2012年2月22日に康井義貴氏(当時26歳)は、ショッピングアプリを提供するために「Origami」を株式会社として設立した。2013年4月時点の本社所在地は東京都港区南青山7-8-14。普及しつつあったスマホに着目し、グローバル企業を目指して、英語圏でも日本文化として知られている「折り紙」を社名に採用した。
康井氏は金融キャリアを歩んでおり、投資銀行のリーマンブラザーズ(新卒入社した5ヶ月後に倒産)や、ベンチャキャピタルのDCMで勤務した経歴であった。このため、現金に変わるネット決済のサービス会社を将来的に目指す方向性に定めた。
ただし、いきなり決済領域に参入することは財務的な観点から難しく、まず康井氏は、起業にあたってスマホの普及に着目した。2012年時点での国内のスマホ普及率は途上にあったが、康井氏はスマホによるECが当たり前になる時代を予見した。そこで、ショッピングアプリ(2013年4月にOrigamiとしてリリース)の開発に着手した。
19歳からは投資活動も始め、プライベート・エクイティ・ファンドで投資分析に携わり、その後はリーマン・ブラザーズのM&Aアドバイザリーの仕事などを経て、昨年まで米国、日本、中国の3拠点で投資を行うドール・キャピタル・マネジメント(DCM)というシリコンバレーのベンチャーキャピタルに勤めていました。
そのときに感じていたのが、日本のベンチャーにはなかなか投資がしにくいということです。日本での投資先には、「ポケラボ」(ソーシャルゲーム開発)など、昨年、グリーに138億円で買収された会社もありましたが、相対的に見れば米国や中国に投資したほうが合理的という判断がなされることが多い。もっと日本から世界へ発展するビジネスがあればいいと思うようになり、「それなら自分で始めればいいじゃないか」とオリガミを立ち上げました。
2013年3月15日にOrigamiは、KDDIおよびグローバルブレインの2社から出資を受けたことを発表し、すでにDACから出資を受けた金額と合わせて、合計5億円の資金調達を完了した。
これらの投資家は、Origamiが試作していたiPhone向けショッピングアプリのUIを高く評価したと言われている。また、Origamiのアドバイザーとして、某ベンチャーキャピタルを経営する日本人のI.G氏が就任した。
出資と同時に、2013年にOrigamiはKDDIとの業務提携を締結した。この提携によって、OrigamiはauIDによるログインや住所入力の簡素化といった機能の実装が可能になり、auかんたん決済の利用をも予定した。
ただし、創業期のKDDIとの提携によって、Origamiは、のちにソフトバンク系のPayPayとの熾烈な競争に直面する布石となった。
資金調達と並行して、Origamiはショッピングアプリを利用する加盟店の誘致に奔走。この結果、4月のサービスリリース時点で「BEAMS」「3.1 Phillip Lim」「UNDERCOVER」といった有名店を確保した。
そして、2013年4月にorigamiはiPhone向けショッピングアプリ「Origami」をリリースした。アプリ内では買い物に加えて、ユーザーが気に入ったショッピに対する「いいね」や「シェア」が可能であり、ソーシャルなショッピングアプリとして注目を集めた。
2013年のOrigamiのリリースとともに、加盟店の一般募集を開始。アプリの利用開始(初期費用)や、マーケティングによるプロモーション、Origamiに掲載する料金は無料とし、代わりに商品が実際に売れた場合の手数料として「10%」を徴収することを公表した。
このため、アパレルなどの加盟店からすれば、商品が売れた場合に限って手数料が発生するモデルであり、Origamiを販売及び集客ツールとして導入するインセンティブがあったと推定される。
ただし、業績やユーザー数は不明であり、順調に売上高を拡大したかどうかは不明である。
「Origami」は、2年半くらい前にサービスがスタートして、スマートフォンでのオンラインショッピングに特化したプラットフォームを提供してきました。言い方によっては百貨店とかそういうものに近いですね、色々なお客さまが、毎日来て買い物を楽しんでくださっていて、ショップ数は数千まで増えてきました。モバイルが出てきてショッピングの仕方が変わったんですよね。
今までは、欲しいものがあってそれを探す(検索)というやり方でしたが、モバイルは全然質が違うデヴァイスで、隙間時間をいかに埋めるか、移動中などに時間をどう消費するか、と意識せずに使っている人がすごく多くて、電車の中でも10人中9人が触っているような時代です。このようにモバイルが浸透していくにつれて、今までの目的買い→衝動買いになってきたんですよね。
2015年にOrigamiは第三者割当増資によって、ソフトバンクやセゾンなどから合計16億円を調達した。この調達によって、Origamiは創業時からの宿願であった決済領域の新規事業(OrigamiPay)を開始した。
2016年5月19日にOrigamiは、リアル店舗においてスマートフォンで決済できる「Origami Pay」のサービス提供すると発表した。Origamiとしては、創業以来の宿願であった決済領域への新規参入となった。
サービスの発表は、AppleStore(東京表参道)にて行われ、タレントの鈴木おさむ氏と、Origamiの康井社長が対談を行った。WBSワールドビジネスサテライト(テレビ東京)でもOrigamiPayが紹介されるなど、リリース当初から注目を集めた。
日本国内では初となるリアル店舗向けのスマホ決済であった。このため、日本国内におけるキャッシュレスの先駆けとして注目を集めた。サービス開始当時はBluetoothを活用した決済だったが、使い勝手悪かったため、QRコードの決済に進化した。
【購入者向けの仕組み】
OrigamiPayのユーザーは「OrigamiPay」のスマホアプリをインストールすることで、決済を利用できた。
OrigamiPayに対応した加盟店で利用することができた。代金の支払いはOrigamiPayのアプリに事前登録したクレジットカードから引き落とされた。アプリを利用して決済を行うと、割引を受けることができる点がユーザーにとってのメリットであった。
【加盟店向けの仕組み】
Origami Payは、当時としては珍しいQRコード決済であった。購入者は事前に「OrigamiPay」のアプリをインストールし、加盟店における決済で利用できた。加盟店では導入端末によって3つの支払いパターンが存在した。
1つ目はPOS型であり、購入者がOrigamiPayのアプリでバーコードを表示する方式であった。バーコードに金額情報が含まれるため、店員が金額入力する必要がなく、素早い店舗での決済が可能になるメリットがあった。ただし、POSレジのOrigami導入対応が必要で、導入コストが高いデメリットがった。
2つ目はタブレット型であり、購入者が加盟店のタブレットに表示されたQRコードを読み取る方式であった。タブレットのためPOSよりは導入コストは安いが、iPadに金額を入力する必要があり、店舗での決済時間が長くなるデメリットがあった。
3つ目は固定QR型であり、加盟店があらかじめ紙に印刷したQRコードを、購入者がOrigamiPayのアプリで読み取る方式であった。QRコードを印刷するだけなので導入コストは安いが、顧客がOrigamiPayのアプリで決済金額を入力する必要があり、煩雑性を伴うデメリットがあった。
OrigamiはOrigamiPayを普及させるために、それぞれの端末導入のメリット・デメリットを勘案して営業攻勢を本格化した。
「Origami」としては、ようやく0(ゼロ)章が終わって、これから1章のスタートというところですね。元々、決済事業、金融のインフラを造るために立ち上げた会社です。お店と顧客のIDをつくって、eコマースでそれを繋ぐ、というプラットフォームをつくり、ようやくその土台が出来てきたので、それを最大限に活用して、リアルショップでも「Origami」をお財布代わりに買い物ができるという展開にこれから進みます。(略)
そしていよいよ、決済分野に参入します。色々なショップで売上が伸びてきて、今度はもっと本質的に、ショップと消費者を近づけるサービスを提供しよう、と。スマホがあれば電車の中はもちろん、どこに行ってもモノが買える、これが店頭でもモノが買えたらどうだろう?その場に既に在庫があって、eコマースの仕組みを使って実店舗で買い物ができたら?「Origami」決済として、「Origami」からもショップからも特典が受けられるようにして、お客さまに店頭で他の決済方法と「Origami」決済のどちらかを選んでいただきます。つまり、現金と競争するサービスを今後提供していきます。
OrigamiPayはリリースされて12ヶ月で加盟店2万を確保し、順調に加盟店を確保した。
なお、OrigamiPayはユーザー確保のために、支払い代金の5%〜10%を割引還元する施策を打ち出していた。ユーザーにとっては、還元がOrigamiPayを利用するメリットであり、Origamiは販促費に投資することでユーザー数を徐々に確保していったものと推察される。
なお、販促費の拠出は、Origamiではなく、加盟店が主体であったと推察される。加盟店としては、Origamiのアプリ内にユーザーの行動履歴があることから、マーケティングの材料としての価値があり、これを利用する対価として販促費の拠出を正当化したものと思われる。
例えば、オンラインの世界ではアマゾンなどで物を買うと翌日にはFacebookのフィードにおススメが出てくるようなマーケティング戦略が行われています。 ID情報さえ取れれば、オフライン、つまり店頭でも同様の戦略を取ることができる。顧客情報の付加価値に対して、Origamiは店側や広告主から販促費を若干いただく。それを、今度はOrigamiから購買するお客様に還元していけたらハッピーではなですか。
例えば、『5%オフ』といった値引き還元によって、現金やクレジットカードで支払うより安く物が買えますから。店側も集客につなげる機会を創出できるというwin-winの状況が作り出せます
2018年4月にOrigamiは、みずほ銀行および三井住友銀行と提携することを発表した。提携の狙いは、銀行口座との連携であった。
OrigamiPayをアプリ上から操作することで、各銀行口座と連携することができ、決済時にリアルタイムで口座から金額が引落せるようになった(口座振替ではなく、即時引落し)。なお、みずほ銀行の場合、ネットバンキングのIDなしても、口座からの引き落としが可能になる点で、UXが改善される期待があった。
2018年9月にOrigamiは、SBI、JCB、セゾン、銀嶺、三井住友カードなど10社(組合)から、累計66億円の資金調達を第三者割当増資により実施した。Origamiにとっては最後の大型調達であった。評価額は不明だが、2019年時点で日経新聞(2019/11)はOrigamiの企業価値を417億円と算定した。
資金調達の用途は、OrigamiPayにおける投資の継続と、ECサイト向けにOrigamiPayの開発を行うことであった。すでに、EC向けのAPI提供の第一弾として、すでに2018年1月にセゾンが提供するアプリの決済手段として、OrigamiPayの提供を開始しており、APIの提供範囲の拡大目論んだ。
なお、Origami創業者の康井義貴氏は、財務基盤を充実させることを重視しており、大型調達の第一歩であった。
2018年4月ごろにOrigamiは本社を「六本木ヒルズ森タワー31F」に移転した。オフィス所有者の森ビルに対する年間家賃は数億円と言われており、66億円の資金調達から一部を充当する形で「家賃・敷金・保証金」を捻出したと推察される。
2018年10月にPayPay(ソフトバンク。Yahoo系列)はQRコード決済に参入した。ソフトバンクは2015年にOrigamiに出資していたものの、Origamiと競合する道を選択する。
2018年11月にPayPayは「100億円あげちゃうキャンペーン」の展開を開始し、以降も、数百億円の販促費用を投資した。この結果、PayPayは、QRコード決済において後発参入ながらも、サービス開始から10ヶ月で1000万ユーザーという驚異的なスピードで顧客を確保した。顧客獲得と並行してPayPayは全国における店舗への営業を強めて、加盟店数もを大きく伸ばすことで、QRコード決済のトップ企業に躍り出た。
PayPayの投資攻勢に対して、QRコード決済の先発企業であったOrigamiや、LinePayなどは苦戦を強いられた。特にOrigamiは、直前の資金調達額が66億円であり、PayPayの数百億円の販促費の前に有効な対処策を見出すことができなかった。一方のLINEはYahoo系のZホールディングスの傘下に入る道を選択した。
この結果、Origamiは、PayPayの巨額投資に直面して、先発参入としての利点(加盟店確保・顧客獲得)を生かすことができず、QRコード決済において深刻な業績不振に陥った。
2019年を通じてQRコード決済の競争が激化した。Origamiは苦戦したと推察されるが、2019年2月時点において、Origamiはキャッシュレスの主要企業として注目を集めていた。
2019年12月決算でOrigamiは売上高2億円に対して、44億円の最終赤字を計上した。PayPayに対抗するための販促費が、PLを毀損したと推察される。
この結果、Origamiは2019年12月末時点で、総資産16億円(うち負債の部14億円)となり、資金調達に失敗した場合に、事業の継続が困難な状態に陥った。
そして、2020年2月にOrigamiは「OrigamiPay」のサービス終了を決定した。2020年1月時点でOrigamiPayのユーザー数は2300万ユーザー、加盟店数は19万であり、大規模アプリの消滅として注目を浴びた。
2020年2月に関係者は、Origamiがメルカリに対して、1株1円で売却されたことを公表した。このため、Origaの実質的な企業価値は0円に近い状況であったことが判明した。
従業員185名のうち大半は解雇の対象となった。例外的に、OrigamiのCTO(野澤貴氏)や、シニアディレクター(伏見慎剛氏)などの特に優秀な社員は、メルカリの決済子会社(メルペイ)に社員として迎え入れられたが、大半のOrigamiの社員はメルカリに移籍することなく転職したと推察される。なお、元Origamiの社員の転職先は、SmartHRなどのテック企業であると思われる。
なお、Origamiの創業者である康井義貴氏は、2020年以降、メディアへの露出はなく、近況不明となっている。
2019年4月時点のOrigamiの役員(取締役を含む)のチームは創業者を含めて10名から構成されていた。これらの役員について、当時から5年が経過した2024年5月時点の現況は表の通りである。
なお、いずれの役員も経歴が華やかであり、ゴールドマンサックス、フェイスブック、未踏、CCC、経産省などの出身者であり、2019年時点のOrigamiの経営に従事した。
Origamiにおけるプロダクトや事業開発に携わった重要人物については、メルカリ、LINE、楽天といった有力企業のグループ会社の役職につく傾向があった。これは、有力企業からすれば、複雑な金融知識を持った事業担当者は貴重であったことを意味する。
一方で、法務・財務・マーケティング・社長室といったプロダクト及び事業開発から少し距離のある役職者については、有力企業に転職は確認できず、起業家やマイナー企業への転職が目立っている。これらの職種では、プロダクト開発というメインストリームから外れており、転職市場にも専門家が大量に存在することを映し出していると思われる。
したがって、転職市場からの引き合いはあるものの、好条件を伴う業界トップ企業への転職には苦戦しているように見える。このため、Origamiの元経営陣のその後のキャリアについて、担当する領域の「希少性(プロダクトとの接点の濃さ)」によって、明暗が割れたのかもしれない。
かろうじてトップ企業に転職した各氏についても、事業再編や改革の波に巻き込まれており、決して順風満帆ではない様子も窺える。
例えば、金融事業ディレクターを担当していた正木美雪氏は、古巣のヤフーに近い「LINE証券」の共同社長を歴任しているが、2024年3月に口座閉鎖などの厳しい局面を迎えており、撤退戦の陣頭指揮をとっていると思われる。
いずれも順風満帆ではいかない理由は、金融業界の特性に起因する側面がある。そもそも金融業は(基本的に)コモディティーであり、業界内で競争の激しい競争が待ち受けている。個々人のスキルで解決できる範疇を超えたところにビジネスの決定要因があることも多い。この結果として順調にキャリアを積み上げつつ勝ち抜くことは、「優秀な人材」が束になってかかったとしても、それほど容易ではないことを示唆している。
金融業でありながらもコモディティーを回避する事業(ビジネス)も存在するが、この辺りを洞察したり、発見するのは至難であるという面もある。ゆえに、一部の人物は、起業に舵を切って自己実現に邁進するのだろう。
ある種、業界のドリームチームであったOrigamiの消滅は、その後についてあまり語られることがない。一つの企業が消滅するリアリティーを含んでいるため、静かに、記憶しておきたい。