計画策定の背景
日本ペイントは1881年創業の老舗塗料メーカーとして国内市場を基盤に成長してきたが、長らく経営の中心は事業規模やシェアの維持に置かれ、資本効率や株主価値を最上位概念とする経営とは距離があった。2000年代以降、国内塗料市場の成熟と価格競争の激化に直面し、海外展開やM&Aによって成長を模索したものの、事業ポートフォリオ全体を貫く明確な経営原則は十分に確立されていなかった。
こうした状況に明確な転換点をもたらしたのが、2014年に始まったウットラム・グループ(Wuthelam)による戦略的関与である。同グループは、日本ペイントに対して経営の最上位目的を「株主価値最大化(MSV)」と定義し、EPS成長を唯一の成果指標とする経営モデルへの転換を促した。以降、持株会社体制への移行、自律・分散型経営、M&Aによる優良アセットの集積が進み、同社は従来の塗料メーカーから、キャッシュ創出力の高い事業を束ねる企業へと性格を大きく変えていった。本中期経営方針アップデートは、この2014年以降に確立された経営原則を前提に、その再現性と持続性を検証・強化する段階として位置づけられている。
経営指針
本中期経営方針では、「アセット・アセンブラー」としての経営モデルを一層徹底し、オーガニック成長とインオーガニック成長の双方を通じてEPSを安定的に積み上げることを最優先課題とする。全社共通の売上目標や利益率目標をあえて設定せず、各事業会社が自らの市場環境と競争優位に基づいて最適な成長経路を選択することを尊重する姿勢が明確に示されている。
M&Aにおいては、地域・事業領域・規模に制約を設けず、低リスクで高いキャッシュ創出力が見込めるアセットを合理的な価格で取得する方針を維持する。買収後は本社による過度な統制を行わず、自律性と説明責任を前提とした分散型経営を徹底することで、長期にわたるEPS成長の再現性を高める。数値目標を固定化しない姿勢そのものが、日本ペイントにおける資本規律であり、本方針はPERの拡大を通じた株主価値最大化を志向する経営の延長線として位置づけられている。