KDDIによるローソンのTOBと三菱商事との共同経営
2024年成立なぜ通信会社のKDDIはコンビニ大手ローソンを5000億円で買い、三菱商事と折半で共同経営する道を選んだのか?
- 概要
- 2024年2月、KDDIがローソンに1株10,360円・総額約5,000億円のTOBを実施し、親会社の三菱商事が保有する分を除く全株を取得した案件。同年7月にローソンは上場廃止となり、KDDIと三菱商事が議決権を50%ずつ持つ共同経営体制へ移行した。
- 背景
- コンビニ市場の成熟でローソンは業界3位にとどまり、店舗あたり日販で上位2社に劣後していた。通信側でも料金値下げと人口減で成長が頭打ちとなり、KDDIはリアル店舗網を起点とする非通信領域の拡大を模索していた。
- 内容
- KDDIがTOBでローソン株の約50%を取得して非公開化し、三菱商事は連結子会社だったローソンを持分法適用会社へ移した。両社が50%ずつ保有して共同経営し、「リアル×デジタル×グリーン」の融合を掲げた。
- 含意
- 完全子会社化でファミマを取り込んだ伊藤忠とは対照的に、三菱商事はKDDIを招き入れてリスクとノウハウを分担する道を選んだ。通信と小売の経済圏を結ぶ、新しい型の異業種資本提携である。
経済圏の融合という新しい型
KDDIによるローソンのTOBは、通信会社が全国規模のリアル店舗網を経済圏の基盤として取り込んだ、新しい型の資本提携といえる。携帯料金の値下げで通信単体の成長が鈍るなか、日々の生活接点を押さえる小売との融合は、金融・決済・ヘルスケアといった非通信領域へ広げるための合理的な一手であった面は否めない。一方で、約5,000億円を投じた買収が店舗数や会員数の規模に見合うリターンを生むかは、ポイント経済圏の競争が激しさを増すなかで、なお見極めが必要なのだろう。異業種の融合が掛け声で終わらず、店舗の現場の価値にどう結びつくかが問われる。
もう一つの含意は、商社にとっての小売事業の抱え方である。完全子会社化で取り込む道もあるなかで、三菱商事は対等の共同経営という形を選び、単独で損益を背負う立場から一歩引いた。事業会社を丸抱えする経営の難しさと、外部の知見を呼び込む利点とをはかりにかけた選択とみることもできる。成立した買収であっても、その評価は統合後に通信と小売の強みをどこまで一つの価値へ編み直せるかにかかっている。規模や比率といった入口の条件よりも、異業種の経営をどう束ねるかという実務の設計が、この共同経営の成否を分けることになるのだろう。
統合の背景
マクロ環境——コンビニの成熟と通信の成長鈍化
2020年代の国内コンビニエンスストア業界は、出店余地が細り、市場が成熟期に入っていた。セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの3社による寡占が進むなかで、ローソンは業界3位の座が指定席になりつつあると評され、店舗あたりの平均日販で上位2社に水をあけられていた[1]。親会社である三菱商事は、ローソンの企業価値をどう引き上げるかという重い課題に直面していたとされる。中西勝也社長はローソンの価値向上に悩み、新しい価値の提供が必要との認識に至ったと報じられている[2]。商社が抱えた小売事業のテコ入れという宿題が、提携の起点に横たわっていた。
通信業界の側にも、提携を後押しする事情があった。携帯料金の引き下げ圧力と人口減少で通信サービス単体の成長は頭打ちとなり、KDDIは金融・決済やライフデザインといった非通信領域を新たな成長源と位置づけていた[3]。同社にとってローソンの全国の店舗網は、通信契約者と日常の接点を結ぶリアルの基盤になりうる。KDDIの高橋誠社長は、通信、DXの力をフル活用して、未来のコンビニエンスストアを実現していきたい[4]と述べ、ローソンの顧客データとau経済圏のデータを相互活用する構想を掲げた。携帯各社がポイント経済圏の拡大を競う局面でもあった。
三菱商事とローソンの資本関係
両社の関係は、本件の7年前にさかのぼる。三菱商事は2017年2月、ローソン株の公開買付けを実施して出資比率を持分法適用会社だった約33%から50.1%へ引き上げ、計1440億円を投じてローソンを連結子会社とした[5]。これは資源価格の下落で巨額の減損を抱えた商社が、非資源の事業経営力を磨こうとする動きの象徴でもあった[6]。もっとも、商社が小売の現場を主導することの難しさはその後も残り、ローソンの収益力を上位2社並みに引き上げるには至らなかった。連結子会社として丸抱えする経営の限界が、共同経営という次の選択を準備したとみることもできる。
統合の発端
公表経緯——3社が結んだ資本業務提携
提携が公になったのは2024年2月6日である。三菱商事・KDDI・ローソンの3社は、「リアル×デジタル×グリーン」を融合させた新たな生活者価値を創出するとして、資本業務提携契約の締結を発表した。あわせてKDDIは、三菱商事が保有する分を除くローソン株に対し、1株10,360円で公開買付けを実施すると公表した[7]。買付価格は前営業日である2月5日の終値に約19%のプレミアムを乗せた水準であり、買付総額は約5,000億円にのぼる[8]。TOBの成立後はローソンを非公開化し、三菱商事とKDDIが議決権を50%ずつ保有する共同経営へ移す[9]という、通信と小売を結ぶ異例の枠組みであった。
三菱商事の視点——共同経営を持ちかけた側
提携を仕掛けたのは三菱商事だったとされる。プレジデントオンラインの検証によれば、三菱商事は2023年5月にKDDIへローソンの共同経営を持ちかけたとされる[10]。ローソンが業界3位にとどまる現状への危機感が、資本家としての三菱商事を動かしたという見立てである。連結子会社として単独で抱え込むのではなく、デジタルに強いパートナーと組んで企業価値の向上をはかる——その相手として、すでに資本関係のあったKDDIが選ばれた。ローソンやKDDIの現場の発意というより、ローソンをなんとかしたいという三菱商事の意思から発した3社共同戦線であったと評されている[11]。
KDDIの視点——2019年提携の延長線上
KDDIにとって、今回の踏み込みは2019年の提携の延長線上にあった。2019年12月、KDDIはローソンおよび共通ポイント「Ponta」を運営するロイヤリティマーケティングと資本業務提携し、ローソン株の一部を取得した[12]。2020年以降は自社のau WALLETポイントをPontaポイントへ統一し、au IDとPonta会員IDを連携させて、会員基盤は約1億人規模に広がった[13]。ローソン店頭での決済サービスau PAYの利用促進も進めてきた。資本と顧客基盤の両面でローソンとの距離を縮めてきたKDDIにとって、TOBによる踏み込みは積み上げてきた提携を一段深める選択であった。
統合の経過
TOBの実行と非公開化の手続き
提携は段階を踏んで実行された。KDDIは2024年3月28日に公開買付けを開始し、買付期間は4月25日までとされた[14]。買付総額は約5,000億円で、三菱商事が保有する以外のローソン株を取得の対象とした。TOBは成立し、KDDIはローソンの主要株主となる。残る少数株主の株式は、その後の株式併合によって締め出すスクイーズアウトの手続きで取得する段取りであり[15]、ローソンを三菱商事とKDDIのみが保有する会社にする計画が描かれた。買付に先立っては、競争法に基づく手続きの完了も前提とされていた。
非公開化は予定どおり進んだ。ローソンは2024年7月3日の臨時株主総会で株式併合などの議案を可決し[16]、TOBに応じなかった株主の株式を強制的に買い取る手続きを整えた。これを受けてローソン株は2024年7月24日に東京証券取引所プライム市場での上場を廃止した[17]。コンビニ大手の一角として長く株式市場に名を連ねてきたローソンが、市場から姿を消した瞬間であった。証券コード2651はここで使われなくなり、ローソンは三菱商事とKDDIという2社の傘下で非公開企業として再出発することになった。
統合の帰結
50%ずつの共同経営へ
共同経営の体制は2024年8月に整った。株式併合で生じた端数株式がKDDIへ譲渡され、2024年8月15日付で三菱商事とKDDIのローソンに対する議決権はそれぞれ50%となった[18]。これにより三菱商事はローソンを連結子会社から持分法適用会社へと区分を改め[19]、ローソンは両社が折半で保有する共同経営会社となった。単独の親会社による支配から、通信と商社という異業種2社が対等に経営へ関与する体制へと、ローソンのガバナンスは大きく姿を変えた。両社は店舗を起点に通信・金融・ヘルスケアなどのサービスを広げ、ポイント経済圏を拡大する方針を掲げた[20]。
完全子会社化を選んだ伊藤忠との対比
この帰結は、同業の選択と対照をなした。総合商社の伊藤忠商事が2020年にファミリーマートを完全子会社化し、小売を自社で抱え込む道を選んだのに対し、三菱商事はローソンを完全子会社にはせず、KDDIを共同経営のパートナーとして招き入れる真逆の選択をとった[21]。デジタルや通信に強いKDDIと組むことで、商社単独では届きにくい店舗のDXを取り込みつつ、出資を折半してリスクを分担する狙いがあったとされる[22]。持分法適用会社への転換は、ローソンの損益を単独で背負う立場からの転換でもあり、商社が小売を抱える形そのものを問い直す動きと位置づけられた。
- KDDI株式会社 2024年2月6日 ニュースリリース「三菱商事・KDDI・ローソン、資本業務提携契約を締結」
- 三菱商事株式会社 2024年2月6日 ニュースリリース「当社子会社(株式会社ローソン)の異動(持分法適用会社化)に関するお知らせ」
- 株式会社ローソン 2024年2月6日 適時開示「KDDI株式会社による当社株券等に対する公開買付けの開始予定に関する賛同の意見表明及び応募推奨並びに資本業務提携のお知らせ」
- KDDI株式会社 2019年12月16日 ニュースリリース「KDDIとローソン、資本業務提携に関するお知らせ」
- 日本経済新聞 2024年3月27日「KDDI、28日からローソンにTOB 5000億円投じ非公開化」
- 日本経済新聞 2024年5月21日「ローソン、7月24日に上場廃止へ KDDIによるTOB成立で」
- 日本経済新聞 2024年8月19日「ローソン、三菱商事とKDDIが50%出資に 手続き完了」
- 日本経済新聞 2017年2月10日「三菱商事、ローソンを子会社化 問われる『事業経営力』」
- ダイヤモンド・オンライン 2024年2月9日 猪股修平「三菱商事がKDDIと『ローソンを共同経営』する理由、ファミマを完全子会社化した伊藤忠とは真逆の選択」
- PRESIDENT Online 2024年2月26日 大関暁夫「なぜローソンとKDDIの『異例の提携』が実現したのか」
- ITmedia ビジネスオンライン 2024年7月3日「ローソン、7月24日上場廃止 KDDIとポイント経済圏の拡大などを目指す」