歴史概要 — 現在に至るあゆみ 主要な意思決定と帰結のまとめ
創業大学在学中に腎臓病で摘出手術を受け長期入院を経て中退した苗代亮達氏は、体力的に勤め人を続けられず1人でも回せる事業を探した。選んだのは施工単価4〜5万円のバリアフリー専門の住宅改修で、実父・苗代明彦が営む石川県金沢市の建築会社アイテム(1979年設立、2001年に株式会社化)のなかで立ち上げた事業だった。介護保険給付の対象となる小口の住宅改修は単価が低く既存の工務店が敬遠していた。その競合空白に専業で入り、案件件数で稼ぐ事業構造を石川県で築いた。
決断2006年に介護事業へ参入し2011年に社名をサンウェルズへ改めた苗代氏は、2018年6月、パーキンソン病患者専門の有料老人ホームPDハウスを石川県で立ち上げた。一般施設では病状の悪化を防げないこの患者層に、脳神経内科医の訪問診療と1日複数回の服薬管理、専門リハビリ室を備えた。介護報酬に医療保険売上を組み合わせて1床あたりの月次売上を引き上げ、2022年に東証グロースへ上場し、FY24には全国56施設・売上265億円まで伸ばした。
決断の理由 — クリティカルな歴史の転換点を読み解く
- Q なぜ2001年前後に、腎臓病で大学を中退した苗代亮達氏は単価4〜5万円の住宅改修を選んだのか
- A 腎臓病で長期入院し25歳まで社会に出られなかった苗代亮達氏は、体力的に勤め人を続けられず、1人でも回せて他社と競合しない事業を探す必要があった。2000年4月の介護保険で要介護高齢者の手すり設置などに国が9割を給付する仕組みが整った一方、給付対象工事の上限は20万円と小さく、施工単価4〜5万円の小口工事は採算が薄いと既存の工務店が敬遠していた。その競合空白に専業で入れば、案件件数で稼ぐ事業として成立すると見たためである。実父・苗代明彦が営む金沢の建築会社アイテムのなかで、苗代氏はこのバリアフリー専門の住宅改修を立ち上げた。
- Q なぜ2018年に、苗代氏はパーキンソン病患者専門の有料老人ホームに踏み込んだのか
- A 自社の介護施設に入居していたパーキンソン病患者約30名が、一般施設では一律の生活支援しか受けられず服薬管理や転倒予防が届かないまま病状を悪化させていく。苗代亮達氏はこれに疑問を抱き、自身が腎臓の専門医と出会って回復した経験から専門医の関与が成否を分けると考えた。脳神経内科医が訪問診療する専門施設は国内外になく、人と同じことをしない方針とも合致した。2018年6月、石川県で立ち上げたPDハウスは、訪問診療の脳神経内科医・1日複数回の服薬管理・専門リハビリ室を備え、介護報酬に医療保険の訪問看護売上を重ねて1床あたりの月次売上を引き上げる構造を取った。
- Q なぜ2025年に、急成長を支えた医療保険併算モデルが不適切請求として行き詰まったのか
- A PDハウスの収益は介護報酬に医療保険の訪問看護を重ねて1床あたりを引き上げる構造だったが、各施設の売上高目標が1日3回・複数人で訪問しなければ届かない水準に設定され、必要性の薄い夜間入眠中の入居者にまで訪問が広がった。睡眠センサーの確認や数分の見回りを約30分の訪問看護として記録する運用が常態化し、過剰請求は試算で総額約28億円・件数17万件超に及んだ。医療保険売上の計上方法そのものに疑義が生じたため、2025年5月にサンウェルズは中期経営計画を取り下げて夜間訪問を絞り、1施設あたりの採算が落ちた分を苗代亮達社長個人の寄付で穴埋めする構造改革に入った。
歴史詳細 - 3つの時代区分で読み解く
2001年〜2017年 腎臓病で大学中退した28歳のバリアフリー工務店
長期入院から介護に向かった苗代亮達
苗代亮達氏は、大学在学中に腎臓病を患い、長期入院を経て大学を中退した経歴を持つ。退院後、通常のサラリーマンとして勤め続ける体力的な余裕がないなかで、自分1人でも回せる事業に活路を求めた。苗代氏が手がけた最初の事業は、施工単価4〜5万円の手すり設置・段差解消等を請け負うバリアフリー専門の住宅改修だった。これは、実父・苗代明彦が建築業として営む有限会社アイテム商業建築研究所(1979年設立、2001年8月に株式会社アイテムへ組織変更)のなかで立ち上げられた事業である。苗代氏自身は1999年12月に同社へ入社し、2002年3月に代表取締役へ就任した。後年に苗代氏が語った経営観の根底には、他者と同じことをやっていては成功できないという確信があり、競合の少ない領域で独自ポジションを取る発想は、この最初の事業からすでに表れていた[1][2][3][4]。
祖業のバリアフリー住宅改修は、小規模な手すり設置・段差解消等の改修工事を中心に請け負った。当時の建設業界では施工単価20万円以下の住宅改修案件を専門に扱う事業者がほとんど存在せず、競合空白地帯で受注を積み上げる事業構造を作った。背景には2000年4月施行の介護保険制度があり、要介護認定を受けた高齢者の住宅改修に対して上限20万円までの保険給付が下りる仕組みが整っていた。介護保険給付の対象工事は単価が小さく従来型の工務店が手を出しにくい一方、保険申請手続きと小口工事の標準化さえできれば、案件件数で稼ぐビジネスとして成立する余地があった。アイテムはこの空白を埋める専門業者として、石川県内で従業員10名規模に成長した[5]。
古民家デイサービスからの介護事業参入
2006年9月、苗代氏は通所介護サービスの提供を目的に、サンウェルズの前身となる株式会社ケア・コミュニケーションズを石川県金沢市に設立し、介護事業に参入した[6]。きっかけは古民家を利用したデイサービスの事業モデルに着想を得たことで、建物の新築や全面改修ではなく、既存の古民家を介護施設に転用する手法で初期投資を抑える運営方式が想定された。2000年代後半の介護業界は介護保険制度の浸透で需要が拡大する一方、大手の事業者が都市部の収容人数が多い施設に集中する流れがあり、地方の中規模・小規模施設の運営を担う事業者は分散していた。住宅改修の延長線で高齢者向けサービス事業に踏み込む転換が、ここから始まった。
2011年4月、ケア・コミュニケーションズは実父の建築会社アイテムの子会社2社を吸収合併して株式会社サンウェルズへ商号変更し、同時にアイテムの子会社となった[7]。苗代氏はこのとき同社代表取締役社長に就任した。介護参入から5年、バリアフリー住宅改修と介護施設運営の2本柱で地方の中堅事業者としての事業基盤を整えた段階だった。日本の介護業界はこの時期、団塊世代が65歳以上に到達し、認知症高齢者の急増と特養待機者の長期化という構造課題が顕在化していた。介護施設の供給は需要に追いつかず、要介護度の高い高齢者ほど受け入れ先が見つからない状況が広がっていた。サンウェルズはこの構造のなかで、より医療依存度の高い患者を専門に受け入れる施設運営に活路を見出そうとしていた段階である。創業地の石川県は人口減少が進む一方で高齢化率が全国平均を上回り、地方発の介護事業者にとって需要の実証実験を行いやすい環境にあった[8]。
2018年〜2024年 パーキンソン病特化「PDハウス」モデルの確立と急成長
介護施設運営から見えたパーキンソン病患者の専門ニーズ
2018年6月、サンウェルズはパーキンソン病患者に特化した有料老人ホーム「PDハウス」を石川県内に新設し、本格展開を始めた[9]。背景にあったのは、苗代氏が介護施設運営を通じて観察してきた構造的な課題である。通常の介護施設では入居者全体の生活支援を一律に提供するが、パーキンソン病患者は症状が進行するにつれて服薬管理・転倒予防・嚥下管理など個別のリハビリと医療的ケアが必要となり、一般施設では病状の悪化を防ぎきれない。一方、医療機関は治療が中心で長期の生活支援には向かず、患者と家族が在宅・施設・病院の間を行き来する状況が続いていた。サンウェルズは「PDハウス」を、訪問診療を行う脳神経内科医との連携・1日複数回の服薬管理・特殊な手すり配置とリハビリ室を備えた専門施設として設計し、パーキンソン病患者の生活と医療の中間領域を埋める独自ポジションを取った[10]。
PDハウスのビジネスモデルは、介護報酬と医療保険の両方を組み合わせる点に特色があった。入居者は要介護認定を受けた高齢者として介護報酬を受給する一方、訪問看護ステーションと連携することで医療保険による訪問看護サービスも併用できる。介護報酬単価が低い有料老人ホーム事業に対し、医療保険売上を組み合わせることで施設1床あたりの月次売上を引き上げる構造である。2019年6月にはPDハウス野芥で福岡県内にも進出し、石川県外への多地域展開を始めた[11]。当初は石川県内の試行運営だったが、専門ノウハウの再現性が確認できた段階で、他県への展開を急いだ。同社の事業構造は、介護施設運営に医療連携を組み込んだハイブリッド型として、業界内では新興の事業モデルだった。
東証グロース上場と140施設構想
2022年6月、サンウェルズは東京証券取引所グロース市場に株式上場を果たした[12]。上場の狙いは資金調達と知名度向上で、特にPDハウスの全国展開に必要な介護職・看護師・脳神経内科医との連携網を全国規模で整備するため、採用ブランドの確立が急務だった。2022年3月期の単体売上高は84.2億円・当期純利益2.5億円となり、上場前と比較して売上規模を3年で2倍以上に伸ばした。同年4月にはPDハウスが全国20施設・1,047床体制となり、待機者は200名超に達して施設数の限界が需要の天井に追いついていない状況が示された。FY23からFY25にかけての中期経営計画を初策定し、介護職の年間賞与を1ヵ月から2ヵ月に倍増(年間賃金8%引上げ)、本社管理部門を19名から38名に倍増させるなど、急成長を支える人材・組織への先行投資を進めた。
2023年3月、サンウェルズは年間設備投資74.8億円を計画し、PDハウスの全国展開に向けた集中投資期に入った。FY23の連結売上高は137.1億円、当期純利益7.8億円となり、PDハウス8施設の新規開設と既存施設の高稼働でドミナント効果が顕在化した。同年5月の決算説明会では中期経営計画をFY24からFY26までの3か年へ更新し、PDハウス開設計画の拡大と訪問診療を行う脳神経内科医との提携強化を盛り込んだ。期末配当は6→8円増配、翌期は更に4円増配予想とし、株主還元の姿勢も明確化した。FY23時点で従業員数は2,435名(単体)に達し、上場前のFY20の707名から3年で3.4倍に増えた。スタートアップから急成長中堅企業への移行期だった。
2024年9施設新規開設と経常利益2.5倍
2024年3月期、サンウェルズはPDハウス9施設の新規開設を完遂し、早期集客と既存施設の高稼働で上方修正後の予算をプラスで着地した[13]。当期純利益は前年比約2.6倍の20.3億円となり、9施設の拠点拡大が単年度の収益を押し上げた[14]。
2024年5月の決算説明会では、FY25からFY27までの3か年を対象とする新中期経営計画の発表と並行してナース・ヘルパーステーション統合集約による管理体制強化を打ち出し、急増する施設数を支える本社機能の集約を進めた[15]。2025年3月期の単体売上高は264.96億円となり、2021年3月期の54.05億円から4年で5倍弱の規模に達した。介護業界全体が人手不足と単価据え置きで成長余地を見出しにくいなかで、パーキンソン病特化という疾患特化型ニッチで業界水準を上回る成長速度を実現した、新興の介護スタートアップとして注目を集めていた段階である。
2024年〜現在年 訪問看護の不適切請求問題と新体制での構造改革(2024〜現在)
2025年2月の不適切請求問題発覚
2025年2月14日、サンウェルズは訪問看護の不適切請求問題を巡って臨時の決算説明会を開いた[16]。苗代社長は中期経営計画における施設数の見直し可能性に言及し、事業拡大のスピードが速く現場の声を聞きづらくなっていたとの認識を示して[18]、2030年3月期までに140施設を達成する従来の中期経営計画目標が困難となったことを認めた[17]。不適切請求の中心は、夜間入眠中の入居者に対する訪問看護記録の問題で、医療保険の訪問看護サービスを介護保険給付対象の生活支援と並行で計上する運用が、本来必要な看護ニーズに照らして過剰だった可能性が指摘された[19]。サンウェルズの収益構造はPDハウスの介護報酬に医療保険売上を組み合わせる仕組みであり、この医療保険売上の計上方法に疑義が生じたことは、事業モデルそのものへの問い直しを意味した。
2025年5月のFY25決算説明会では、中期経営計画を正式に取り下げ、抜本的な運営体制の見直しを宣言した[20]。全施設で訪問看護計画を再策定(特に夜間入眠中の訪問を見直し)、人員配置の適正化と1日あたり報酬・人員の計画修正で、医療保険売上は約80万円から60万円水準へ低下する見通しが示された。事業モデルの根本転換であり、一時的な労務費率上昇と医療保険売上の縮小を覚悟する判断だった。苗代社長は北國新聞の取材に対し、東証プライム市場区分からグロースへの市場区分変更も検討する可能性を表明した。2022年の上場以降、急成長によりプライム昇格を果たしたサンウェルズにとって、不適切請求問題に伴う事業規模見直しと並行して、市場区分も縮小方向に再調整する流れとなった[21]。
2026年3月期の構造改革と新「包括型訪問看護療養費制度」対応
2026年3月期、サンウェルズは構造改革に踏み込む決算となった。計画通りPDハウス13施設を開設し合計56施設運営、既存施設の入居率87%・新規施設45%で着地し、当期純損失は16億円の赤字を計上した[22]。代表取締役社長からの寄付により当期純利益は予算比+6.25億円で上振れする変則的な決算となり、創業オーナーが個人資産を投じて単年度の業績を補正する形でグループの財務基盤を支えた。2026年6月から新設される「包括型訪問看護療養費制度」への対応と、倫理研修・法令研修の全社継続が強調され、訪問看護の医療保険請求を巡る制度環境変化への対応がグループ全体の最優先課題に据えられた。
2025年4月以降の体制は、創業者・苗代亮達氏が代表取締役社長を続投する一方で、[23]運営本部長・経営戦略本部長・人事企画本部長など中間管理層の役職を集約・統合する組織再編が進行している。FY24の役員構成からは越野亨専務取締役・長山知広取締役(経営戦略本部長)・中山美智代取締役などが退き、苗代社長と監査等委員4名・取締役コーポレート本部長(上野英一氏)の最小単位に近い構成へと絞り込まれた[24]。創業以来の苗代氏単独経営の色合いが、不適切請求問題の発覚後により強まった。サンウェルズの今後の論点は、パーキンソン病特化という独自ポジションを維持しつつ、医療保険売上に依存した収益構造を介護報酬中心の収益構造に作り替えられるか、そして急成長期に拡大した本社管理機能と現場のガバナンスを再整備できるかにある。1施設あたりの収益性が低下した状態でも事業を継続できる体質に転換できるかが、創業者個人への依存から脱却するための前提条件である。