2009年にJack Patrick Dorsey(1976年生〜Twitter創業者)とJim McKelvey(1965年生〜・吹きガラス職人)によってSquare, Inc.を共同創業した。2人は古くからの知り合いであった。Jim McKelveyはガラス工房を経営する職人で、かつてはソフトウェアの開発に従事していた。
Squareはリアル店舗でクレジット決済を行うために、導入コストの抑制を目論んだ。そこで、高額なPOSではなくスマホアプリ(iPhone/Android)を端末として活用し、スマホでクレジットカードの情報を読み取る接続機器をハードウェアとして独自開発した。
スマホでクレジットカードを読み取る端末「Square Reader」を、はんだ付けを駆使して独自に開発。イヤホンジャックでスマホに接続するインターフェイスを採用した。材料費はわずか97セントであった。すぐに量産するために、Jim McKelveyは中国の深センを訪問して、現地生産するための協力工場を確保した。
なお、イヤホンジャックによる信号の読み取りは、Apple社が想定た用途を違反している可能性があった。そこで、Twitterを創業した有名人であるJack Dorseyを経由して、Appleのスティーブ・ジョブズに面会を要請。実際には土壇場でキャンセルとなったが、Apple Storeから、Squareのアプリが削除されるリスクを抑えることに成功した。この経緯から、Square, Inc.とAppleの取引関係が発展し、AppleでSquare, Inc.の端末を扱うことになったと思われる。
SquareReaderはスマホでクレカを読み取ることに特化した端末で、データ連携をPOSではなくスマホアプリ(iOS/Android)で行う点に特徴があった。Appの利用は無料であった。
スマホアプリにおける技術的に最も困難な点は、スマホ上で署名を行うことであった。このため、アプリエンジニアは、指で署名を滑らかに可能にするアプリケーションを開発するなど、独自の技術開発に注力した。
SquareAppの特色は、インストール時に米国内のSocialSecurityNumber(社会保障番号=SSN)の入力を必須とした点であった。理由は推察になるが、中小店舗がクレカ決済を導入する上での与信の問題を、社会保障番号の突合によってクリアしようとしたと推察される。すなわち、複雑な仕組みやデータが必要とされる与信プロセスを簡略化したという点で、Squareは画期的な仕組みを作り上げた。
Squareの収益はトランザクションごとに発生する決済手数料2.75%のみであった。
このため、SquareReaderの端末は無料で供給。SquareAppで利用申請を出すと、後日、住所にSquareReaderが無料で郵送され、クレジットカード決済の利用が可能になる仕組みを採用した。
ただし、Squareからクレジットカード会社への手数料は、決済ごとの変動手数料に加えて固定手数料を必要とした。このため、Squareとしては、少額決済の流量が増えれば赤字になる契約構造であったため、高額決済を増やしていくことを宿命づけられた。
店舗売上の精算のためには、U.S.Bankの口座が必須であり、売上計上から4〜5日を経て出金を可能とした。当時のクレカ決済としては、素早い入金サイクルであり、資金繰りが厳しい中小企業にとっては願ってもない仕組みであった。
スクエアの最初のカードリーダーにかかったお金は97セントだった。なぜなら私が手で作ったからだ。だから私はその全てについて話すことができる。厚みも、素材も。デザインも。
しかし、いまアントレプレナーになりたいという人は、アイデアをプレゼンして、シードインベスターから資金を貰って、アウトソーシングでプロトタイプを作りたがる。私は、それを正しいとは思わない。今、『いいアイデアを持っているから、投資して欲しい』と言う人には私は言いたい。『それでモノは?ないのなら今すぐ作りなさい』と。プロトタイプを作ってから資金調達をすると、景色が変わるからだ。私たちは資金調達が必要な時にはすでに完成品を持っていたから、全く困らなかった。たくさんのVCが次々に私たちに「出資したい」と会いに来た。
私たちは彼らにその場でクレジットカードを借りて、スクエアでカードを切って、『これがスクエアなんですよ』と実演して見せた。相手によって金額を変えてね(笑)。つまり私たちは起業家からお金を取って会っていた。
Jim McKelveyはガラス職人として製品を販売をする中で、自分が運営する店でクレジットカード決済が使えないことに不満を抱えていた。ある日、ガラス製の蛇口を売り出し他ところ、評判だったため2000ドルに価格設定をしたが、クレカ決済ができないことで機会損失する経験もしていた。
Jim McKelveyは自らの決済の悩みをJack Dorseyに話したところ、決済インフラをビジネスとして作る方向が決まった。Jim McKelveyは自らがリアルな店舗を運営していたことから、お店でクレカ決済を可能にする端末とソフトウェア(iOS/Androidアプリ)の開発をスタートさせた。
Jim McKelveyはクレジットカード会社が、中小規模の加盟店に対して高額な決済手数料を導入していたことに疑問を呈した。クレジットカード会社からすれば、リスクの高い零細加盟店に対して手数料を高額に設定することが当たり前であったが、Jim McKelveyはこの構造を問題視。クレジットカード手数料を引き下げる仕組みを作れないかを模索した。
しかし、Square, Inc.は自らが包括型の加盟店として、店子を募集する構造について、VISA・Mastercardから内規違反で訴訟を起こされるリスクを抱えていた。Jim McKelveyはVISA・Mastercardに対して、適法であることを証明する必要があったが、無名のベンチャーであるSquare, Inc.のために、大手クレジットカード会社が内規を変更するわけがなく、Squareは面会すら許されなかった。
このため、創業期のSquare, Inc.は常にクレジットカード会社からの利用停止及び訴訟リスク抱えた状態で、ビジネスをスタートした。
クレジットカード処理会社は、大規模商店での取引1ドルあたり0.04セントを儲けている。これに対して小規模商店だと1ドルあたりの儲けは1.8セント。小規模商店からの利益率は10億ドル規模の企業からの利益率の45倍だ。検算を3回やり直してから、やっとその数字が腹に落ちてきた。中小事業者は、巨人の45倍支払わされている。これで厄介な問題が見つかったので、起業の良い理由もできた。(略)
理屈からすれば、マスターカードはスクエアの活動を大喜びすべきだ。すクレジットカードのエコシステムに参加する商店を増やすのは、どのカード会社にとっても大きな利益だ。その一方で、マスターカードの運用規則は、カードがその場にあるアグリゲーションを明示的に禁じる文言を持っていた。これはまさにスクエアがやろうとしていたことだ。つまり、マスターカードの連中は、すでにうちみたいな事業を予想していて、そんなのご免だと思って、禁止する内規を作ったということだ。マスターカードの重役に、新しいことを試すよう説得するだけでは済まない。何十年も続いた内規をひっくり返すよう説得しなければならないのだった。
MastercardはSquareについて、違反として訴訟を起こすのではなく、自社の内規変更によって容認する態度をとった。これによって、Squareは大手クレジットカード会社から合法アプリケーションとして認められた。
クレジットカードのトップ企業であるVISAについても、マスターカードの容認を受けてSquareを認める態度をとった。ただし、2011年にSquareは資金調達にあたって、株式の一部をVISAが取得しており、資本面での利害関係を一致している。
大手クレジットカード会社との交渉を経て、Squareは合法アプリケーションとなった。これにより、1年余り続いた違法なベータ版を撤回し、正式版としてSquareをリリースした。
ピッチは完璧だった。プレゼンテーションには完璧な自信があったから、全精力を観客の反応を見るのに使い、必要な補正を行えた。スクエア社のビジョンを説明し、何百万もの新規商店がクレジットカードを使えるようにしたい理由も述べた。マスターカードがスクエアから直接利益が得られるのだという話もした。万事会長だったのだけれど、そこで僕は、エド・マクラフリン(注:マスターカードCTO)のマスターカードに1ドルを課金して、うちのシステムを実演して見せた。カードを小さなリーダーには知らせて、iPhoneの画面に指でサインしてくれとエドに頼んだ。エドはその通りにしてから、今のはシュミレーションかと尋ねた。ぼくは「ちがいます。これは本物で、あなたの口座から一ドル引き落としされています」と答えた。
エドは厳しい顔つきで部下たちを見渡してから、こちらを見た。「今きみがやったことは、弊社の運用規則に違反しているのがわかっているのかね?」
「ええ、わかっています」としか言わなかった。
だれも口を開かなかった。ジャックは、いつもの、お坊さんじみた平静さを示した。ぼくは足の指を丸め、なんとか呼吸を続けようとした。そして生じた静けさの間、ぼくは古いジェームス・ボンド映画みたいに床がパカッと開き、ジャックとぼくが獰猛な弁護士たちのプールに落とされるという幻覚を思い浮かべた。丸々20秒もの沈黙の後で、やっとエドが言った。「すると、こちらが運用規則を変えるしかありませんな」。そして部下たちに目をやり、うなずき、部屋を出て行った
すでにプロダクトがあることが投資家からの評価材料となり、2011年から2012年にかけて、セコイアキャピタルなど、複数の著名VCからの調達を実施
Squareは中小店舗でも手軽に導入できる点から、口コミやSNSを通じて拡散。2011年7月時点の流通総額は300万ドルを突破。2011年までSquareは、広告なしで毎週売上が10%増加するという驚異的な伸びを記録したという
Squareは購入者向けのスマホアプリとしてCashApp(Square Cash)をリリースした。従来はSquareReaderを軸とする加盟店向けが主力事業だったが、CashAppによって購入者アセットサイドに新規参入。利用者間の匿名送金サービスを提供。デビットカードからの引き落としで送金を実行するため、オークションサイトの決済での利用で活用された
2012年〜2014年にかけてSquareはStarbucksとの取引を行い、出資を受ける代わりに、スターバックス7000店舗におけるクレジットカード決済のすべてを処理する契約を遂行した。当初はベンチャー企業による大企業の顧客開拓として注目されたが、実際には決済手数料を割引したため、Squareは2500万ドルの損失を抱えた。Squareはスターバックスとの取引を2014年に終了した。
2014年にAmazonはSquareと競合する決済サービスに参入。これに対して、Squareの経営陣は動揺したが「従来通りの経営を行う」「経営方針は変えない」「手数料は値下げしない」という方向性を決定。1年後にAmazonは競合サービスの開発を中止し、SquareはAmazonの参入という危機を乗り越えた。
IPOを実施。上場時の時価総額は42億ドルであり、シリーズE(評価額60億ドル)からのダウンラウンドとなった
CashAppでは2014年からビットコインへの対応を模索していたが、当初は普及途上にあったため失敗。2018年に改めて、Jackはビットコインの普及を予測し、CashAppでビットコインに対応した。この決定により、CashAppはビットコインのバブルとともにユーザー数を拡大。FY2020に300万ユーザーが、CashAppでビットコインを購入
web構築サービスを展開するWeebly, Inc.を買収。ECサイト構築支援に本格参入
全米で年間アプリトップへ。FY2018において、CashAppのユーザー数が700万から1800万に増加。加盟店向けサービスであるSquareに加えて、購入者向けアプリのCashAppが収益源となり、ビジネスを大きく転換
CashAppでビットコインに続き、株式取引サービスを追加すると発表。決済・送金アプリから資産管理アプリケーションへの進出を狙う
Afterpayは2010年に創業されたオーストラリアの後払い決済(BNPL)の企業。当初は注目されない存在であったが、2018年にAfterpayは米国に進出し、若年層を中心にBNPLのシェアを拡大したことで、注目を集めるようになった。
2020年ごろのAfterpayの客層は、平均年齢33歳、女性ユーザーの割合78%であり、購入対象はファッションが中心であった。加盟店としては10万店を確保。ユーザーは、生活費の補填ためにBNPLを利用するのではなく、ファッションを中心にBNPLを使用したため、Afterpayは貸し倒れ率を低く抑えていた。
SquareによるAfterpayの買収価格は約2900億ドル(3.2兆円)であり巨額買収となった。この時期には、Klana(2004年創業)、Affirm(2012年創業)などが台頭して高い評価額を株式市場で獲得しており、Afterpayの評価額も高騰していた。
Squareの狙いは、Afterpayの買収によって決済を内製化し、購入者向けアプリであるCashAppへの粘着性をより一層高めることにあった。
クレジットカード決済ではVISAやMasterが業界を主導しており、決済停止の事業リスクを抱えているものと推察される。そこで、クレジットカード以外に決済手段を多様化させることで、リスクを分散。さらには、クレジットカードの決済代行の料率の引き下げのための、交渉材料を確保する狙いもあったと思われる。