1998年、24歳の藤田晋がインターネット広告の営業代行で創業し、クリック保証型広告「サイバークリック」で広告会社への転換を果たした。2000年に東証マザーズに上場して207億円を調達したが、ITバブル崩壊後は赤字が続き、村上ファンドの株主提案や終身雇用宣言など独自の経営判断で局面を打開した。2011年のスマホシフト宣言でモバイル対応を断行し、ゲーム事業を急拡大。2015年にはAbemaTVを設立してインターネットテレビに巨額投資を継続し、広告・ゲーム・メディアの三本柱で事業を構成している。
歴史概略
第1期: 創業とネット広告の確立(1998〜2004)
営業代行から広告会社への転換
1998年3月、藤田晋は人材会社インテリジェンスを退職し、東京都港区にサイバーエージェントを設立した。新卒時代のネット媒体営業の経験を武器に、まずはWebMoneyの営業代行契約を締結して自社プロダクトを持たない販売特化型で事業を開始した。同年7月にはクリック保証型広告「サイバークリック」の販売を開始し、営業代行企業からインターネット広告会社への転換を果たした。藤田は「実際にバナーやテキストがクリックされた回数で課金する」と説明し、2000回保証で14〜18万円という価格設定で中小企業を中心に顧客を獲得した。
システム開発はオン・ザ・エッヂ(のちのライブドア)に全面委託し、売上高の10%をロイヤリティとして支払う5年間の独占契約を締結した。自社での内製化に失敗した結果として外部委託を選択した経緯があったが、この契約により競合への技術流出を防ぎつつ広告媒体を急速に拡大した。2000年1月までに4728媒体を確保し、ネット広告市場の拡大期に乗じて事業規模を拡大した。
ITバブルの調達と崩壊後の試練
2000年3月、サイバーエージェントは東証マザーズに上場した。上場直前の評価額は1.5億円程度であったが、初値は公開価格の約14倍をつけ、時価総額は一時3900億円に達した。上場で調達した207億円の使途として投資育成事業を選択し、ネット関連ベンチャーへの投資を拡大したが、ITバブル崩壊により投資先の企業価値は急落した。
赤字が続くなか、2001年には村上ファンドが株主提案を行い、藤田の経営に対する外部からの圧力が強まった。2003年には「終身雇用宣言」を発表し、人材の定着と組織の安定を図る判断を下した。2004年9月に保有する投資有価証券の売却を通じて黒字転換を達成し、投資育成事業を正式に開始した。上場からの4年間は、バブル期の資金調達と崩壊後の事業整理が同時に進行した時期であった。
第2期: メディア・ゲームへの事業拡張(2005〜2014)
アメーバ事業の立ち上げとスマホシフト
2005年7月にアメーバ事業本部を新設し、ブログサービスを中心とするメディア事業に参入した。2006年にエンジニア採用を開始して技術組織の構築に着手し、2009年にはアメーバピグの提供を開始した。広告代理事業で培った収益基盤のもとでメディアの赤字を許容する運営が続いたが、2010年6月にAmeba事業が黒字転換を達成し、広告に依存しない収益源の構築に一定の成果を示した。
2011年5月、藤田はスマホシフトを宣言し、PC向けサービスの開発リソースをスマートフォン向けに集中的に再配分する決断を下した。業界に先駆けたモバイル対応の断行であり、2013年にはスマホ向け大規模プロモーションを実施して利用者の移行を加速させた。同年にはサイバーエージェントFXの株式を売却し、非中核事業の整理を通じて経営資源の集中を進めた。
Ameba事業の構造改革とゲーム事業の台頭
2014年9月、Ameba事業の構造改革が実施された。収益性の低いサービスを中止し、担当従業員数を1600名から800名へ半減させた。PC時代に構築されたサービス群をスマホ時代の事業構造に適合させるための選択と集中であった。この判断はスマホシフト宣言の帰結として位置づけられる。
スマホシフトに伴いゲーム事業が急速に拡大した。スマートフォン向けゲームの開発・運営が新たな収益源として台頭し、広告事業に次ぐ規模の事業セグメントに成長した。2004年に開始した投資育成事業も、スマホ関連ベンチャーへの投資を通じて事業シナジーを生み出すようになった。広告一本足から広告・ゲーム・メディアの三本柱への事業構造の転換が、この時期に形作られた。
第3期: AbemaTV投資とポートフォリオ経営(2015〜現在)
AbemaTVへの巨額投資と事業ポートフォリオの均衡
2015年4月、テレビ朝日との合弁でAbemaTVを設立し、インターネットテレビへの参入を果たした。累計投資額は1000億円を超え、AbemaTVの債務超過は1111億円に達したが、広告事業とゲーム事業の収益でメディア事業の赤字を吸収する事業ポートフォリオが維持された。2019年12月の株主総会では藤田社長の選任賛成比率が57.56%に低下し、機関投資家からAbemaTV投資に対する懸念が示された。
2021年9月期には連結売上高6664億円・営業利益1043億円の最高益を達成した。ゲーム事業「ウマ娘」のヒットによる大幅増益であったが、単体決算ではAbemaTVへの投資負担が継続していた。2022年にはウマ娘のヒットを背景にFIFAワールドカップの国内放映権を取得し、AbemaTVの認知拡大を図った。
成長鈍化とサクセッションの課題
2023年7月にFY2023の業績予想を下方修正し、ウマ娘のヒットの反動により経常利益の75%減益を見込んだ。ゲーム事業の変動性が事業ポートフォリオ全体の業績を左右する構造が顕在化した。同時期にはM&Aを積極化し、既存事業の成長鈍化を補う外部成長の取り込みを進めた。
2023年3月には藤田がサクセッションプランを公表し、社内から後継者を抜擢する方針を表明した。取締役会を中心にサクセッションプランが始動し、創業者の経営を次世代に引き継ぐための体制整備が進められている。創業から25年を経て、藤田のカリスマ的意思決定に依存してきた経営構造から、組織的な経営体制への移行が課題として浮上している。広告・ゲーム・メディアの三事業における収益バランスとAbemaTVの収益化が、今後の事業価値を左右する。
技術者ゼロ、自社商品ゼロ。藤田晋が選んだのはWebMoneyの営業代行という、いわば他人の商材を売る商売だった。しかしこの選択は、初期投資を極限まで抑えながら顧客接点と市場情報を同時に獲得する合理的な設計でもあった。営業現場で掴んだ『広告主は効果測定を求めている』という感触が、わずか4ヶ月後のサイバークリック参入に直結する。プロダクトを持たない創業が、逆に市場観察の自由度を高めた。