国内における製薬業界の再編を受けて、2005年2月に第一製薬(1918年設立)と三共(1899年創業)が経営統合で基本合意。2005年9月に第一三共株式会社を発足した。
経営統合の時点における主力製品は「オルメテック(オルメサルタン)」「クラビット」「メバロチン」の3品目であった。このうち「メバロチン」は2006年に米国で特許切れとなることから、成長が期待できる「オルメテック」のグローバルにおける販売拡大を、経営統合後の戦略の軸に据えた。
グローバルで後発医薬品に参入するため、インドの「ランバクシー・ラボラトリーズ」を約5000億円で買収した。日本国内の製薬メーカーとしても大規模な買収であり、注目を集めた。
ところが買収と前後してランバクシーにおける品質問題が発覚。2010年に米FDAはランバクシー子会社が製造した後発薬の承認を却下し、米国への医薬品の輸出が停止する事態に陥った。
2020年2月に第一三共は抗悪性腫瘍剤「エンハーツ」について、米国で発売を開始し、同年5月からは日本国内でも販売を開始した。
米国においては、2019年12月の段階で「転移性乳がん3Lの適用」における承認を獲得し、2021年には「転移性胃ガン2Lの適用」、2022年には「転移性胃ガン3Lの適用」を受けて、販売を拡大した。
エンハーツは、抗体薬物複合体(化学合成薬と抗体医薬の複合・ADC)であり、第一三共では2010年から研究を本格化。当初の研究開発陣は約15名で構成。抗体医薬では競合が多かったものの、ADCではチャンスがあると判断したという。ただし、グローバルでもADCによる創薬事例が希少であったことや、大手企業でも開発中止品が続出するなど将来性が不透明であり、第一三共の社内でも懐疑的な意見が多数存在したという。
ADCにおける技術の確立においては、旧三共における抗体研究、旧第一製薬における薬物「DX-8951」が利用されたことから、結果として第一三共の経営統合によって技術蓄積されたノウハウを活用する形となった。「DX-0951」を選定した理由は「乳がん」で発見され抗原に有効と考えられていた物質であったことが理由であった。
研究組織としては、2013年に「バイオ統括部」を設置し、ADCの開発が加速。2015年には第一三共の独自技術としてのADCを「DXd ADC」として対外発表するに至った。このため、エンハーツの開発発売に至るまでには、ADCの技術的な確立という困難を残り超える必要があった。結果として「エンハーツ」の発売成功により、前評判の悪さを覆す形となり、希少性を獲得するに至った。
2020年以降、第一三共において「エンハーツ」は同社の成長を支える基幹製品に育った。日本国内に加えて、北米、欧州で承認を受けたことでグローバルに販売を拡大し、年間売上高3000億円を超える「ブロックバスター」となった。
エンハーツの販売好調を受けて、第一三共の株価も高騰。2024年には第一三共の時価総額が10兆円を突破。国内の製薬メーカーでは中外製薬と第一三共が約10兆円で並ぶ形となった。
第一三共は好調な医療用医薬品に経営資源を集中するために、国内における後発薬の製造販売から撤退を決定。完全子会社の「第一三共エスファ(2010年設立)」について、調剤薬局であるクオールHDに売却した。クオールHDへの譲渡価格は250億円であり、株式譲渡は段階的に実行。