タイヤ向けの原料を安定供給するために、日本政府はブリヂストンとの共同出資の半官半民企業「日本合成ゴム」を設立した。だが、設立直後に経済不況に見舞われたため、2ヶ月間の工場停止に追い込まれるなど、波乱万丈のスタートとなった。だが、この結果として国策企業ながらも、利益を生み出すことにこだわる社風が形成された。
1960年代を通じてモータリゼーションが進展してタイヤの需要が増大するとともに、JSRの業績も上向き財務体質を改善した。これを受けて日本政府は「日本合成ゴム株式会社に関する臨時措置に関する法律を廃止する法律」を成立させ、JSRは民営化を果たす
1970年代から1980年代を通じて、JSRは合成ゴムに代わる新規事業を育成するために、フォトレジストに着目。合成ゴムの技術が転用できることに目をつけて、半導体製造における現像工程(回路印刷)で必要になるフォトレジストの開発に成功する。だが、日本の半導体メーカー向けには財閥系列の化学メーカーや、先発の東京応化がシェアを握っていたため、JSRは日本国内でフォトレジストの販売で苦戦する。
祖業の合成ゴム事業の収益性低下と、半導体向けフォトレジストや液晶材料といった新事業の利益が伸び悩んだため、JSRは最終赤字に転落。
半導体フォトレジストと液晶材料の販売を促進するために、世界各地のグローバル企業への技術営業を強化する方針を打ち出す。半導体フォトレジストではインテルやIBMといった米国企業や台湾・韓国の半導体メーカーを顧客として獲得するために、高額な半導体露光装置を研究のため導入するなどの投資を続行。この結果、JSRは日本企業ではなくグローバル企業の顧客獲得で頭角を現す。なお、米国事業の立役者は、巨大メーカーに対して技術営業に奔走した小柴満信氏(のちのJSR社長)とされる。
グローバル企業にフォトレジストを売り込むために、商号をJSR(Japan Synthetic Rubber)に変更
2000年代を通じて、JSRが開発したDUVレジストを、IBM、Intel、サムスンといったグローバル企業が採用。この結果、JSRは2006年にフォトレジストの世界シェア25%を確保する。
タイに合弁会社を設立し、エラストマー事業の海外展開を本格化。現地生産のための工場新設を決定し、FY2011からFY2018までの8ヵ年でエラストマー事業全体で約1000億円の設備投資を実行。アジアにおけるタイヤ需要の増加を目論み、現地生産を軸としたグローバル展開によりコスト競争力の確保を目論んだ
タイに続き、ハンガリーに合弁会社を設立。SSBRの現地生産のための工場新設を計画して2020年度に工場を稼働。欧州でのタイヤ需要の増加を見据えた
ライフサイエンス事業を強化するために、抗体医薬の創薬支援を手がけるCrown社を440億円で買収を決定。同社のFY2016の業績は、売上高73億円に対して当期純利益6.5億円。事業の数値目標は2020年度にJSRのライフサイエンス事業の売上500億円を据えており、当該目標は達成した(FY2020の同事業の売上高は504億円)
2009年から社長を務めていた小柴氏が社長を退任し、後任にエリック・ジョンソンがJSRのCEOに就任した。日本企業としては珍しい外国籍の人物のCEO就任として注目を浴びる。
エラストマー事業はタイとハンガリーの新工場建設の投資負担が重く、収益性のボトルネックになっていた。このため、JSRは祖業のエラストマー事業(FY2020売上高1431億円に対して営業損失17億円)からの撤退を決定し、海外事業を含めてENEOSへの設備売却を決定。売却時の事業価値は1150億円と算定。ENEOSは年間60億円のコスト削減を買収条件として提示したため、JSRは希望退職者の募集(募集100名に対して応募128名)を実施。事業構造改革費用840億円を減損損失(固定資産の減損・割増退職金)として計上した。この結果、JSRは最終赤字551億円に転落した。
2021年時点でValueActはJSRの株式8.3%を保有しており、取締役の派遣を決定。デイビッド・ロバート・ヘイル氏がJSRの社外取締役に就任した
EUV用メタルレジストの開発製造メーカーであるInpria Corporation社の買収を決定。同社は2007年に設立された企業であるが、最先端であるEUV向けのメタルレジストに強みがあった。業界の背景としては、2018年にオランダのALSM社がEUV光源による製造装置の開発に目処をつけたことで、半導体製造工程ではArFからEUVへの技術移行が明確化しつつある。そこで、JSRはArFからEUVシフトに対応するために、Inpria社の買収を決定。取得価格は565億円