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NTTによるNTTドコモの完全子会社化と親子上場の解消

2020年成立

なぜNTTは約4.3兆円を投じ、上場子会社ドコモを再び完全に取り込んだのか?

買収 TOB
公表日時 2020年9月
交渉期間 約3ヶ月
帰結 成立
概要
2020年9月、NTTが上場子会社NTTドコモに1株3900円でTOBを実施し完全子会社化を発表した案件。買い付け総額は約4兆2500億円で、当時として国内企業へのTOBで過去最大規模。同年12月にドコモは上場廃止となった。
背景
1998年上場のドコモはNTTの上場子会社で、親会社と少数株主の利益相反という親子上場のガバナンス課題を抱えていた。5G時代の競争激化とグローバル展開、菅政権の携帯料金引き下げ圧力が再編を後押しした。
内容
NTTは既に保有する66.21%を超える一般株主の株式を、前日終値を約4割上回る3900円で買い付け。ドコモ取締役会は賛同・応募推奨を表明し、11月にTOBが成立して保有比率は91.46%に高まり、12月に上場廃止した。
含意
上場子会社の完全子会社化で意思決定を一体化し、グループ横断で資源を再配分する狙い。親子上場解消の潮流を象徴し、2025年のNTTデータ完全子会社化へと連なる「大NTT化」の起点となった。
筆者の見解

「大NTT化」への起点

NTTによるドコモの完全子会社化は、規模の追求というより、分散していた意思決定を一つに束ね直す再集約の動きとして読める。1985年の民営化と、その後の競争促進のために分割・分社された通信事業が、5Gとグローバル競争の時代に再び一体経営へと回帰した格好である。約4.3兆円という巨費は、上場子会社という体制が生む意思決定の遅さや利益相反のコストを、NTTが重く見たことの裏返しでもあるのだろう。条件や金額の大きさよりも、買収後にグループの戦略を本当に一体で動かし切れるかが、この種のディールの成否を分ける論点になる。

この案件は、その後の「大NTT化」ともいうべきグループ再編の起点となった。2025年にはNTTがNTTデータを完全子会社化する動きへと連なり、グループ横断で資源配分を機動的に進める方向が一段と鮮明になっている。一方で、巨大な通信グループが料金や競争に及ぼす影響は、利用者保護や公正競争の観点から問われ続ける。完全子会社化が約束した意思決定の速さが、料金や新事業という形で利用者の便益に結びつくのかは、統合後の経営の質に委ねられているといえる。

Yutaka Sugiura

統合の背景

親子上場という積年の構造

NTTドコモの源流は、1991年8月に日本電信電話の出資で設立されたエヌ・ティ・ティ・移動通信企画株式会社にさかのぼる。翌1992年7月にNTTから移動通信事業の譲渡を受けて営業を開始し[2]、携帯電話の普及とともに急成長を遂げた。1998年10月には東京証券取引所市場第一部に上場し[1]、巨額の時価総額をもつNTTの上場子会社となった。親会社であるNTTと、株式市場に開かれた子会社ドコモという二層構造は、その後20年以上にわたって続くことになる。

こうした親子上場には、かねて構造的な課題が指摘されてきた。親会社が支配的な持株比率を握る一方、子会社にも独立した少数株主が存在するため、両者の利益が相反しうるからである。グループ全体での事業ポートフォリオの最適化や資源配分を、少数株主の権利に配慮しながら進めなければならず、意思決定に幅と時間を要するという問題がある[4]。NTTはドコモ株式の66.21%を保有する親会社でありながら[3]、ドコモの上場会社としての独立性も尊重しなければならないという二律背反を抱えていた。

5G・グローバル競争と料金引き下げ圧力

統合を後押ししたのは、通信を取り巻く環境の変化である。第5世代移動通信システム(5G)の本格展開には巨額の設備投資が必要で、世界では通信とITサービスを束ねた巨大プレーヤーの競争が激しさを増していた。NTTは、グループ横断で各社のリソースやアセットを戦略的に組み合わせて活用していくことが必要だと位置づけ[5]、5G時代の競争力強化と海外展開の加速を完全子会社化の狙いに掲げた。移動通信を担うドコモを意思決定の同じ土俵に取り込むことが、その前提とされたのである。

もう一つの背景に、政治からの圧力があった。2020年9月に発足した菅義偉政権は携帯電話料金の引き下げを看板政策に掲げ、通信大手に値下げを強く求めていた。NTTの澤田純社長は完全子会社化について、経営の効率化を通じて結果的に料金値下げにつながるとの考えを示した[6]。料金引き下げの原資を捻出するうえでも、上場子会社として独立採算を保つドコモを完全に取り込み、グループ一体で経営する方が動きやすいという判断があったとみられる。

統合の発端

公表経緯——観測報道から正式発表へ

完全子会社化が表面化したのは2020年9月28日である。同日、4兆円規模のTOBを検討しているとの観測が報じられ、翌29日にNTTが正式に発表した[7]。NTTはドコモの一般株主が保有する株式を、1株3900円で公開買い付けすると公表した。買い付け総額は約4兆2500億円にのぼり、国内企業へのTOBとしては当時として過去最大規模となった[8]。同日にNTTの澤田純社長とドコモの吉澤和弘社長が会見し、ドコモの新社長には井伊基之氏が就く人事も明らかにされた。

買い付け価格の3900円は、発表前日の終値2775円を約4割上回る水準であった[9]。ドコモの株主は約27万人にのぼり[10]、一般株主に手厚いプレミアムを示すことで応募を促す狙いがあったとみられる。NTTは買い付けに必要な資金を金融機関からの借り入れで賄う方針を示し、4兆円を超える巨額の資金を一時に動かす異例の案件となった。発表直後からドコモ株は買い付け価格にさや寄せして急騰し、市場は完全子会社化の実現性を織り込んでいった。

日本電信電話(NTT)

NTTの狙い——意思決定の一体化

NTTがこの巨費を投じる最大の眼目は、意思決定の一体化にあった。親子上場を解消すれば、少数株主との利益相反を気にせず、グループ全体の最適を優先した経営判断を素早く下せるようになる。親会社主導による迅速な意思決定で事業を強化できるほか、ドコモが生み出す利益を全てグループに取り込めるという利点もある[11]。NTTは完全子会社化を、5Gや次世代技術への投資判断、海外事業の強化、グループ再編を機動的に進めるための前提と位置づけたのである。

完全子会社化は、NTTが既に握る支配力をさらに高める一手でもあった。NTTは発表時点でドコモ株式の66.21%を保有しており[12]、残る一般株主の持ち分をすべて買い取る構図である。連結子会社として既に経営を握っていたとはいえ、上場を維持する限りドコモには独立した取締役会と少数株主が存在し続ける。100%子会社にして初めて、グループの戦略と完全に一致した経営が可能になるというのがNTTの判断であった。携帯料金の引き下げという政治的要請に応える原資の捻出も、その射程に入っていたとみられる。

統合の経過

ドコモ取締役会の賛同とTOBの開始

買収は、対象会社であるドコモの同意のもとで進められた。2020年9月29日、ドコモの取締役会は親会社NTTによる公開買い付けに賛同する意見を表明し、株主に応募を推奨することを決議した[13]。ドコモは証券コード9437、代表取締役社長は吉澤和弘氏であった[14]。親会社による子会社のTOBは、買い付け価格が少数株主に不利でないかが厳しく問われる局面だが、ドコモは3900円という価格を妥当と判断し、賛同と応募推奨という形で足並みをそろえた。買い付け期間は9月30日から11月16日までと設定された。

TOBの成立と上場廃止

買い付けは予定どおり成立した。買い付け期間が終了した2020年11月16日までに約8億1501万株の応募があり、TOBは成立した[15]。これによりNTTの保有比率は、ドコモの自己株式などを除いて91.46%に高まった[16]。買い付け総額は約4兆2500億円にのぼった。応募で買い取れなかった残りの株式についても、NTTは株式売渡請求や株式併合といった手続きで強制的に取得し、年度内に完全子会社化を完了させる方針を示した。

残された手続きはスクイーズアウト(少数株主の締め出し)であった。NTTは2020年11月27日、ドコモに対する株式売渡請求を行うことを決定し、ドコモもこれを承認した[17]。一連の手続きを経て、ドコモは2020年12月25日に東京証券取引所市場第一部の上場を廃止し、NTTの完全子会社となった[18]。1998年の上場以来、22年にわたって続いた上場子会社という地位に終止符が打たれ、ドコモは再びNTTの内部へと組み込まれることになった。

統合の帰結

完全子会社化後の料金引き下げと経営

完全子会社化は、菅政権が求めた携帯料金の引き下げと表裏の関係にあった。NTTの澤田社長は、経営の効率化を通じて結果的に料金値下げにつながるとの見方を示しており[19]、グループ一体経営による効率化の果実を料金に反映させる構図が描かれた。ドコモの新社長に就いた井伊基之氏は、移動通信事業だけでない会社に成長させたいと述べ[20]、通信にとどまらない事業領域の拡大に意欲を見せた。実際にドコモは完全子会社化の直後から、より低廉な新料金プランの投入へと動いていく。

親子上場解消という潮流

ドコモの完全子会社化は、日本企業に広がる親子上場解消の流れを象徴する出来事でもあった。コーポレートガバナンス改革のなかで、上場子会社をめぐる利益相反への市場の視線は厳しさを増し、同じ時期には伊藤忠商事によるファミリーマートのTOBなど、上場子会社を完全子会社化する動きが相次いでいた[21]。グループ全体での資源の最適配分と機動的な意思決定を重んじる発想が、各社で親子上場の見直しを促していた。NTTによるドコモの取り込みは、その潮流のなかでも飛び抜けて大きな案件であった。

出典・参考