなかったことに起因すると私どもは考えます。
貴社は国内最大の電気設備工事企業へと成長され、業界を代表する企業として多大な影響力を持っています。是非とも業界のリーダーとして資本市場と真摯に向き合い、企業価値最大化のために何が最善なのかを、本提言書もご活用いただきつつ、再度ゼロベースから検討し、競合他社に先だって変革の狼煙をあげていただきたいと願っております。そうすれば、貴社の後に続く企業も必ず現れ、業界にとり、また日本全体にとり大きなプラスとなるのは間違いありません。
株主側の主張:シルチェスター
2024年4月20日、ひびき・パース・バリュー・ファンド(以下「ひびき」といいます。)は当会社に対し、2024年3月期の年間配当を一株当たり106円に増配することを求める株主提案書を提出しました。ひびきは当社の株主に対し、近く開催される当社の年次株主総会において、この株主提案を支持するよう呼びかけました。
現時点で入手可能な情報に基づいた上で、弊社はひびきの特別配当に関する提案を支持する意向です。
当社の取締役会による反対意見について、弊社は納得していません。弊社は、特別配当の実施が、当社や現在及び将来の顧客、サプライヤー、ステークホルダーに悪影響を及ぼすことはないと考えます。特別配当は、当社の株主資本利益率(ROE)の改善に役立つものとなります。また、特別配当は、当社の資本配分のあり方の改善に向けた大きな取り組みにおいて、小さな一歩であることも意味します。
会社側の主張:きんでん
2024年1月31日付『中期経営計画における成長投資と企業価値向上への取り組み』(以下、「本取り組み」といいます。)にて公表しました通り、当社は「安定した財務基盤」を堅持しつつ、当社の持続的成長・発展に必要となる「人財を軸とした成長投資(事業基盤投資800億円規模、教育インフラ投資400億円規模、成長領域への投資200億円規模)」を実行していくことで、中長期的な利益創出能力の強化を進めております。
また、株主の皆様への利益配分については、経営の重要課題の一つと位置づけ、安定的かつ継続的な配当という基本方針のもと、以降の中期経営計画期間中の総額において配当性向は40%を目安、総還元性向は50~60%を目安に株主還元を強化し、自己資本の効率化を進めております。
具体的には、当社は本取り組みの公表にあたり、2024年3月期の年間配当予想額を40円から60円に修正しておりましたが、2024年4月24日に当期業績結果を踏まえさらに3円増配し、年間配当額を63円としております。また2025年3月期の年間配当予想額は、普通配当70円に創業80周年記念配当10円を加え、年間80円としております。なお、当社は本取り組みの公表にあたり、80億円(上限)の自己株式取得も公表しております。
当社は、社会インフラを支える企業として、安定した財務基盤を堅持しつつ、持続的成長・発展を遂げていくことこそが、全てのステークホルダーの長期的な利益に資するものと考えております。一方、提案株主は、総還元性向150%、配当性向75%を基準として算出された年間106円の定額配当を10年間継続することを求めており、当社の成長投資と株主還元の考え方に反するとともに、資本政策の柔軟性を失うことも危惧されます。
したがって、当社取締役会は本議案に反対いたします。
きんでんの取締役(2023年6月可決・当時)
| 氏名 | 役職 | 区分 | 総会:選任賛成比率 | |
|---|---|---|---|---|
| 24/6 | 25/6 | |||
| 土井義宏 | 代表取締役会長 | 社内 | 76.8% | 95.1% |
| 上坂隆勇 | 代表取締役社長 | 社内 | 79.7% | 95.7% |
| 林弘之 | 代表取締役副社長 | 社内 | 82.6% | 99.3% |
| 西村博 | 専務執行役員 | 社内 | 83.1% | — |
| 佐藤守良 | 専務執行役員 | 社内 | 83.1% | — |
| 田中日出男 | 常務執行役員 | 社内 | — | — |
| 福田隆 | 常務執行役員 | 社内 | 84.9% | — |
| 伊﨑幸治 | 常務執行役員 | 社内 | 84.9% | 99.3% |
| 堀切正則 | 常務執行役員 | 社内 | 84.9% | — |
| 鳥山半六 | 取締役 | 社外 | 83.6% | 96.0% |
| 髙松啓二 | 取締役 | 社外 | 80.7% | 96.0% |
| 森川桂造 | 取締役 | 社外 | 83.6% | — |
| 相良和伸 | 取締役 | 社外 | 85.4% | 99.4% |
| 小久江晴子 | 取締役 | 社外 | 85.7% | 99.6% |
| 武藏扶実 | 取締役 | 社外 | 85.7% | 99.6% |
筆者見解(歴史的文脈から見た視点)
要求区分の一覧18種類
シルチェスターの要求区分:公開資料からの推定
きんでんに対し、シルチェスターがどの要求区分(投資ファンドが要求する項目を独自に一般化したもの)を、どの手段で伝えたかを、公開資料で確かめられる範囲で○を付けて示す。
| 種別 | 要求区分 | 定義 | 株主提案 | 招集請求 | 書簡提案 | 面談提案 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 資本政策 | 特別配当 | 通常の配当に上乗せした、一度きりの配当 | ○ | |||
| 配当方針 | 1株配当の引き上げ、配当性向・DOEの目標の変更 | |||||
| 自社株買い | 自己株式の取得と、取得した株式の消却 | |||||
| 資本効率 | ROE・資本コストの目標、余剰資本の水準と使い道の方針。個別の還元策は特別配当・配当方針・自社株買い | ○ | ||||
| 政策保有株 | 取引先などと持ち合う政策保有株式の売却・縮減 | |||||
| 保有資産 | 現預金・不動産など事業に使っていない資産の売却・活用。政策保有株式は除く | |||||
| 事業戦略 | 上場子会社 | 上場子会社の完全子会社化・売却・持分の扱い | ||||
| 非中核事業 | 本業から外れた事業・子会社・資産の売却。上場子会社は除く | |||||
| 経営戦略 | 経営戦略・中期経営計画・事業ポートフォリオの見直し | |||||
| M&A・提携 | 会社が進める買収・統合・資本提携への反対、条件の見直し | |||||
| 非公開化 | 株式の非公開化・MBOの実施、その条件の見直し | |||||
| ガバナンス | 取締役解任 | 特定の取締役の解任、再任への反対 | ||||
| 取締役選任 | 株主が推す候補を含む取締役の選任 | |||||
| 取締役会構成 | 独立社外取締役の比率、議長と社長の分離など取締役会の構成 | |||||
| 定款変更 | 株主総会で決められる事項を増やすなどの定款の変更 | |||||
| 役員報酬 | 役員報酬の水準・仕組み・業績との連動の見直し | |||||
| 買収防衛策 | 買収防衛策の廃止、導入への反対 | |||||
| 非公開 | 非公開面談 | 面談など公表されない場で伝えた要求。中身は非公開 |
参考文献9件
参考文献
| 日付 | 公表 | 種類 | 要旨 |
|---|---|---|---|
| 2024/05/20 | 会社公表 | 適時開示 | ひびきの年106円配当の株主提案への取締役会の反対決議 |
| 2024/05/22 | 株主公表 | プレスリリース | ひびきの年106円配当の株主提案への賛成表明 |
| 2024/05/22 | 株主公表 | プレスリリース | ひびきの年106円配当の株主提案への賛成表明 |
| 2024/06/27 | 会社公表 | 臨時報告書 | ひびきの年106円配当の株主提案の賛成率26.7% |
| 2025/06/02 | 会社公表 | 招集通知 | 自己株式268万6,900株の取得と消却 |
| 2025/06/27 | 会社公表 | 臨時報告書 | 年間配当の63円から90円への増配 |
| 2026/06/01 | 会社公表 | 招集通知 | 自己株式231万300株の取得 |
| 2026/06/24 | 会社公表 | 変更報告書 | 関西電力グループからの自己株式の公開買付け |
| 2026/06/26 | 会社公表 | 臨時報告書 | 年間配当の90円から130円への増配 |