歴史的背景
1955年に工作機械の再活用を起点として二輪車事業に参入して以降、同社は輸出拡大を軸に二輪車の量産体制を整え、マリン(船外機)やロボティクス等へ事業領域を拡張してきた。2009年12月期には金融危機下で大幅赤字と構造改革費用を一括計上し、生産拠点・固定費の見直しを通じて損益分岐点を基準に運営する前提へ切り替えた。
2019年に長期ビジョンを掲げた後、2022〜2024年は事業ポートフォリオの再構築と収益性の改善を進めたが、インフレやサプライチェーン課題、デジタル化の加速、モビリティ需要の質的変化など外部環境は変動し、経営計画における未達が発生した。こうした状況を踏まえ、2025〜2027年はコア事業の競争力を高めつつ、新技術の獲得を通じて資本効率と成長の両立を設計する計画として位置付けられている。
経営指針
計画期間はMC事業とマリン事業をコアとして資源配分を厚くし、プレミアム領域の構成比や大型船外機の販売比率を高めることで付加価値の源泉を再定義する。研究開発費は新中期期間で4,900億円以上を計画し、うちコア事業向けを中心に研究開発費を約750億円増額、設備投資を約760億円増額する方針を示し、成長の手段としてM&A資金枠3,000億円も設定している。
キャッシュアロケーションは、2025〜2027年のCash Inを7,800億円+αとし、Cash Outとして研究開発4,200億円、成長投資1,000億円、配当450億円、株主還元2,150億円を配分する設計を置く。財務KPIとしては売上高3.1兆円(2027年)、営業利益率9%以上、ROE14%・ROIC8%・ROA9%(いずれも3年平均)および総還元性向40%以上を掲げ、事業ポートフォリオをROIC基準で管理する枠組みと整合させている。
Author's Questions
なぜ、2025〜2027年は「コア事業の競争力強化」と「新技術の獲得」を同時に掲げる設計なのか
本計画では、MC事業およびマリン事業をコアとして資源配分を厚くしつつ、M&A資金枠3,000億円を設定し、新技術の獲得も成長手段として位置付けている。既存事業の競争力強化と新技術獲得は、投資対象や時間軸が異なるため、同時に推進する場合には前提条件の整理が必要となる。数量拡大や市場成長に依存しにくい事業構造への転換を進める中で、同社はどの程度のキャッシュ創出力と事業安定性があれば、両者を並行して成立させ得ると想定しているのか。
なぜ、ROIC・ROE・ROA・売上高など複数の経営指標を同時に掲げる設計としているのか
本計画では、事業管理の中核指標としてROICを置きながら、ROE・ROA・売上高・営業利益率といった異なる性格の指標を併記している。ROICは投下資本と事業収益の関係を示す一方、ROEやROAは資本構成や資産規模の影響を受け、売上高は成長の規模を表す指標である。これらを同時に掲げることで、どの指標を最優先とし、どの指標を制約条件として管理するのかが明示されていないようにも見えるが、同社はどの水準の成長・収益性・資本効率の組み合わせを計画成立の条件として想定しているのか。
なぜ、研究開発投資の拡大と株主還元目標を同時に設定しているのか
2025〜2027年において、同社は研究開発費を4,900億円以上(期間累計)とする一方、総還元性向40%以上を掲げ、配当および株主還元額も明示している。成長投資と株主還元はいずれもキャッシュの用途として競合し得るため、通常はどちらかを優先する設計も考えられる。本計画では両者を同時に数値目標として置いているが、これはキャッシュ創出力の水準、投資回収の時間軸、または財務余力について、どのような力学(社内組織および資本市場)が成立していることを意味しているのか。